第五歩

部活動も、中学生活も終盤にさしかかり、春にとって最後のコンサート。


春が部長、綾ちゃんが副部長として、引っ張ってきた吹奏楽部は金賞を受賞することができた。


さくらだけではなく、すべての観客がスタンディングオベーションだった。


素晴らしい演奏だった。


家で春の帰りを待つさくらの耳にドタドタと階段を上る音が聞こえてきた。


ピンポン、ピンポン。春が戸を開けるようさくらを急かす。


玄関を開けると、後輩からもらったのだろう大きな花束と、賞状を持っていた。


「おかえり!お疲れ様!」


「いえーーい!」


「ママがいたからできたよ!」


それは、私の口癖なのに、とさくらはくすっと笑い、春を抱きしめた。


その晩は、お祝いだった。ピザにケーキ、お肉。


春は、好物を頬張りながら今日の演奏のことをずっと話していた。


さくらは、相槌を大きく打ちながら、楽しそうな春の話を夜遅くまで聞いた。


そして、部活を終えた春には、受験がやってくる。


吹奏楽と両立して、勉学にも励んでいた春はレベルの高い高校を目指すことができた。


しかし、高校でも吹奏楽を続けたいという気持ちが強く、家から、少し離れた吹奏楽部に力を入れている高校を目標に掲げた。


周りの友達が塾に通っていたことをさくらは知っていたし、できることなら通わせてあげたいと思っていた。


しかし、高校の入学費で精一杯。


春もそのことは、分かっていた。


家や、学校の図書館を利用して、一生懸命勉学に励んだ。


夏過ぎの北海道の夜は、少し肌寒くなる。


今日は、特に冷えていた。


「ただいま!おなかすいた~」


顔を赤くし、手を冷たくして帰宅した春は、いつもより愛おしく見えた。


薬指の先端にペンだこができている。この勤勉さは、パパに似ているのだろうと、

一瞬、和義が頭をよぎった。


そういえば、春にお父さんのことを聞かれたことがない。


受験が終わって、春が大人になったら話そう。さくらはそう胸に秘めながら食器を片付けた。


街は、雪に覆われ、大粒の雪が降り続く季節となった。


試験日。


先日、二人で訪れ、神社で買った合格祈願のお守りを鞄に入れて、少し茶髪がかった髪の毛を赤いリボンでぎゅっと結んだ。


「行ってきます。」


「春なら大丈夫よ。気を付けてね。」


「応援しててね!ママがいるから大丈夫~~」


頭に結ばれた赤いリボンを指さしながら家を飛び出した。


さくらも自分の頭についた赤いリボンを見せるようにしながら手を振った。


行ってらっしゃい。頑張ってね。


さくらは強く願った。



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