幸せな日々

退院の日。家に帰ると、部屋は暗く、しんとしていた。


「ただいま。」


ぼそっと呟き、電気をつけた。


パンッ。静かな部屋にクラッカーが鳴った。


「ママ!おかえり!」


和義が、布団に包まった春を持ち上げ、笑顔で出迎えた。部屋は飾りで装飾され、華やかになっていた。


「ただいま。」


もう一度、呟き、溜めていた涙を滝のように流した。


クラッカー音に驚いた春も泣いていた。


私が、生まれた時もこんなに幸せだったのかな。


お母さんとお父さんに会ってみたい。会いたいな。落ち着いたら会いに行くからね。


私は、幸せを噛みしめ、和義にそっと口づけをした。


私は、あなたと春がいればなんでもいい。


5月16日。春が生まれて2か月が経ち、今日は和義の30歳の誕生日。


「春ちゃーん、今日は、パパが生まれた日なんだよ。ママよりもおじいちゃんなんだよ。」


頬と頬を擦り合わせると春は、きゃっきゃっと笑った。


さくらは、精一杯の料理と、ケーキを準備した。


「パパまだかな~~。」


言葉が通じない春に何度も話しかけ、携帯を見るが、彼からのメッセージは来なかった。春は、寝てしまい、そろそろ日をまたごうとした時、電話が鳴った。


「さくら、ごめん。本当にごめん。仕事のトラブルで今日は帰れそうにない。」


愚痴の一つ言おうとしたが、彼はベンチャーの社長でこういった急なトラブルは少なくはなかったので、一言、おめでとうと伝え、就寝した。



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