第287話 ヴォダラが狙うもの
「病気? ……病気…………それってもしや《樹化病》のことか?」
突然思い立ったようにヨーフェルが口にした。当然気になったので、俺は彼女に説明を求める。
「我らが長老に教えてもらったのだ。何でも長老が若い時に世界を襲った奇病だと」
「どんな病気なんだ?」
「文字通りさ。病に侵された者は、全身が樹のように変貌していく。そのまま放置すると、病人はいずれ本物の樹木になってしまうのだ」
そんな病、異世界ならではだな。まあ科学が進んでダメージを負った地球にはエコな病かもしれないが。
「その病のせいで世界人口は大幅に削られたらしい。特効薬も対応策もないまま、な」
「それでよく人類は無事だったな」
「長老が言っていた。世界に住むほぼすべての者たちが生を諦めかけたその時に、一筋の光明が現れたのだと」
「光明?」
「うむ。それは一人の若者だったらしい。その者は死に絶えようとする者たちを救い、世界に蔓延している病の原因を突き止め解決した。そうして世界は救われたのだと」
「それって誰なんだ?」
もしそれが『呪導師』が起こした世界規模の厄災としても、たった一人で救ったのだとしたら、そいつもまた『呪導師』に匹敵する存在だということだ。
しかし俺の問いにヨーフェルは頭を振った。
「悪い。何分幼い頃のことでな。あまり詳しく覚えていない。もしこの世界に長老が飛ばされてきているなら話をできるやもしれぬが」
どうやら五歳かそこらの話らしいし、覚えていなくても無理はないだろう。むしろ五歳にしては覚えている方だと思う。
「よく分からないけどん……その『呪導師』はとてつもない存在だってのは分かったよん。でもそれが何で船長と繋がるのん?」
「ヴォダラって奴がいただろ? 恐らくアイツが『呪導師』を操っているんだ。しかし世界規模の厄災を操作するには、相応のエネルギーが必要になるのかもしれねえ」
「エネルギー……? ……ま、まさか!」
「ああ。ドワーツが持つ力は凄まじい。何せ自然を操るほどの能力だからな。だからそのエネルギーを欲した……推測でしかないが」
「そんなぁ……船長ぉぉ……」
「だがだからこそヴォダラの次の動きも分かるというものだ」
「……え? そ、それほんとなのん、ボーチッ!」
「ああ。ドワーツの持つエネルギーを利用し、『呪導師』を操作する。そのために連れ去ったとしたら、な」
「どういうことなのん?」
「確かにドワーツは強い力を持っているが、それでも単身で『呪導師』を満足に動かせるだけのエネルギーになるかは疑問だ。何せあのドワーツを一瞬で倒すくらいだしな」
「それは……なるほどん」
ヴォダラが『呪導師』を操作するためには〝ギア〟が必要なのは明らかだ。そしてそのレプリカを生み出して、一時的に操作できるようにしている。
そしてそのレプリカ作りには、かなりのエネルギーが必要となるはず。
「だからヴォダラは、これからも強いエネルギーを持つ存在を狙う可能性が高い」
「そうですわね。わたくしも主様のお考えが正しいかと思いますわ」
俺が発言し、そこに後押ししたのはイズだ。彼女はそのまま続ける。
「しかし、ならば次にヴォダラが狙う強いエネルギーとすると……」
「間違いなく――Sランクモンスターだろうな」
俺の見解にイズもまた賛同して頷きを見せた。
Sランクモンスターほどのエネルギーであれば、『呪導師』を操作するための〝レプリカギア〟を作るのに適しているだろう。
「じゃ、じゃあそのヴォダラって人が次に現れるのはSランクモンスターがいる場所ってことん?」
「恐らく……な。現在俺たちが把握しているSランクモンスターは四つだ。クラウドホエール、ベルゼドア、オレミア、ガラフェゴルン。そのうち居場所が分かっているのはクラウドホエール以外だが……」
もしこれらの中から奴が狙うとしたらどれだろうか。
俺が例えば強いエネルギーを欲しているとしたらどうだ? やっぱ未知の相手と相対するのは危険と考え、少しでも情報がある相手にするはず。
ただそうしたら考えが破綻してしまう。何故ならヴォダラがどのモンスターの情報を知っているかなど分からないのだから。
それに俺が知らないだけで、他にもSランクモンスターがいるかもしれないし、ドワーツのような特殊な存在もこちらに来ている可能性だってある。
……ダメだな。考え始めると可能性が多過ぎて絞り込めない。
「しばらくは様子見するしかないかもな」
俺の言葉に「えっ!?」とオズが驚きの声を上げるが、今俺が考え得る可能性を伝えてやったところ、さすがに反論は出なかった。
「しかし大将、様子見をするとして、ヴォダラの動きが分からなければ意味がないのではござらんか?」
「カザの言う通りだ。だからとりあえずは俺たちが把握しているSランクモンスターの周囲を監視することにする」
俺はある物を購入し、《ボックス》から占い師が扱うような水晶玉を取り出す。
「ぷぅ? ご主人、そのタマは何なのですぅ?」
「これは《サテライトビジョン》っていって、対象物の周囲を常に徘徊するカメラだ」
すると水晶玉がフワリと浮き、天高く上昇していった。
そして俺が《ボックス》からモニターを取り出すと、そこには頭上から見た【幸芽島】が映し出されていたのである。
これは最近アップデートされた商品でもあり、いつも使っていた《カメラマーカー》の上位互換みたいな能力なので、いずれ購入しようと思っていたのだ。
「あ! しかも映像が勝手に動いているのですぅ!」
「ああ、《サテライトビジョン》はその名の通り衛星のような動きを常にするんだ。だから対象の状態を周囲からよく観察することができる。しかもかなり遠くからの撮影だから対象に気づかれにくい」
「それをもしかして船長を攫ったあの人たちにん!」
「いや、残念ながら違うぞオズ」
「え……ど、どうしてん?」
「奴らはほら……転移しちまうだろ。ある程度の速度にはついていける《サテライトビジョン》だが、テレポートなんてされたらさすがに見失っちまうよ」
ソルのように高速移動する物体でも、コイツなら撮影範囲内であればすぐに捉えることはできるが、突然何百キロ離れた場所に転移などされたら、さすがに無理なのだ。
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