一歩
「綾美先生、おはようございます!」
さくらを担当している看護師の今井は、23歳の新人看護師。
去年からさくらの担当となったが、さくらの認知症はひどく、いつも振り回されていた。
さくらを担当する看護師は今井で5人目。
途中で投げ出してしまう看護師、やめてしまう看護師が後を絶たず、
病院の委員長は、ひどく悩んだが、綾美の強い願望により病院に残すことを決断した。
さくらは、もう元に戻ることはない。
綾美も分っていた。
副委員長となった綾美は、さくらにつきっきりになることができないため、新人の看護師をつけていた。
今井は、今までの看護師とは少し違った。
さくらの側から離れることはなかった。
綾美は、今井に1つだけお願いをした。
「さくらは、3月26日になると春ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行くの。必ず病院を抜け出して。それだけは許してあげるように。」
「は、はい!」
「けどね、子供用のおもちゃを持ってふらふらしていたから不審者だと勘違いされてニュースになったこともあったわ。」
綾美は、笑いながら、自慢するように話した。
さくらの病室には、ランドセル、中学校の制服、たくさんのおもちゃ、楽器、ケーキの空箱、たくさん置いてあった。
「これ、全部、春ちゃんへのプレゼント。でも、噂はいろいろ聞いています。今までのやめてしまった先輩のこととか。。綾美先生はなんで、ずっと面倒を見られるんですか?」
「さくらはね、私にとって大事な存在なの。さくらはずっと私の憧れで、いつも助けてもらった。あの時、私、守ってあげられなかった。だから、次はしっかり守ってあげたいの。今井さんこそ、すぐに逃げ出すと思ったわよ。」
「正直、きついときありますよ。けど、さくらさんはたまに私のことを春ちゃんと勘違いするんです。今日の試験頑張ってね!とか今日の演奏は良かった!とか。本当は、もう、春ちゃんはいないんだよって教えてあげないといけないのに、たまに私、春ちゃんを演じて相談してしまうんです。そうしたら、さくらさん答えてくれるんです。私も、こんな良いお母さんが欲しかったと思ってしまうんです。」
今井は、うつむき、涙を流しながら話した。
今井の頭をポンポンと撫でた。
「先生、、」
さくらだった。さくらが、今井の頭を優しく撫でた。
「春、どうしたの?」
「ううう、ママ、ありがとう、」
今井は、震えた声で答え、さくらの胸に顔を埋めた。
今井の両親は、母親の浮気が原因で離婚し、父親に引き取られて育った。
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