第六歩
春は、第一志望の高校に合格した。
3月26日。春の15回目の誕生日。フルートを買ってあげよう。
北海道に来て、もう15年が経つ。
高校生になった春に少しずつ話していかなければならない事実が山のようにある。
「ママ、この家の近くに桜なんて咲いてたっけ。」
「咲いてないわよ。」
「でも、ほら。」
窓から、桜が舞って入ってきた。
遠くから散ってきたような、なにか問いかけてきているような、そんな桜だった。
春は、その桜を食いつくように見ていた
そして、その晩。
さくらは、縦長の箱をプレゼントした。
「え、うそ。」
春は、箱を見た瞬間に中身が分かった。
中に入ったギラギラと輝くフルートを確認し、さくらに飛びついた。
「ありがと~~!」
高校に合格した時よりも、嬉しそうだった。
すぐさま、春は何曲か吹いて見せた。
決して、高級なものではなかったがその音色は、初めてホールで聴いた時のように体の隅々まで響いた。
入学式。
吹奏楽の音が春たちを出迎えた。
15歳になってもやはり春の笑顔は誰よりも明るく、髪に付いた赤いリボンは何よりも映えて見えた。
高校の吹奏楽部は、野球部の応援や数多くのコンサートがあり、中学よりもハードだった。
毎日、ヘトヘトに帰る春を見て、さくらは少し心配になりながらを見守り続けた。
そして、ある晩。
「ねえ。ママ、パパのこと聞いても良い?」
いつかは、話さなければならないことはわかっていた。
春に聞かれる前に話すべきだった。
さくらは、強い罪悪感にかられた。
春が生まれてから、今までのこと。そして、生まれる前のこと。
そして、大きな大きな桜の木のことも。
すべて、話した。
二人は、涙を流していた。この二人の涙の意味はそれぞれ違う意味を表していた。
さくらは、春を抱きしめた。
「ママは、春がいれば何でもいい。これはママの口癖だったのよ。」
「ううん、春のだよ。」
二人は、涙をすすり照れながら、笑いながら話した。
その夜は、手を繋いだまま眠りについた。
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