喪失

彼は3日後に帰ってきた。ひどくやつれ、昔の彼はもういなかった。


言葉は無く、冷蔵庫の飲み物、水をかばんに詰め込むと、私にお金をせがんだ。


「さくら、金を貸せ。増やして、増やして、また、やり直すんだ。」


「和義さん、、」


彼は、ギャンブルにおぼれてしまった。私が黙り込んでいると彼は、私を突き飛ばし、引き出しから通帳や、カード、私の財布に入っていたお金をすべて取り、また、家から出ていった。


私はその場にうずくまり、春の鳴き声を聞かない振りした。


私には、春がいればなんでもいい。和義さんごめんなさい。もう、待てないかもしれない。


なんで、こうなってしまったの。なんで私はこんなところで泣いているの。

どこで間違ってしまったんだろう。綾美、会いたいよ。


私は、春を抱いて、綾美が勤務している病院へ向かった。


「え!さくら!どうしたの?やせたんじゃない?」


私は、綾美の声を聞いてずっと我慢していた涙を流した。


春は笑っていた。私の涙を見て春はずっと笑っていた。


私は、これまでのことを綾美に話し、今日は、家に泊まらせてもらうことにした。


「さくら、春は私が見ているからゆっくり寝なさい。疲れすぎてるよ。」


「ありがとう。」


私は、寝た。何時間寝たのだろう。こんなに安心して寝れたのはいつぶりだろうか。


「綾美、ありがとう。私、春と福岡に帰ろうかと思う。」


「そっか。そうだね。さみしいけど、連絡してね、絶対だよ。頑張ってね。」


私は、家に帰り、荷物をまとめていた。


コンコン。戸を叩く音がした。


「はい。」


扉を開けると、黒いスーツを着た男が二人立っていた。


「藤沢さくらさん、福岡の田舎生まれの杉原さくらさんですね。奥で泣いているのは春ちゃんかな。藤沢和義さんにお金をね、たくさん貸したのよ。それが返ってこなくてね。連絡もつかないわけよ。もちろんだけど代わりに返してもらうつもりだけど、とりあえず、旦那さんのことさがしてもらってもいいかな?逃げても無駄なことはわかってるよねえ。おねがいしまーす。」


紙を渡され、男二人は去っていった。


借用書。唐沢組。0がたくさんついた数字。意識は、朦朧としていたが、そんな文字は確認できた。私でも知ってる。有名な闇金組合。集金のためには手段を選ばない奴らだ。


私は、一生風俗暮らし、春はどこかに売られる。


早く、逃げなきゃ。福岡にも帰れない。なにもかも調べられてる。


私は、なにもかも手放し、春だけを抱いて、家を飛び出した。


春、ごめんね。あなたにはパパはいなかった。大人になったらしっかり話すからね。今は、ママが守るからね。和義さん、私幸せだったよ。いろんなことがあって、急なことも多かったけど、あなたと一緒になる選択をして後悔はしてないわ。

さようなら。


私には、春がいればなんでもいい。


さようなら。遠くへ、だれも知らない街へ、遠くへ行かなきゃ。




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