第282話 厄介なユニークスキル
「グゥゥッ!?」
苦し気な呻き声。どうやらちゃんとダメージは入っているようだ。
当然攻撃によってシキの存在に気づいて、彼に向かってマチェーテを振り抜く。
しかしシキはバックステップで回避し、そのあとすぐにまた突っ込んで再度攻撃を繰り出そうとするが、ドワーツの身体から発せられる放電が激しくなり、それがシキの身体に直撃し感電してしまう。
ドワーツが身動きを奪われているシキに向かって再びマチェーテを振るう。
「こ、この程度!」
さすがはAランクのシキ。感電しながらもマチェーテを《ソウルガントレット》の刃で受け止めた。
だがそれは悪手。何故ならドワーツに近づくだけ、放電の影響を受けてしまうからだ。
案の定、さらに痺れを増すシキ。そんな彼に向かってマチェーテが頭上から振り下ろされる。
そのままシキの身体が真っ二つになった光景を見て、オズが「ひぃっ!?」と怯えた声を出す。
しかしそこで俺は言う。
「安心しろ。シキはやられてねえよ」
俺の言葉で「……へ?」と呆けるオズは、真っ二つにされたシキを見て理解した。
そこには確かに二つに分かれた物体があるが、それはただの木材だったのである。
シキは身代わりの術を使ってその場を逃れ、気づけばドワーツの頭上へ跳躍していた。
そのまま落下の勢いを利用しながら、逆に相手の頭上から両手の刃を落とす。
「グッ……ガァッ!?」
大ダメージが入ったせいか、身体を硬直させるドワーツ。しかも放電も撃ち消したかのように静まった。思った以上にシキ一人でも十分倒せるかもと思った矢先のことだ。
ドワーツの足元から、彼を守るかのように風が渦巻き出し、傍にいたシキを吹き飛ばしてしまったのである。
「雷の次は風か?」
「アレが船長のスキルの力なのん」
「確か天気の力を使えるって言ってたな……天気……ってことはまさか……!」
嫌な予感がした直後、空からポツポツと雨が降ってきた。それがどんどん激しくなってきて、まるでバケツの水をひっくり返したかのような豪雨となる。
さらに周囲の風もまた吹き荒れるようになって、まるで暴風雨……嵐そのものとなった。
凄まじい雨量のせいで視界が悪くなり、さらには暴風のせいで体勢もまた安定しない。イオルやオズなんかは、吹き飛ばされないように俺に捕まっているくらいだ。
シキもまた姿勢を低くし、体勢を崩されないように耐えている。しかしこの現状を作り出しているドワーツは平然と突っ立っていた。
「くっ、シキ殿の援護をしようにも、この風の中では矢は当たらん!」
ヨーフェルが弓を構えるが、さすがにこの中で矢を射るのは無理がある。
するとドワーツがシキ目掛けて銃を向けて発砲した。
そのままでは銃弾がシキに命中するところだったが、突然シキの足元から生え出た樹木によって守られた。
それが誰の手によるものなのかは知っている。
「イオル、ナイスだ!」
「うん、このまま予定通りあの人の自由を奪う……ね」
今度はドワーツの足場から茨を生み出して、彼の身体を絡め取っていく。
さすがはユニークスキルの持ち主だ。こんな状況でも問題なく力を発揮できている。
そしてドワーツも、突然自身の身体を拘束する茨に戸惑いを隠せないのか、必死でもがいている様子が分かる。
そのせいか、暴風雨も徐々に鎮まっていき、俺たちも自由に動けるようになった。
「よし今だ! 一斉攻撃で奴の力を削れ!」
隠れていた場所から俺は一気に駆け出す。
ヨーフェルは、その場からイオルを守りながら矢を放ち、シキは俺と同じようにドワーツに向かって接近していく。
しかし不意にシキが何かに気づいたようで、俺の身体を抱きかかえその場から飛んで離脱する。
一体何を……と思ったが、俺の進もうとしていた先に、何か大きな物体が落下して船に穴を開けたのだ。
「なっ……に?」
空から何が降ってきたというのかと思って天を仰ぐと、大小様々な塊が無数に降り注いできたのである。
「アレはっ…………雹か!?」
いわずと知れた氷の粒ではあるが、粒と称するにはあまりにも大きい。
実際に日本でも過去にカボチャくらいの雹が降ったと記録されている。当然もし直撃すれば即死級の威力を備えていが……。
「にしても全部がデカ過ぎだろ!」
大小様々とはいうが、最低でも拳くらいはある凶弾の雨である。
もちろん頭に命中すれば脳震盪どころでは済まない。
しかもここら一帯に降らせるとは、屋根がない場所では逃げ場など存在しない。
前に逸話で帝国艦隊をたった一隻で撃退したという話があったが、なるほど、天気を自在に操れるとしたら、海を大荒れにすることも容易いだろうし、今みたいに広範囲に雹を振らせて船自体を破壊することだってできるはずだ。
コイツは間違いなくユニークスキルだな。面倒な!
これほどの汎用性と威力を備えているスキルはユニーク以外にはない。
そんな無数の塊が、今まさに俺とシキへ襲い掛かってくる。何とかして防御しなければならないが、その直後に複数の矢が雹を砕いて飛んで行くのを目にした。
見ればヨーフェルが矢を放って支援してくれているようだ。しかしさすがに雹の数が多過ぎる。ヨーフェル一人では雹の対応は難しい。
するとそこへ船の端から一斉に天を覆うようにして、木がグングン伸びてきて俺たちの頭上で合体したのである。ドーム型の木造天井の完成だ。
当然天から降ってくる雹を、樹木の壁が弾き返していく。
俺はナイスアシストをしてくれたイオルに視線を向けて頷くと、彼もピースサインを向けてきた。ヨーフェルもホッと息を吐いているところを見ると、もしかしたらイオルに指示を出したのは彼女だったのかもしれない。
そしてイオルが能力を発動する時間を稼ぐために、ヨーフェルがある程度の雹を対処していたのだろう。さすがは姉弟、息の合ったコンビネーションだ。
ユニークスキルにはユニークスキルで対抗。イオルだからこそ防げた攻撃だろう。
しかし天井を守るのに意識を集中したことで、拘束していた力が弱まったのか、ドワーツが力ずくで拘束を破り、俺たちに向かって銃を放ってきた。
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