第286話 呪導師とは

「い、異世界……ニンゲン……チキュウ……うぅ、頭がこんがらがるのん……」


 まあいきなりそんなことを言われてもすぐに信じられるわけがないだろう。


「混乱するのも分かるが嘘じゃねえぞ。第一、お前に嘘を言ってもメリットなんてねえしな」

「……ううん。そういえばあの変な人も、確か〝この世界の人間〟って言ってたのん」


 ヴォダラのことだ。そういえばそうだったな。


「異世界……じゃあボクたちの島はこの世界にないかなん……?」

「……それを調べる方法はある」

「!? ほんとなのんっ!」

「ああ。この紙に、お前が知り得る限りの、その島の情報を書けばいい」


 俺が手渡したのは《サーチペーパー》である。


「その紙は特別な力があってな。書かれた情報に従って目的のものを探してくれるんだよ」

「そ、それじゃあこの世界に!?」

「もしその島も、お前みたいにこっちの世界に飛ばされてきてるならな」

「か、書くのん! もうずんぐりむっくり書くのん!」


 ……いや、ずんぐりむっくりの使い方はおかしいだろ。やっぱ混乱してやがるなコイツ。


 そうしてペンも渡してやり、オズが思いつく限りの情報を紙に書き連ね、それを俺に渡してきた。


「よし、じゃああとは……ほれ!」


 紙飛行機にして飛ばすと、《サーチペーパー》は大空の彼方へと凄まじい速度で消えていった。


「わわっ、一瞬で消えたのん……!」


 ビックリするのは当然だよな。ただの紙にしか見えないのに、ひとりでに飛んで行くんだから。


「あとはアレが島を見つけたらすぐに分かるようになる」

「わ、分かったよん! ……けどさっき聞いたけど、チキュウジン? には普通特別な力なんてないんだよねん? でもボーチはチキュウジンなのに、何でそんなに強くていろんなことができるのん?」

「まだ言ってなかったが、ある日を境に地球人……人間にも特別な力に目覚める連中が現れ始めたんだよ。それは《スキル》と呼ばれてる」

「スキル? 異能……じゃなくてん?」


 イズによると、昔はスキルという存在を異能や特殊能力などと言われていたそうだ。

 それが長い年月が経つに連れて、徐々に呼び名が変化していき、現在ではスキルと呼ばれるようになった。


「ということは船長の異能も?」

「ああ、《天現》っていうスキルだ」

「…………じゃあボーチがいろいろできるのも?」

「スキルの力によるものだな。まあスキルを持ってる人間も数少ないようだがな」

「ほぇぇ~、ボーチってば見かけによらず凄い人だったのねん」


 見かけに寄らずは余計だ。まあ俺の見た目は別に派手でも何でもないし、そこらにいるような普通の男子高校生だし無理もないが。


「そ、それじゃあ船長を攫っていったあの人たちのことも知ってるのん?」

「奴らの目的は定かじゃないが、少なくとも友好関係を結べるような連中じゃないのは確かだ。……お前は『呪導師』って聞いたことないのか?」

「う~ん……前に船長たちがそんな感じの話をしていたと思うけど、ボクはあまり詳しいことは知らないよん」


 それもそうか。コイツ、今は幼女だがれっきとした船そのものなんだからな。

 俺はイズに『呪導師』についてオズに教えてやるように言った。


 懇切丁寧に分かりやすいイズの説明で、オズも『呪導師』がとんでもない存在だということを理解できたようだ。ちなみにヴォダラがどういう人物だったかも教えた。


「で、でも何でそんな人たちが船長を?」

「それなんだよな。さすがにそこまで分からねえ……シキたちは分かるか?」


 あの場にいた全員に聞いたが、彼らも申し訳なさそうに頭を左右に振った。

 そういえば奴は手駒を得たと言っていた。つまり奴がこれから行うことに人手がいるということかもしれない。


 一体何をするつもりか知らないが、あんな奴が慈善事業をしているわけがない。

 どう転んでも良くないことを企てているとしか思えない。


「……仮に」


 俺が呟きに皆が注目する。


「仮にドワーツを攫ったのが、あの凄まじい力を利用するためだとしたら?」

「せ、船長の力!?」

「ああ、奴は異世界人……地球のことなんて何も知らないはずの存在だ。……普通はな。けど奴を何度か見たが、どうも地球のことを知っているような感じだった。もしかしたら今のこの地球の変貌は、奴の仕業……かもしれねえ」


 当然俺の見解を聞いて誰もがハッとなる。


「ま、まさか……マスター、さすがにそのようなことは有り得ないだろ?」


 ヨーフェルの言い分も分かる。何せ二つの世界に多大な影響をもたらすような現象だ。規模が規格外過ぎて認められなくても仕方ない。


「……いえ、あのローブの存在が本当に『呪導師』なのだとしたら、それも可能かもしれませんわね」


 しかしイズは、その逆に『呪導師』ならばと納得する。


「ていうか『呪導師』って何なのん? 世界に影響とかそんなに凄い存在なのん?」

「『呪導師』について、そのすべてを把握できているわけではありませんわ。ただ彼の者が現れた時代は、必ず世界が変革しているとされています」


 オズの質問にイズが答えると、それに対しまたオズが「変革……それってどんなのん?」と聞き返した。


「わたくしが知識として知っている範囲での話にはなりますが、かつて『呪導師』は、世界を凍結させ、そこに生きるほとんどの生物を排除したとされています」


 ……凍結? それって……。


「またある時は、天から炎を塊を無数に降らせ、世界を滅ぼそうとしたことも。さらには人も動物も抗えない未知の病気を蔓延させ絶滅を図ったとも言われていますわね」


 そんなことを本当に引き起こしたとするならば、確かに世界規模の厄災だ。俺には想像だにしない力でしかない。




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