舞台監督

始動

「えっとー、クラス劇の今後の進め方について、まずは説明します。」

クラスが、いよいよ劇の話が始動する、と少し高揚している雰囲気のなかLTが始まった。

世良の話はこうだ。

・まず、役職のうち舞台監督と演出を最初に決める。

・その二人を中心に、キャスト志望などの有志で脚本選定を行う。

・ここまでを五月半ばまでに。

「それで、改めて、舞台監督と演出の役割について説明するね」

な、なんか、世良、急にまともになった?!この間までの勢いだけで行っちゃえっていう適当さが影を潜めてる。気味悪っ。

「まず、舞台監督についてだけど、」

そう切り出すと、世良は、とうとうと、こっちが引くくらい真面目に説明を始めた。

こんなに、まともにしゃべれんだ。まあ、なめてたわけじゃないけど、なんかあった?


しかしねえ、いくらこいつがまともに説明したところで、こればっかは出ないんじゃないかなあ。うちのクラス、どう見てもそういうタイプがいない。舞台監督に関しては、そういうキャラがいないから、あんたが会長なんでしょうが!って感じだし。演出に関しては、劇やりたい!っていって意気込んでいる子たちが揃ってキャストを志望しちゃってるからなあ。ないな、って感じ。

「じゃあ、とにかく最初にこの二つを決めなきゃ始まらないから、やってくれる人を募りたいと思います。まず、舞台監督、やってもいいよっていう人!」

教室は静まり返ってしまった。あーあ。

「まあ、いきなりだしな手も上げにくいよな。よし、じゃあ、ダメもとだけど、演出やってもいいって人は、いない?」

また、無言の時間だ。きびしいねえ。

「まーわかった!そしたら、今日は、みんなに大雑把にどの役職をやりたいかアンケートを取ろうと思う!この前配ったプリントあるよな?それにある役職で、自分のやりたいものを第三希望まで、紙にかいてくれ!ハチ、紙頼むな」

「承知の助!」

へえ、すごい。ちゃんといなかった場合の想定までしてたんだ。なんか、会長らしくなった。劇の役職はぜんぶで11ある。

 ・舞台監督

 ・助舞台監督

 ・演出

 ・助演出

 ・キャスト

 ・大道具

 ・小道具

 ・衣装メイク

 ・照明

 ・音響

 ・広報

このうち第三希望までを書けばいいのね。

まあ、第一希望は音とも話した、照明で決まりよねー。第二第三は、まあ、モノ作るのとか楽しそうだし道具系にしとこうかなあ。

 だけどなあ、よく考えてみれば、舞台監督や演出をやりそうな人がいないことなんて、わかってたんだよね。劇をするかしないか考えるときに、ちっとも考えなかった。いや、考えないようにしてただけなのかも。どうせ、劇になってしまうって思って、見ないふりをしてたのかもしれない。みんなも、もしかしたらそうなのかもしれない。はあ。これは、結構長引きそうな問題だ。




「セラー、おまえ、部活?」

「あーすまん。集計、お願いしてもいいか?」

バスケ部は6月の大会まで部活がある。この時期はまだ、クラスに全神経を注ぐことができない。

「あーいいよいいよ、僕やっとくから!部活頑張って!」

「わりぃ、たすかるわ、ありがと」

入江の言う通りかもしれない。みんな、誰かがやってくれる。そう思っているのかもしれない。俺だってそうだ。キャストがやりたい。くそ。どうしたらいいんだ、こんなん、やったことねーからわかんねーよ。なんなんだ、リタのやつめ。俺はバスケ部もキャプテンなのに、なんでこんな面倒な仕事押し付けたんだよ。

 その日の部活は集中できなかった。今まで、テストが赤点でも、宿題忘れて怒られた後でも、バスケは熱中できたのに。最悪の気分だ。

ピロン…

ハチからのメッセージだ。

『集計終った、明日朝話せる?』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る