第284話 拉致
二つの存在が、宙に浮かんでいる。
そしてそいつらは直接会ったことはなかったが、モニター越しで見たことのある連中だった。
「…………ヴォダラと……『呪導師』……?」
そこにいたのは間違いなく奴らであった。何故こんなとこで出くわすことになったのか疑問だが、これはあまり良くない傾向である。
奴らがヤバイ連中だということは知っていた。できれば今後関わり合いになりたくないナンバーワンの位置にいたのだ。それがまさか予期せぬ邂逅を果たすことになろうとは……。
「ふむ……その身形、よもやドワーツか? ならばこれほどの力……理解できるが。何故そのような醜い姿になっておるのだ?」
どうやらドワーツのことを知っている様子のヴォダラ。そいつがチラリと俺を見た。
「……この者らがドワーツをこのような姿にした? いや、そのような感じではないな。……死んで〝霊鬼〟になってもなお、叶えたい願いを持ったか。……ちょうど良い」
ヴォダラの隣でフワフワと浮いているローブの人物――『呪導師』が、ゆっくりとドワーツの前に降り立つ。
そしてヴォダラが、懐から見たことのあるキューブを取り出す。
!? アレは……!
俺が【帝都】の地下ある遺跡――【ラグーニア】で見つけた〝ギア〟とそっくりだった。
「少々力を使っても構わん。……ソイツを捕らえろ」
ヴォダラが持つキューブが輝くと同時に、今まで浮かんでいるだけだった『呪導師』がゆっくりとドワーツの方へ歩き始めたのである。
しかし当然ドワーツは奴を敵と見なし、俺とシキに向けて放った雷撃と氷雪で攻撃した。
そのまま俺たちみたいに吹き飛ばされると思っていたが、どういうわけか『呪導師』がさっと上げた右手に、ドワーツの攻撃が吸い込まれて消失したのである。
ドワーツはそれでも攻撃を放つことを止めない。対して『呪導師』は右手を上げて吸収しながらどんどん近づいていく。
するとドワーツの身体に『呪導師』が触れた直後、ドワーツの全身が一瞬にして石化してしまったのである。
おいおい、俺たちがあんなに苦労した奴をいとも簡単に!?
「せ、船長! こらぁっ、船長に何をするんですのんっ!」
「あ、おい待てオズッ!」
俺たちの脇を通り抜けて、ドワーツのもとへ駆け出すオズ。
そこへ『呪導師』がこちらに振り向き、またも右手を、今度はオズへとかざした。
まさかオズまで石化させるつもりか!?
俺は咄嗟に《黒一文字》を投げつけると、『呪導師』は俺に意識を向け、飛んできた刀を回避した。
そしてそのままフワリと宙に上がると、石化したドワーツもまた同じように浮上していく。
「あ、船長を返してよんっ!」
ぴょんぴょんと両手を伸ばしながら跳ねるオズだが、すでに手の届かない高さまでドワーツは運ばれていた。
「これでまた一つ、良い駒が手に入ったか。……む?」
ヴォダラが満足気に頬を緩めるが、直後に彼が持っていたキューブにヒビが入って砕け散ってしまった。
「ちっ……やはりレプリカでは一時的操作だけで精一杯か」
レプリカ……? 今そう言ったよな? つまりアレは……俺が手に入れた〝ギア〟の偽物ってことか? それに操作って……。
そしてレプリカということは〝ギア〟もまた同様の使い方をするということだ。
じゃあ……〝ギア〟ってのは、『呪導師』を操るためのものなのか?
〝SHOP〟にも存在しないし、《ボックス》に入れても説明が文字化けしていて分からない。つまりはどういうモノなのかサッパリ分からなかったのだ。
ヴォダラがああまでして求めていた〝ギア〟。なるほど、『呪導師』を操作するためのものだとしたら、それは探す価値のあるものだろう。
しかし今はそんなことよりも……。
「船長! ドワーツ船長ぉっ! 聞こえないのんっ!? 返事してよんっ、船長ぉぉぉっ!」
俺はすぐさまオズのもとへ行き、彼女の腕を掴む。
「! ボーチ! 船長が……船長が!」
「分かってる! けど迂闊に近づくな! 奴らは……何をしてくるか分からん連中なんだよ。……シキ!」
名を呼ぶと、「ここに」と即座に傍に現れた。どうやら感電の負荷もなくなったようだ。
「今すぐここから離れるぞ。ヨーフェルたちにもそう伝えろ」
「御意」
シキがその場から消えると、俺の発言を気にしたオズが慌てて尋ねてくる。
「何でなのんっ! 船長を助けてほしいのんっ!」
「いいから聞け、オズ。さっきも言ったように、奴らは何の情報も無しで戦っていいようなヤツじゃねえ。それにお前も見たろ、あれほど俺たちが苦労していたドワーツを、一瞬にして石化させやがったんだぞ」
「そ、それは……!」
「石化したままならともかく、アイツらはそのまま持って行きやがった。つまりはドワーツを殺す気はねえってことだ」
まあ元々死んでるけど、この際細かいことはどうでもいい。
「船長を取り戻したいお前の気持ちは分かるが、何の策の無しに突っ込んだって意味がない。下手すりゃ全員返り討ちだ。それでいいのか?」
「っ…………ごめんなのん」
どうやら少しは落ち着いてくれた様子だ。
あとはここから離脱するのみである。
「ほう、帝都の愚か者たちとは違い、無暗に向かっては来ぬか。……臆病なのか慎重なのか。いずれにしてもそういう存在は長生きする」
「これはご高説ありがたいことだな。ちなみにその石化した奴をどうするつもりだ?」
「貴様に教える義理はあるまい」
まあそうくるよな……。
「ただ貴様にも少し興味が湧いた。……エルフにモンスターまで従えているというのは非常に珍しい。しかも……この世界の人間が、だ」
目を細め俺を見つめてくる。
ヤベエ……興味を持たれちまったか。ったく、予想外にもほどがあるぞ。
これ以上ここにいたら何をされるか分かったものじゃない。
「名を名乗ることを許そう。さあ、名乗るが良い」
「……はっ、偉そうに上から物言ってんじゃねえよ、バーカ」
俺がそう言った瞬間、シキがヨーフェルたちを連れて俺の傍までやってきた。
そしてすぐさま《テレポートクリスタル》を発動させて、その場から去ったのである。
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