第四歩

春は、朝早くに朝練へと出かける。そして、夜遅くに帰ってくる。


家に帰ると、ご飯を食べずに寝てしまうことも多々あった。


そんな春にとって、初めてのコンサート。


中学生の部、ウインターコンサート。


コンサート当日、窓の外では雪が降り積もり、寒々とした朝だった。


寒さだろうか、緊張だろうか。春は少々震えているように見えた。


「ママ、応援行くからね!」


さくらは、震える春の顔をがっちりつかんで頬と頬と合わせた。


春を見送った後、さくらもばっちり顔を仕上げ、会場へ向かった。


大野さんと待ち合わせ、雪道を歩きながら会話をいくつか交わしたが、大野さんも多少緊張しているようだった。


会場につき、ホール内に入るとどっしりとした重い空気が漂っていた。


春から、座る位置をあらかじめ聞いていたのでその正面あたりに席をとり、座って待っていた。


いくつかの学校の演奏が終わり、春たちの番が来た。


春や綾ちゃんが入場してくる。二人とも、がちがちだ。


春の髪に結ばれた赤いリボンはやはり映えて見えた。


配置された椅子に着席した春は指揮者が来るのを、ムズムズしながら待っていた。


珍しく緊張する春を見て少し微笑み、ぐっとこぶしを握った。


指揮者が来ると生徒は起立し、一礼した。


春と目が合い、小さく手を振るとニコッといつもの笑顔で返してくれた。


大丈夫よ。春ならできる。


さくらは祈った。


指揮者が手を挙げると、皆そろって楽器を構える。


静寂が続く、、


指揮者の腕の動きに合わせ、ドーンドーンと大太鼓が鳴り始める。


それに続き、様々な楽器の音がハーモニーを奏でていく。


さくらは目をつむった。


聞こえる。春の奏でるフルートが綺麗に聞こえる。


体の隅々まで春の音が響いてくる。


春の頑張りや、努力、すべて伝わってきた。


自然と、涙が出てきた。


演奏が終わると、さくらは立ち上がり、拍手を送った。


春は、照れた顔をしていたが、大きな拍手を送り続けた。


すべての学校の演奏が終わり、入賞校の発表も終わった。


そこに春の学校の名はなかった。


入賞することができず、春が涙していた。


久しぶりに、春の涙を見た。


よく泣く子だったな。


その晩、春に少し豪華な食事を用意して、プレゼントを1つ渡した。


箱を開けるとそこには、赤いリボンが入っていた。


「今日は、お疲れ様。もうそのリボンは古くなったから新しいのを使いなさい。」


「いらない!これが気に入ってるって言ったじゃん!このリボンはママが使って!」


「わかった。じゃあ、ママの髪の毛をその新しいリボンで結んでくれる?」


「うん!そういえば、最後ママだけが立ってたの恥ずかしかったんだからね!」


悔しい思いもして、辛かっただろうに、春の心優しい対応と笑顔にさくらは恐縮した。


「おやすみ、春、今日はお疲れ様。」


さくらは布団をかけ、頭をなでると、春のつむる目から一筋、二筋と涙がこぼれてきた。


悔しかったね。










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