演出
放課後、帰り支度をしていると、哲朗がやってきた。
「亮ちゃん、今日の脚本会議、参加するんでしょ、帰っちゃダメ。」
「は?そんなこと言ってねーし。帰って勉強するもん」
「勉強なら、学校で一緒にやろうよ、終わった後に!」
「まじで言ってんの?」
「まじまじ!おれ、最近そうしてるよ」
やべーぞ、なんかいいわけ考えないと、この巨人に進路をふさがれては帰らんねー。
「っしゃー、今日も始めんぞー!」
まじかよ、世良が集合かけやがった。
「あ!イツキも今日は参加するのかー!歓迎するぞー!」
「俺は帰る!」
「聞いてくだけ?全然オッケー!さーみんなー始めるよー」
逃げらんねえ…。
こうして巻き込まれた脚本会議はいい脚本探しを行っていた。劇団のサイトや、過去の先輩の脚本、演劇部のサイトから探しているみたいだった。
「イツキはさー、どういう話がいいと思う?」
レイナのこれは誘導尋問かもしれない。これに答えたら、演出に仕立て上げられる危険がある。無視を決め込む。
「やっぱさー、感動系がいいっしょ!」
「ファンタジー!」
「ハッピーエンドなら何でも」
ふーん。けっこう悪くないんじゃない。コメディとかは、合わなさそう。これなら、ちゃんとメッセージ性のあるやつにまとまりそうだ。
ふと、三浦と目が合った。あいつ、いま俺のこと見てたな。何もしてないから、なんかさせられるかと、ビビったんだけど、特になにもなく、ほかの女子とおしゃべりを始めた。まだ、距離を測っているらしい。いっそ、向こうから頼んでくれれば、はっきり断れるのに。
「俺、イツキが演出してくれんなら、嬉しいなー」
突然、世良がぶっこんできた。は?そっち側?
「あー、たしかに、似合うかも。」
「いいじゃん、せっかく参加してんだし」
してねーって!
「やってほしいかも!」
口々に賛成の声が聞こえる。こいつら全部サクラか??そう思って、三浦の表情を盗み見ると、驚いたような顔をしてる。レイナも唖然としてる。これ、まじなやつ?哲朗は…こいつはいつもへらへらしてて何考えてるかわからんけど、こういうことするタイプじゃない。みんなの期待に満ちた視線がこっちを向く。
「…。考えとく。」
おおー!と、盛り上がる。まずいよ…。
「なんかちょっとかわいそうになってきちゃった。」
脚本会議がおわり、今日はニナと駅まで帰ることにした。
「男子たち、予想外の盛り上がりだったね。」
「ね、もうちょっと時間かけて決めるつもりだったのに」
大丈夫かな。もちろん、演出としては何も心配してないし、やるなら彼しかいないと思うけど、心の準備にはもう少し、時間ほしいだろうな。世良やハチくんが焦る気持ちはわかるけど。べつに、私は今はまだ他のクラスから遅れててもいいとは思うんだけどな。
「けどまあ、ハナの理由聞いてから、わたしも五木君しかいないなって思ったよ。それがすこし早まっただけだよ。ハナだって、そうして引き受けたんでしょ。気にすることないよ。」
「それもそうだね。」
話がひとりでに大きくなる前に、明日にでも一言声をかけようかな…。
『どうせ音響はしょこたんいるからってやめるんでしょ?ほかにやりたいのある?ないでしょ。』
『後悔しても知らないよー』
わかってるよ。わかってる。部活引退して、ちょっと暇だなって思ってた。劇の音響で一旗揚げてやろうって思ってた。音響以外でもちゃんとやりたいって思ってる。演出は俺に合ってる方の役割だ。けど、自信がない。世良みたいな求心力もないし、三浦みたいに誰とでもうまくやれる人間じゃない。かといって、あこみたいに誰にでもはっきりものを言うこともできない。けど…
『ハナちゃんがさ、あんたが指揮者してたの覚えてて、どうかなって』
『俺、イツキが演出してくれんなら、嬉しいなー』
信じていいか?その言葉。
五木君は今日の午前中、私が毎放課話すタイミングをうかがっても、一度も目を合わそうとしてくれない。嫌だったかなー。絶対いいと思うんだけどなー。はーあ、お昼食べたら、突撃しよ。と、購買に向かう途中だった。
「あの、話があるんだけど」
えええ!五木君!朝から一度もこっち見てくれなかったのに!
「おれ、演出、やるよ」
…!驚きのあまり言葉も出ない。
「その、レイナから聞いた、三浦さんが俺を演出に推してるって。最初は音響やるつもりだったんだけど、それも取り下げっちゃったし。俺でよければ、だけど…。」
「…もちろん」
やっとのことで声を振り絞る。伝えなきゃ、ちゃんと。
「わたし、クラスの名簿改めて見たとき、演出は五木君しかいないって思った。指揮とかもやってたし。私で手伝えることがあれば何でも、力になるし、言ってね。ありがとう!」
「おう。よろしく、舞監さん」
よかった。
「あ、じゃあ、舞監会でも報告するし、次のLTでわたしからもみんなに言うね。」
「五木亮哉?待ってやばいんだけど、おれ、そいつもしゃべったことない!何なの3B!未知すぎる!怖いんだけど!」
わたしが入江総監督さんに、演出が決まった旨を伝えるとそういって頭を抱えていた。
「別に大丈夫だよ。わたし、喋れたもん」
まあ、まだ一回だけど…。てか基本喋れない人とかいないし。
「大丈夫なんだな?今俺が信じれるのはお前しかいないぞ?信じるからな?」
「うん。信じて」
「なーんか軽いんだよなー?わかってる?自分の立場?」
「ストーップ!ハナちゃん、良かったね、演出さん決まって!」
「麻衣ちゃん!ありがとう!ほんとによかった!」
「じゃあ、脚本選びも頑張ってね!」
舞台監督、三浦花、第一関門突破です!
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