第283話 空からの闖入者
シキが俺を抱えたまま素早く動き回り、奴が乱発する銃弾から回避していく。
おいおい、もうすでにニ十発は撃ってるぞ! 何で弾が尽きねえ!
見たところ、大したマガジンが装備されている様子もなく、精々十発やそこらが限界だと思ったが、まだ弾は尽きそうにない。
アレもファンタジーアイテムの一種なのだと判断し、弾切れを待つのは止めておく。
「シキ、二手に分かれるぞ!」
「了解!」
俺はシキから離れて右側からドワーツ目掛けて駆け寄り、シキはその反対側からだ。
ドワーツは俺よりもシキが厄介だと踏んだのか、銃をシキ目掛けて撃ち始める。
……見縊られたもんだな!
ならその身体で、この《霊刀・黒一文字》を味わってみろと思い、肉薄すると全力で刀を一閃した……が、
「ちっ……片手でか!」
マチェーテであっさりと俺の一振りを受け止められてしまった。
俺はすかさず連撃を繰り出すが、その度にきっちり武器で対応してくる。しかも顔はシキの方に向いているというのだから、ハッキリ言って悔しい。
俺なんか文字通り片手間で十分だということらしい。
――ふざけやがって! ならそのドクロ顔を歪めてやるよ!
俺は予めポケットに入れていた《聖水》が入った小瓶を、奴に向けて投げつけた。
当然奴は小瓶を軽々とマチェーテで真っ二つにするが、その中身までは防ぐことができずに、顔に浴びてしまう。
「ガグァァァァッ!?」
思った通り、かなりのダメージが入った様子だ。顔からジュゥゥゥという音とともに煙が立ち昇っている。
《聖水》とは悪霊や悪魔、不死属性を持つ存在に有効な能力を持つ。コイツは〝霊鬼〟であり、言ってみれば悪霊みたいなものである。だから効くと思ったが、やはり有効打になったらしい。
「シキッ、今だ!」
「承知っ!」
銃を避け続けていたシキに声をかけると、彼がすぐさま俺のもとへ走ってきて、
「「はあぁぁぁぁっ!」」
二人同時にダメージで硬直しているドワーツに向かってそれぞれの武器を振るった。
その結果、俺は右腕、シキは左腕を飛ばすことに成功したのである。
床に落ちた腕は、武器とともに煙のように消失していく。実体化が解けたようだ。
あとは本体だが、《聖水》のせいで本当に歪んでしまった顔で、俺たちを睨みつけてくる。
「ッ……マタ……オレカラ……ウバウ……ノカ?」
そこへ初めてまともな言葉をドワーツが発した。
「船長! 船長、ボクだよん! 分かるん!?」
「ウグゥ……ダレ……ダ?」
「ボクは《オズ・フリーダム号》……船長の船だよん!」
「……ハッ、コノゴニオヨンデ……コンドハ……ワガフネヲグロウ……スルカ」
「え?」
「オレハ……カエル……ンダ…………ソレヲ……ジャマスル……モノハ……スベテハイジョスルッ!」
直後、切断された部分から雷化した腕と、氷化した腕が生えてきた。そしてそれぞれを俺とシキへと向けると、雷撃と氷雪を同時に放ってきたのである。
「「うわぁぁぁぁぁっ!?」」
虚を突かれた攻撃により、俺たちは後方へと吹き飛ばされてしまう。
「……くっ、身体が凍結してやがる……っ」
シキはというと、雷撃を受けてまた痺れてしまっているようだ。それに雷の熱による火傷も負っている様子。
……ったく、とんでもねえ奴だなコイツは。
下手をすればSランクに近い実力の持ち主かもしれない。
「オレハ……カエル……アイツラガ…………マッテルンダァァァァァッ!」
再び天を突くような咆哮を上げるドワーツ。その度に、放電が激しくなり氷雪が吹き荒れる。その影響で、イオルが作り出したシェルターも吹き飛ばされてしまう。
そこで露わになる周囲の海。竜巻が海を巻き上げながら天に昇っていて、また天からは落雷が海へ突き刺さっている。もう天災祭りだ。逃げることもできなければ、迂闊に近づくこともできなくなっている。
凄まじいな。これをたった一人の人間が起こしてるっていうんだからな。
確かドワーツはもう一人の親を殺されたショックで暴走した。その時に一つの街が滅んだらしいが、この光景を見て納得する。
今まさに暴走状態というわけなのだろう。
「船長ぉっ……!」
そんな中で、オズだけが悲痛な声音を絞り出しながらドワーツを見つめている。
ドワーツが生きている間は、オズは今のような幼女の姿は見せていない。だから船だと言われてもドワーツには分からないのだろう。少なくとも暴走している今の彼には。
オズはきっと自分の言葉が彼に届かないことは分かっていながらも、必死で叫び続けるしかないのだ。
それにしてもさっきからアイツ……帰るって言ってるが、どこにだ?
てっきり仲間を殺された憎しみのせいで暴走していると思っていたが、帝国への恨みみたいなものは強く感じない。
それよりも奴には求めているものがある。
アイツらが…………待ってる?
確かにそうドワーツは口にしている。つまりドワーツは帝国への恨みを晴らすために〝霊鬼〟と化したわけじゃなくて、アイツら――仲間のもとへ帰りたいがために、こんな変わり果てた姿になっているということだ。
だがそれも無理な話だ。奴の求める仲間……家族はすでにこの世にいない。
ドワーツの力は嘆きとともにどんどん強くなっていく。このままじゃいずれ、この船ごと潰されかねない。
「ドワーツ船長ぉ! お願いだよん! 目を覚ましてほしいのんっ!」
必死に声を嗄らしながらも大切な主を呼びかけるオズ。だが暴走したドワーツの耳には届いていない。
俺はそんなオズに向かって、あることを聞き出す。
「オズッ、ドワーツは仲間が死んだことを知ってるのか!」
「え……?」
「どうなんだ!?」
「えっと……あの時は……毒で死んでいく仲間たちがいて……それで、仲間たちは死ぬ前に船長だけでも生かそうってことで、船長一人をボクに乗せて出航させたんだよん!」
てことは、ドワーツは仲間がまだ生きている可能性があると思ってる?
全滅するところをその眼で見る前に、彼は海に出されてしまった。そして仲間を助けに向かうつもりだったが、自身にも回った毒で死んだのである。
何人も仲間が死んだ。しかしまだドワーツは、生き残っている仲間が、自分が助けに来るのを待っているかもしれないと思っているのかもしれない。
だからこその先程の発言だとしたら……。
「オズッ、その例の島……お前たちが罠にハマったその島はこの世界にあるのか!?」
「こ、この世界? えと……どういうことなのん?」
コイツ……もしかしてこの世界が自分たちにとって異世界だって気づいてないのか?
まあ海の上じゃ、街でも見なければ異世界だって気づかないかもしれない。
これは情報収集不足だったな。だがとりあえずは、ドワーツの目的が分かった。
奴を動かしている執念が、仲間がいるはずの島への到着だとしたら、そこに辿り着くことで執念が消えて正気を取り戻すかもしれない。
逆に仲間の死を受け入れられずさらに暴走する危険性もあるが。
どちらにしろ、このままやり合っていては、収拾がつきそうにない。ここは一旦引いて、奴が大人しくなる時を見計らって――。
――――――――――ほほう、これは素晴らしい贄ではないか。
俺が一時撤退をしようと思った矢先、空の上から野太い声が降ってきた。
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