第八歩

3月26日春の18回目の誕生日。


看護学生にとっては必需品、白衣をかってあげよう。


家から、電車を使って1時間半、少し遠めの通学路。


北海道1の難関校。今までで1番勉強に追われる4年間になるだろうと覚悟していた。


18歳になった春は、赤いリボンを頭ではなく、鞄に結び付け家を出た。


さくらと春は、小、中、高、大の入学式で『入学式』の看板の前で写真を撮った。


なかなか、遊園地や、旅行に出かけることができなかった二人にとって、入学式の写真は大切な思い出だった。


大学生活も1年が経ち、白衣が似合うようになってきた。


テスト期間になると、寝る時間を割いて勉強をするほどだったが、テストが終わると友達と良く出掛けるようになった。


どんな友達がいるのだろう。彼氏はいるのかな。


うれしいような、悲しいようなそんな気持ちに浸るさくらも、もう43歳になっていた。


顔はもちろん老けたが、くしゃっとした無邪気な笑顔は相変わらずだった。


春が生まれ、右も左も分らぬまま、恐怖から逃れる為に北海道に来た。


そして、18年間さくらは、春から目を離すことはなかった。


春がいれば何でもいい。春がいれば。


この気持ちを忘れることはなかった。


おやすみ、おはようをいうと、おやすみ、おはようが返ってくる。


そんな幸せを噛みしめながら、今日も春におやすみと言い、頭を撫でた。


今年は、去年よりも雪が少ない冬だった。


そして、あっという間にはかなく桜が散る季節がまたやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る