会長
会長
二〇一四年、四月。わたしは、高校三年生になった。
「ハナー!やったよ!ついに同じクラスだ!」
「オト!やったー!嬉しい!!」
「みて、ニナも一緒だよ。」
「ほんとじゃん!」
このクラス替えでやっと、同じ部活のことクラスが一緒になった。花の学校は県のそこそこの進学校で、全部で八クラスある。一方で花の所属している弦楽部は人学年15人程。場合によってはクラスでひとりになってもおかしくない。それが三人そろったのだ。これはラッキーなほうだろう。
同じクラスになったのは、バイオリンの鳴宮音とヴィオラの玉木仁奈だ。ちなみにこういうとき、ビオラと書くとヴィオラ弾きはなぜか怒るのであえてヴィオラと書いておく。二人とも部活の中では仲の良い方で、これで一年間の学校生活の安泰が保障されたようなものだった。(しかしそんな予想はあっさりと覆される。)
高校三年生のクラス替えは、三年目で勝手知ったる感じ、かと思いきや、8クラスもあると知らない人も結構いたりするし、人間関係できちゃってるグループには入りづらいし、といろいろと面倒くさい。そして、受験とういう一大イベントをこのクラスで迎えるということもあり、結局不安と高揚の渦巻く春の空気になってしまう。
仲良しが同じクラスだとわかり、安心した花は、席につきながら、クラスを見渡す。サッカー部のかわいいマネージャー、バドミントン部のうるさい子、テニス部のチャラ男・・・。あれ、と花は思った。二年で同じクラスの人全然いなくない?え、そんなことある?
「っしゃー!おれB組だぜー!」
げ。二年からの同じクラス、誰もいないのもアレだけど、よりによってこいつかよ。。。
「お、セラじゃん!お前と同じとか!楽しくなりそうだなー!」
世良恭介。男子バスケ部キャプテン。漫画の主人公みたいな、熱血大将。とにかくうるさい。去年も文化祭の準備に散々振り回された。
「セラ、お前の彼女、H組だってな」
「あーそうなんだよ。もう遠くって!悲しい」
そして、女子バスケ部にこれまたうるさくて派手で熱い彼女を持っている。カップル仲も熱い。ほんと、こういうタイプ、苦手。去年仲の良かった絵里ちゃんとか、女子、来てくれないかなー。そう思っていると、
「セラー!ぼくもB組!また一緒にだよー!」
とかわいい声が聞こえてきた。
「おお!ハチ!やったな」
ハチは背が低くて、声も高い、そして女子力も高めの男子だ。ちなみにオネエではない。まあ、女子じゃなかったけど、全然いい子だしよかった。そうおもっていると、チャイムが鳴ってLTが始まった。
「あい、じゃー、はじめるぞー。一年間このクラスの担任をする、成田幸三だ。よろしくたのむ。」
「なんだよー、リタかよー」
成田先生は男子バスケ部の顧問だ。世良はなんでクラスでも顔合わさなきゃいけないんだよって、文句を垂れてる。成田先生はひとこと、おだまり、と一蹴するとプリントを配ったり、時間割を配ったり、事務連絡が始まった。
しかしなあ。二年のクラスからは、わたし、世良、ハチの三人か。世良もハチもクラスの中心になるようなタイプだ。それに対して私は、まあ、文化部らしいというか、ぶっちゃけあんまり目立たないタイプだ。前のクラスのよしみで知り合いを増やすのは諦めた方がいいな。それよりも、音や仁奈と仲良くしてるうちに友達を増やせばいいや。
「じゃー最後に、クラス委員決めをしたいんだが、だれか会長やってくれる奴いないかー」
そう言って出る方が珍しいんじゃないか。と思っていると。
「いないかー。じゃあ、世良、おまえやってくれないか?」
「はあ?おまっ、バスケ部だからって俺をいいように使うなよ」
「いや、まあでも連絡先も知ってるし、なにかと便利かと思って。まあ、嫌ならいいんだけど…。」
「…ったく。しゃーねーなー、センセイがそこまでおっしゃるなら、やってあげてもいいですよー!」
うわーまじか。部活の関係性を利用しようっていう先生の根性も、なんだかんだでまんざらでもなさそうな世良の根性も、好きにはなれないなあ。
「じゃあ、みんなそれでいいか?」
はーい、とか、いいでーす、とか適当な返事が聞こえる。まあ、私だって不満ではあるけど、かといって自分がやりたいかというとそうではないので便乗するんだけどね。
「そしたら決まりだな、世良、あとは他の委員をきめておいてくれ。じゃあ、あとはまかせたぞ。」
そういって成田先生は出て行ってしまった。適当な先生みたいだ。
「ちぇ。じゃあ、かわいそうな俺を助けてくれる人、副会長やってくれませんかー」
「セラがカイチョーなら、ぼく、副カイチョーやってもいーよー!」
「うお!ハチ、お前さすがだなー、他やりたい人いるー?」
そんなこと言っているはずもなく。あっさりと会長世良、副会長ハチに決まってしまった。
このクラス、完全に元2Dで牛耳られたわけだ。私含め3人しかいないのに。数じゃないんだな、ということを思った。力こそ、声のでかさこそが、すべてなのか…。
その後も他の委員はすんなりと決まり、クラス結成一時間で、すべての委員が決まってしまった。恐ろしいクラスだ。
「あっさりと決まったねー」
休み時間になったので、音と仁奈だべる。
「ね、こんなすんなり決まったの初めて。世良くんが会長引き受けてくれたおかげかもね」
音は素直に感心しているみたいだ。
「まあねー会長が一番決まんないもんねー、ふつー。けどなんかあの担任といいセラといい、バスケ部感を出してくるのはちょっと気に入らなかってけど。」
わたしは、すんなり決まって、感動もあるけど、先行きに若干の不安を感じてることも事実だ。
「あーそういえば、ハナは去年も世良と同じクラス?」
「そーだよ、副会長のハチくんとも」
「わお、じゃあ2Dコンビなわけか、どうりて早く決まったわけだ」
「うん。ハチくんは去年も一年間副会長してたんだけど、ほんと副会長向きっていうか。仕事の手際もいいし、男女問わずしゃべりかけてくれるし、気も効いてサポート上手ってかんじだった。」
彼の副会長立候補は私もさすが、と思った。これに関しては絶対正解だ。
「それはもう安泰じゃん。」
「けど、セラは去年別に会長とかじゃなかったし、ムードメーカーではあるけど、どうなんだろう。」
「たしかに。わたし、実は世良と同中なんだけど、クラス委員とかのイメージよりはガキ大将ってイメージかな(笑)」
「え!ニナ、セラと同中なの!?」
「うん(笑)けど中学のときもそんなに喋る仲じゃなかったから」
「なるほど…。」
「けど、悪いやつじゃないよ。わかってると思うけど。だから、まあ、大丈夫なんじゃないかなー」
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