入江
全会一致って、ほんとにちゃんと説明したんだろうね?」
怖そうな顔で見上げてくるこのメガネは、E組の入江だ。なんでも、三年生のクラス劇をまとめる係を任されたとかで、俺が3Bの会長になってすぐから、劇についてなにかと口うるさく指示を出してくる。はっきり言って苦手だ。
「ちゃんと、お前の言ったような手順踏んだって!なんで疑うんだよ」
「だって、他のクラスでは反対意見が大体出てる。最終的にはどこも劇にまとまったみたいだけど。」
「じゃあいーじゃねーかよ、なんで俺ばっかそんなぐちぐち言われんきゃいけない」
今回はそういう理由かもしれないが、最初からこいつは俺ばっかにしつこいくらい念押ししてくる。劇の説明を各クラスするときも扉の外から覗いていたのを俺は知っているぞ。
「まーまー、入江は、3Bのことが心配なだけだって」
「なんで、お前までこいつの見方なんだよ!」
掛川は3Hの会長だ。けどおまえだって、会長会でどーせ劇になるっていってたじゃんか。
「掛川の言う通りだ。俺は3Bが心配なんだ。なんたって、鬼龍院と市川がいるしな」
「それはそっちの個人的な因縁だろ」
「そうとも限らない!それに!3Bには決定的な欠陥がある。」
は、何こいつ、3Bだか何だか知らねーけど、腹立ってきた。欠陥?そんなんあってたまるかよ。
「クラス劇に欠かせない重要な二役をやれそうな人がいないことだ。」
「重要な二役?」
「舞台監督と演出だよ」
「どういうことだよ」
「はあ。いいか。舞台監督っていうのは、1、2年が文化祭で出し物をするときのクラス代表みたいなものだ。当日の運営から、練習場所の交渉とかの校内での渉外を担うと同時に、クラス全体の劇の進行をまとめないといけない。去年一昨年を思い出してみてくれればわかることだけど、だいたい流れで会長が担うことが多い。けど、その会長である君自身がキャストをやりたいとなるとさすがに兼任できる役職じゃない。それから、演出は、劇全体の演技指導をしなくちゃいけない。専門的に強いダンス部とか演劇部、放送部が務めることが多い、けど、いない。」
「市川さんいるじゃん」
「掛川は黙ってて」
「はーい」
「まあ、たしかに。けど、別に会長以外や、演劇部以外がやることだってあんだろ」
「あまいよ、世良くん。この二つの役職は、仕事が多いんだ!はじめからやりたい人がいない場合は、見つけるのに本当に苦労するんだ」
「なるほどな。で、それでどうしてそんなに口うるさくする必要があんだよ。別に変わんねーじゃねーか」
「クラス全員に覚悟を持ってもらいたかったんだよ。劇をやると決めたからには、やりたくない役職でも引き受けなきゃいけない時が来る。そのときに、やらない選択肢もあるのにあえてやると決めた、という事実があるのとないのでは、受け入れ方が、違うんだ。けど、もう、遅かったか…」
入江のいうことはもっともだった。自分が劇をキャストをやりたいばっかりに、少し軽率すぎたか。
「だ、大丈夫だよ。会長会はみんな世良の味方するよ!入江も、信じようよ、きっとやってくれる人は出てくるって!」
「それが、鬼龍院や市川だったら、おれはもうだめだ。」
「もう、世良!こいつはほっといて。しゃきっとして!見つけよ!やってくれる人」
「…というわけなんだ。」
「なるほどねえ」
むかつくメガネ野郎の話をハチにした。まあ、相変わらずむかつくし、鬼龍院と市川との個人的な事情はよくわかんねーけど、俺から見てもその二人がクラスをまとめてくれるとも思えない。ごもっともだ、と思ってしまった。
「まあ、けど、みんなに聞いてみないとわかんないし、聞いてみよう。どうしてもだめだったとして、そうなったら、ぼくらでキャストと兼任できないか、入江に交渉してみよう」
「ああ、そうだな。そうだよな。ありがとう。」
「うん、がんばろう!」
ああーほんと、こいつが副会長で助かったー。
翌日の会長会で、全クラス劇をする方針にまとまったことが伝えられ、まず始めに舞台監督、演出をきめて、それから脚本選びを始めるようにとの話があった。入江はすぐに出なかった場合の進め方の指針までご丁寧に用意してくれていた。なんだかんだいいやつだ。そして、それに従って、今日のLTで話し合いが始まる。
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