クラス替えから数日後。

「みんな、ちょっといいー」

「はーい、きいてきいてー」

突然会長副会長コンビが注意を引いた。あれ、扉で違うクラスの子が覗いてる。なんだ?

みんなぞろぞろと席につく。

「えっとー、まあ、みんなご存知の通り、三年生は、毎年文化祭の出し物でクラス劇をやってます。けど、これは絶対の決まり事ではなく、劇じゃなくてもよいらしいのですが、劇がやりたいなら早く動き出さなくてh、ならない、ため…」

ん?こいつこんなまじめなしゃべり方するっけ?のぞき見の彼もため息をついてる。なんだこの違和感、と思っていたら。

「だあーもうめんどい!とにかく劇をやりたいかやりたくないか決をとる!」

馬鹿だ。すると、ハチくんが言葉をつなぐ。

「あ、まってまって、みんな!あのね、劇をするにはすごく準備も必要で。いまから、その準備が具体的にどんなものなのか去年の例をまとめたプリントを配るね。でも、みんな受験生なわけじゃんね。だから、協力できない、とか、劇じゃなくてもいいじゃん、っていう意見があったら教えてほしいです。」

「そうだった。ありがとうハチ。それでとりあえず、読んでもらって来週決を採ろうかなって思う。具体的に役割とかの説明もあるから、読んでみて、自分はこういう役割ならできそうとかも考えてみてくれるといいと思う。そういうわけだから、よろしく。」


うちの高校の文化祭は毎年三年生がクラス劇を披露する。部活を引退して時間ができた放課後に結構ガチで練習をしているのを、私たちも見てきた。毎朝、朝練と称してキャストのする発声練習はもはや名物といってもいいだろう。クオリティもそれだけ練習しているとあって、構高い。私も去年の先輩の劇を見に行って感動で泣いてしまった。

そういうのを見てきているから、当然自分たちの代も当たり前に劇をするのだろうと思っていたが、決を採るとは、意外だった。確かに、準備は大変だ。特にキャストの練習量は部活並みだ。けれど、クラス全員がキャストとして役を演じるわけではない。大道具や照明、音響など裏方に回る人の方が多い。やりやい役割になれないひとも出てくるはずだ。そして、練習量や、負担、達成感すら役割によって全然違う。それを、全員がすんなり受け入れられるとは限らない。まして受験生だ。正確に調べられているわけではないけれど、やはりキャストをやると、成績が落ちるとか、浪人が近づくとも言われる。了承もなく劇一択で突っ込めば、下手すれば、クラスの仲間割れも起きる、というところだろう。

それでも、過去の先輩たちは、やり遂げてきた。すごいな、と思う反面、やればできるものなんだ、とも思う。このときは、そのくらいに思っていた。


「オトは劇、賛成派?」

「うーん、よくわかんないけど、毎年やってるし、私たちもやるのかなーって思ってたから、一応賛成派かなあ」

「わたしも。似たような感じ」

音とは帰る方面が同じで、部活帰りにもよくこうして二人で帰っていた。引退して、もうそんなこともないかと思っていたから、なんだかうれしい。

「けど、いざキャストやれって言われたら、ちょっと困るなあ。勉強もしたいし。」

「そうだよねー」

みんな悩むのは同じだ。

「まあ、けど、キャストやりたい人も多そうだし、照明とかやりたいなーとはおもうから、賛成派だなー」

「照明!いいね、吹奏楽部の定期演奏会の照明、楽しかったしまた二人でやりたいかも」

「ほんと?そうなったらいいなー」

高校三年生は複雑だ。受験がなければ音も心置きなくキャストがやりたい、といったかもしれない。けれど、そんなお気楽ではないのだ。まあ、例外もいるが・・・


今日の昼。

「おれ絶対キャストやりてー」

「ぼくもぼくも!」

会長副会長コンビは相変わらずである。

「おまえら、目立ちたがり屋かよー」

「そんなこと言ったって、翔、お前だって絶対やりたいだろ?」

「まあ、やれたらな、とは思う…」

「ほらみーろ」

「やっぱ、先輩たちの見てるからなー、かっこよかったし」


男子はほんと単純。そもそも、劇をやるかやらないかもまだ決まってないのに。まあでも、やらない、ということはないんだろうな。そういう雰囲気だし。



「それじゃあ、劇をやるかやらないか、投票をしたいと思います!まず、劇か劇以外という選択肢で投票しようと思うんですけど、劇以外のところになにか具体的な案がある人は教えてもらってもいい?」

結局、この一週間、劇をやりたくないという意見はうちのクラスから聞こえてくることはなかった。

「ないねー?そしたら、決を採ろうと思うけど、なんか先に意見言っときたい人いる?」

ハチくんが板書に劇、劇以外、とかく。

「じゃあ、多数決をします。劇をやりたい人―」

ばっと手を挙げる人、おずおずと挙げる人、高く挙げる人、小さく挙げる人。一つずつ数えていく。そして最後にハチくん世良の票をカウントする。

「40、って、あ、全員じゃんこれ」

全会一致。まあ、なんとなく予想していたけどね。これでよかったのかなあ。

「よっし。じゃあ、3Bは文化祭は劇をやる、ということに決定します!みんな、役職とか考えておいてねー」

どこからか、おおーと歓声が上がる。なにはともあれ、九月の文化祭に向け、3Bの劇は始動した。




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