作戦

次の月曜日、早速ハチくんに五木くんの第一希望を消したわけを聞いた。

「はじめは音響ってかいてたんだけどね。なんかねー、僕がね、イツキに一回見せたんだよ。そしたら、やっぱこれ消してって。多分だけど、市川さんが苦手なんじゃないかなー。」

市川祥子。明るくていい子だ。脚本選定会も有志で来てくれてた。なのに、入江君をはじめとして、なんか苦手な人多いんだよねー。けど、そういうことなら、ますます、これ五木君演出ありじゃない?一番やりたかった音響が選択肢から消えて、きっとどれにするか迷ってるんだよ。消しただけで、繰り上げてないし!

「三浦さん…?」

「ありがと!なんかスッキリした!」

「う、うんそれはよかった!」

これはもう予感じゃなくて確信。そうと決まれば、作戦を練らなくちゃ!

 席に戻ると私はいそいそとプリントのうらに作戦を書き始めた。

「ハナ、楽しそうだねー」

おはよー、と音が声をかけてきた。

「オト!すごくいいコト思いついたの!あのね…」

五木君を演出に誘うことを伝えると、

「フルート少年!確かに!芸術肌だもん!適任だよ!」

よかった!音も同じ意見みたいだ。

「けどね、彼、人見知りそうだし、喋ったことない私が急に演出の話なんか持ちかけたら、引かれちゃう気もするんだよねーだから、だれか気を許してそうな人にまずそれとなく聞いてみてほしくて。誰がいいかなー」

「じゃあ、吹奏楽部のレイナちゃんに頼んだら?」

「それ、名案じゃん!」

吹奏楽部の子なら、指揮者をしている五木君も知っているし、説得力がある。しかも女子だから、私もしゃべりやすい。早速今日の休み時間にレイナちゃんを取り込みにいかなきゃ。



「イツキくんを、演出?」

「うん。彼、指揮者とかしてたじゃんね、みんなの表現をまとめるのが指揮者でしょう?うちのクラスには演劇の経験者いないし。できるとしたら、五木君かなと思ったんだけど、レイナちゃん、どう思う?」

「それ、めちゃいいと思う!」

「ほんと?」

「うん。指揮してた時もさ、クラスにいると、全然わかんないと思うけど、すごいちゃんと指示とかくれるし、意見も聞いてくれてた。だし、あいつ、自分で指揮者立候補してたし、そういう仕事嫌いじゃないんじゃないかな。」

予想通りだ。これは行ける!

「それに…、なんか、クラスでもそういう生き生きしたイツキを見たいなって私思うもん」

なるほど。どうやら、私の知らない五木君がいるらしい。これは期待。

「じゃあ、レイナちゃん、私が演出やってくれないか気にしてること伝えくれていいから、それとなく、引き受けてくれそうか探ってみてくれない?私がいきなり言って引かれちゃってもやだから。」

「オッケー了解!」

よーし!準備万端!




「なあ、ハチー、なんか三浦さん生き生きとしてない?」

「ねー。今朝から休み時間ずっと動き回ってる」

「演出にめどでもついたかなあ」

「さあ、けど、舞監でこれだけかかったんだよ、さすがにまだと思うんだけど」




「イツキー、なにしてるー?」

「あ?ゲーム」

レイナさんだ。部活のときはしゃべってたけど、クラスで話すのは久しぶりだな。

「今、ちょっといい?」

なんか楽しそうだ、こいつ。危険な雰囲気を感じて黙ってると、勝手にしゃべりだした。

「演出、あんた興味ない?ハナちゃんがさ、あんたが指揮者してたの覚えてて、どうかなって、私に聞いてきたの」

は?

「もちろん、私は、イツキの指揮もそん時の練習も絶賛だったから、めちゃ押しちゃったんだけど、どう??やらない?わたしもキャストするし!」

なんで、俺が指揮してたの知ってんだよ。こんな運動部ばっかの集団俺に扱えるかよ。見る目を疑うぜ。

「それはちょっと無理…」

「やりなよー、どうせ音響はしょこたんいるからってやめるんでしょ?ほかにやりたいのある?ないでしょ。」

ったくうるせー。

「考えとく」

考えるだけな!

「おけー、それがきければ十分!」

めんどくさいことになっちゃったよ。まあ、確かに指揮者は楽しかったし、うまくいったと自分でも手ごたえはあったから、それもみてそう言ってくれたなら嬉しい。だし、劇ならキャストより演出の方が自分にもあってると思うし、やりがいもあると思う。けど、部活とクラスは違うんだよ。二年とか一緒に音楽して勝手知ったる人たちをまとめるのと、できてまだ一か月のクラスをまとめんのじゃ、差がありすぎる。しかも苦手な人がいるクラス。できるわけがない。はーやだやだ。

「りょうちゃん、やればいいのに、演出」

「てつろー、聞いてたのかよ」

そんでここで倒置法かよ!

「わりぃ、けど、ほんとは結構劇やりたいんでしょー?ちがう?」

「うるせ。だとしても、荷が重すぎる」

「後悔しても知らないよー」

どいつもこいつも。おれを買いかぶりすぎなんだよ。



「ハナちゃん!イツキ、考えとくって!」

「ほんと!ありがとう!」

「ほかに、なんか手伝えることあれば、やるよ。わたしもキャスト志望だし。」

「ありがとう!そうだな、でも、五木君本人に私から聞くのはもう少し様子をみてからと思ってるから、なんか彼が言ってたら、教えてくれると嬉しいかなー」

「わかったー」




「恭介―、ハチー」

「テツロー、どうした?」

「ハナちゃん、りょうちゃんに演出頼もうとしてるみたい!」

「え!イツキ?まじ?」

「大丈夫、あいつ、部活で指揮者やってたらしいから!」

「指揮者?かっけーじゃん!なら演出もよゆーっしょ!」

「セラ!三浦さんの力になれるように頑張るよ!」

「おう!」




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