風の贈り物

肩書

つぎのLTで俺は、みんなに、少しの驚きと、たくさんの期待でもって正式にこのクラスの演出として迎え入れられた。

「イツキー、決心着いたのねー!声かけてよかったー!」

「りょうちゃんなら、そうなるって思ってたー」

こいつら、まるで自分の手柄のように喜んでる。でも、手柄になるかはこれから次第だ。うまくいかなかったら、お前らはただの疫病神だからな、と心の中で毒づく。けど、実際こっからが大変なんだと思う。脚本決めて、配役をきめて、練習を始める。始めたところで、どうすればいいか見当もつかない。まあただ、実際脚本決まるまでは、大変なのは舞台監督だ。今日のLTでも話していたが、五月中に脚本を決定するには、残りLTは三回しかない。無造作に上げた脚本を来週までに絞って、残り二回で決定。ギリギリもいいところだ。


「イツキー、やっほー」

LTが終わり教室で勉強していたら、あこがやってきた。

「あんた、演出やるんだって?レイナから聞いた。がんばろうねー」

「おう。そっちは今どんな感じ、脚本決め?」

「そうねー、三作まで絞っていま、回し読みようの台本刷ってもらってるとこ。そっちは?結構遅れてるって聞くけど、大丈夫?」

「さあ、まだ絞るのは来週」

「ふーん。まあ、こればっかりは一人じゃどうしようもないしねー。焦らずやるしかないよねー」

焦らずねー。三浦さんは大丈夫かなあ。



「とりあえず、上がってた作品の台本、手に入れた分!」

「しょうこちゃん!ありがとう!」

俺の苦手な市川祥子は、最近脚本会議に毎回さんかしている。市川とは一年でクラスが同じだったが、なんかうるさいし、空気読めない系で、あんま喋ったことがないけど、すごく苦手だった。周りの影響もあったかもしれない。クラスでも少し浮いた存在だったから、よけい関わっちゃいけないという思いがあった。そういう風に思ってるやつも少なくないと思う。けど、三浦はそれを気にするでもなく、うまーく使いこなしてる。今日も、台本のありかを調べて持ってきてくれた市川を脚本会議のヒロインに仕立て上げた。

ふつうここまであからさまに仕立てたら、どちらかあるいは両方が冷たい目で見られる心配もあるけど、三浦の舞台監督としての初々しさみたいなのもあって、みんな自然と受け入れてる。結果として最近の市川は生き生きとしている。まあ、けど癖は強いけど悪いやつじゃないことは、おれもわかった。苦手なのは変わらないけど、前より、避けたい、とは思わなくなった。脚本の絞り込みについては放送部の経験も生かして色々とアイデアをくれる。今も、LTで脚本を絞るのではなく、LTまでに投票してLTでは脚本の印刷をしようという彼女の案が採用された。


そんな、脚本会議のあと、俺と三浦さん、会長副会長の四人で残っていた。

   「あのね、助監督と助演出もそろそろ目星をつけたいんだけど」

   そう言って役職アンケートを広げてくれた。

   「助監督、ハチやればいいんじゃねー、俺よりか仕事できるし、今までだって助監督みたいなもんだったし。」

「私もね、ハチくんに兼任頼めないかなって。どう?」

まあ、これは俺も同意見だ。

「いや、僕はやめた方がいいかなって。

「なんで?」

「なんていうか。僕は別に助監督じゃなくてもキャストとしてふつうに三浦さんのこと手伝おうと思うし、だからわざわざ肩書なんかなくてもって。それよりは、別に新しい人を助監督として迎えた方が、味方が増えるじゃない。」

なるほどな。

「うーん。ハチくんの言いたいことはわかった。私もちょっと他で考えてみる。助演出はどう思う?イツキくん」

助演出か、確かにどうしよう。

「複数人いるところや、キャストと兼任のクラスもあるみたいなんだけど、私は多すぎてもまとまらないし、キャストと兼任までして数は稼がなくてもいいかなーって思ってるんだけど。どう?」

「それは、俺も賛成。二三人でいいかな、ひとりは専任でいてくれると嬉しいけど。」

「オッケー、まあ、私も一応考えてみるけど、一番一緒に仕事するのは五木君だと思うから、また教えて!世良もハチくんも、おすすめいたら教えてね」




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