舞台監督

舞台監督の話がでてから早二週間。ここまで決まらないとはねえ。

「ハナも音響って書いてくれたんだねー」

「うん!だって吹部の定演の照明ほんと楽しかったんだもん!」

「サスとアッパーね(笑)」

「なつかしー」

「ニナはキャスト意外だった!」

「それ、めっちゃ言われる(笑)けど、せっかくだしやってみたい!」

「おうえんしてるよー」

「ありがとー」

まあ、そこまでたどりつくまでには相当時間かかりそうだけどね。そんな折だった。

「三浦さん、ちょっといい?」

声をかけてきたのは、世良だった。


廊下に、世良とハチくんと私。正直、用件は予想するまでもない。

「正直、三浦さんに頼むのも心が痛むんだけど、」

世良はそう前置きしてから、あらたまってこちらを見た。こうなる運命だったのかもしれない。クラス分け、2Dからこの三人だけだったし。

「舞台監督が決まらなくて、正直困ってるんだ。俺がやれよって話だし、自分のわがままだけど、やっぱキャストやりたくて。だから、三浦さん、やってくれませんか。2Dのよしみって言ったら強引かもしれないけど…頼む」

あーなんだこれ。周りに流されて、多数決になったからかな、なんも考えてなかった勢い馬鹿が、急に必死になったからかな。見捨てらんなくなっちゃった。こんな損な交渉ないのに。

今、多分私、冷静じゃないな。それに、引き受けるなら、先に言わなきゃいけない人がいる。

「無理だったら、断ってくれても…」

沈黙に耐えかねたのか、ハチくんが口をはさんだ。そうじゃない、

「ちょっと考えさせてくれない?」

「か、考えてくれるの?」

「うん。私なんかにまで頼みに来るってことは、相当困ってるんでしょ?決めたら、こっちから連絡する。」

「ありがとう…」

「もう、授業始まるよ」

次の一時間、私はいろいろなことを検討した。

まず、状況としては、まず候補筆頭の会長副会長は、キャストをやりたい意志は固いらしい。ここまで決まってないことと、このタイミングで来るということは他にも何人か断られてる。断った人は、決まった舞監に対しては協力せざるを得ない。で、最近の会長はまともになってきているし、副会長も有能。友達も、部活の子がいるから、万一があっても孤立することはない。クラスの地盤は最低限揃ってる。

次に、受験生としての問題は、ゼロではないけど、舞監はキャストや演出と違って毎日練習につきっきりじゃなくてもよい。今のところの成績もまあ悪くもない。うまくやりくりすれば勉強と両立できなくはないだろう。

それにこういう役回り、確かにしばらくなかったけど、全くの初めてじゃないよね。小学校の頃は学級委員とかしてたし。って、これは昔すぎるか。

あと、舞監会か。けど、これも実はF組の舞監は弦楽部の子だから、全く知らない人の集団ではないらしい。

大丈夫。やれる。けど、その前に、音に謝らなくちゃ。



 その日の帰り道、音に休み時間のことをはなした。

「それでね、いろいろ考えたけど、引き受けようかなって…」

「え…、すごい、ハナ、舞監するの!」

「ごめんね、せっかく一緒に照明やろうって言ってたのに」

「それは、しかたないよ、誰かがやらなきゃだもん。けど、ハナはほんとにそれでいいの?」

「うん。なんか、クラスのためにしたくなっちゃった」

「じゃあ、応援する。照明誰がやるのかなー、話したこともない男子だったら、心細いけど、でも、ハナが舞監なら、きっと私も楽しくやれると思う!頑張ってね!」

「ごめんね、ありがとう」

申し訳なかった。オトは人見知りだし、本当に一緒にやりたいって思ってくれていたのだと思う。わたしも、やりたかった。二人でやれば楽しそうだと思った。だけど、言い訳がましいけど、劇に決まる前からキャストって思っている人よりも、照明やりたいって思ってたかって言うと、そうじゃないんだ。情に流されてしまったのだと思う。

いや、本当にそれだけか。違うよね。わかってる。あの熱意に動かされた。わたしも、一緒にやりたいってほんとは少し思ったんだと思う。やるしかないんだ。そう、思った。




「三浦音?だれ?マジで知らないんだけど!」

今俺は、三浦音が3Bの舞監になったことをクソメガネに伝えに来たところだ。正直、俺自身驚いている。三浦は去年も同じクラスだったが、あんまりしゃべる方ではなかったし、みんなの前で声を張ったことなんて一回もない。同じクラスがちょうど俺とハチの三人だからって言う、割とこじつけな理由で頼み込んだのに、神妙に考えさせてくれっていってから、一日で決めたらしい。役職アンケートも、照明・大道具・小道具っていう全然劇興味ない系の回答だったし、訳が分からないんだけど。まあでも、引き受けてくれさえすれば、俺が全力でサポートすればいいだけだし、このクソメガネもなにも文句は言えないだろう!

「ほんとに、大丈夫なのか、B組は!あーでも、鬼龍院や市川がなるよりはましか。もう、しょうがないな。じゃあ、明後日、舞監会を招集するから、時間と場所、三浦さんに伝えといて」

っしゃー!

「あ!けど、まだ演出決まってないからね。でも脚本決めは並行して始めた方がいいかも。けど、その辺は舞監が中心になってやるんだからね。でしゃばりすぎるなよ」

「るせーわかったよ」

ようやく、スタートラインに立った。いよいよ、3Bクラス劇の始動だ。

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