初LT

さて。今日は初LT(ホームルーム)ですよ。私よりも前に立つのに向いてそうな人たくさんいるんだけどなあ。と、前の休み時間、教室の後ろから眺めていたら、ハチくんが来た。

「今日のLT、なにする?」

一応心配してくれているみたい。

「まあ主には、脚本のことかなー。決め方を説明して、脚本委員決めたら、次回までに調べてくるってことにして早めに解散するつもりだよ。」

やるべきことは基本的には舞監会で仕込まれているし、問題はない。あとは、ちゃんと喋りさえできれば。

「じゃあ、僕書記するね、板書する!三浦さんは進行がんばって!」

「ありがとう。じゃあ、お願いするね」

ほんと、気が利く。今までも見てて思ってたけど、いざ気遣われる立場になるとその有難さはでかい。見習わなくちゃ。

「三浦さん!」

あ、うるさい会長も来た。もしや、心配してくれてる?

「最初、俺がみんな座らせっから、その後は、頼んます!」

「あ、ありがとう。」

きっと彼なりの気遣いだ。まあ、これだけ強力な味方がいれば、私でも大丈夫だわ。



「おーいみんなーはじめるぞー座れー」

リタは基本的にLTは来ない。世良のバカでかい声でみんなたらたらと席につく。教壇には世良とハチと、三浦花がいた。あの、チェロの子が舞台監督とはね。五木は何となく弦楽部のメンバーは知っていたけど、三浦はこういう場で前に立つタイプではないと思っていた。

俺のクラスはどうやら進みが遅いらしい。この前廊下であこに会ったとき、彼女は演出になって脚本決めを始めたと嬉しそうに話していた。まあ、似合ってるよなーあこに演出は。

「じゃあ、舞台監督さん、ここからは、よろしく頼みます。」

世良が少し不安そうに司会を引き継ぐ。まあそうだよね。本来自分がやるべき役職をか弱げな女子に任せっちゃったんだもん。それくらいの心は持ってるってことだ。

「えっと、舞台監督は私がやることになったので、改めてお願いします。それで、まだ演出は決まってないわけだけど、それは私から声をまたかけさせてもらうつもりです。協力お願いします。」

え、なんか、目が合った気がする。気のせいだよなー…。

「なんですけど、五月中には脚本を決めなきゃいけないので、演出決めと並行して、脚本選びを始めようと思います。去年の例をまとめたプリントをいただいたので、回してください。」

声は、バカでかい世良の後だし少し小さく感じるけど、落ち着いて堂々としてる。以外とやれるじゃん。すごいなあ、なんでやろうと思ったんだろう。目立たないし大変な役を知り合って間もないクラスのために?情に厚い人なのかなー。




「…そうしたら、今いった人たちプラス有志で、脚本検討会をします。なのでLTはここまでにして、掃除の後残ってください!なにか質問はありますかー?」

やば、途中から聞いてなかった。まあ、いっか。

掃除が終わって、時間ができたから、部活に使われてない音楽室の前室で久しぶりの楽器を吹くことにした。久しぶりだから、とりあえず長調のスケールをさらう。ふと見ると、音楽室から教室が見えた。脚本検討会とやらをやっているみたいだ。というか、本当にいいところにあるな、うちのクラス。




第一回脚本検討会も世良とハチくんの助けもあって、無事に終わった。

「これ、この前の役職アンケートの結果。演出探すときの参考になればとおもって」

演出問題もあるんだった。クラスメイトの顔はだいたい覚えたけど、入江君の言ってたようにコミュニケーションの取れる人間かってことまでは、正直全員はわからない。まあ、取ろうと思えば誰でも取れるでしょとも思う。入江君みたいに癖の強い人はすぐわかるし。

「なんか手伝えることがあったら言ってね」

「うん、ありがとう」

ハチくんはじゃあまた明日―と帰っていった。私も帰ろっと。

荷物を持って教室を出るとフルートが聞こえてきた。ブラームスの交響曲4番だ。フルートソロ。物悲し気な旋律。不安げな半音。止まりそう…そう思ったらまた儚く流れ出す。心地いいルバート。これは絶対五木君だ。一か月前まで毎週のようにオーケストラの練習で聴いていた。練習なのに、彼のそのソロだけは毎回本番みたいに私をブラームスの世界に引き入れてくれた。いいなあと思いながら階段を下る。

多分こういう演奏はこう、センスとかだけじゃなくてこだわりがないとできない。音を追うだけじゃなくて、一音一音の意味みたいなものを丁寧に読み取って表現するからこその説得力だ。それに、彼、吹奏楽部の定演では指揮者もしていた。指揮者は合奏で各パートの音楽をすり合わせて、ときに自分の音楽を伝えてまとめる。やっぱり、このクラスで演出は彼しかいないんじゃないかな。彼なら、素人集団の劇を、台本の読み込みから全体のまとめ上げまでこだわりを持ってやる方法が、見つけられるんじゃないかな。そんな予感があった。

けどなあ、喋ったことはないんだよな。ハチくんにもらったアンケート結果では、演出考えてくれそうな子で、喋ったことのある子もいた。そっちに先声かけるべきかな。あれ、そういえば、五木君の希望ってなんだろう、やっぱ音響とかかな。

五木亮哉 1:  2:小道具 3:大道具

あれ、第一希望、消しちゃってる…。ハチくんが消したのかな。なんでだろう。こんど聞いてみなくちゃ。



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