第281話 ドワーツとの戦い

 依頼を達成するとはいったものの、だ。




 まずどうやってドワーツを鎮めるかどうかである。相手にはモンスターじゃない。しかも霊体だ。普通に戦ってもいいものか分からない。


 俺はシキたちに何か意見がないか尋ねてみた。




「そうですな……〝霊鬼〟の身体は魂が実体化したようなものと聞き及びます」


「実体化してるってことは触れられるのか?」


「いえ、特殊なアイテムや武具でしか効果的なダメージを与えられないらしいです」


「私のこの《幻蒼弓》はどうなのだろうか?」


「恐らく大丈夫だろう。ただそれは元々幻術び特化した弓で破壊力は期待できない。足止め程度にしかならないかもしれぬな」




 まあヨーフェルのスキルである《幻術》の相乗効果を狙って彼女に与えたものだからな。




「ただ《スキル》による攻撃などは効果はあるかと」


「じゃあぼくの《プラント》でも……だいじょうぶ?」


「うむ。恐らく強力な矛にも盾にもなる」


「! ……ぼく、がんばる」




 ギュッと両手の拳を握りしめる姿が微笑ましい。




「しかしそれがしも〝霊鬼〟にまともに通じる攻撃手段は持ち合わせておらぬな……」




 シキの攻撃は《スキル》とは違う。故に効果的なダメージを与えられないのだろう。




 なら、と俺は《ショップ》スキルを使って、〝霊鬼〟に対して有効的な武具の検索をしてみた。




 そして――。




「シキ、コレを使え」


「殿? おお……コレは!?」




 シキが両手に装備した物々しさを感じさせる大きくて真っ赤なガントレット。甲の部分にサファイアのような美しい宝玉が嵌められている。




「そのガントレットに意識を集中させながら、刃を出すイメージをしてみろ」


「御意。むぅぅ……! こ、これは!?」




 シキが装備したガントレットの宝玉から、蒼々とした光の刃が爪のような形で顕現した。




「それは《ソウルガントレット》。その名の通り、魂のエネルギーをヤイバに変えることができる武器だ。魂には魂を。これでお前の攻撃もちゃんと通るだろう」


「殿! このような素晴らしいものをよろしいのですか?」


「お前にピッタリの武器だしな。それにお前ならちゃんと使いこなせるはずだ」


「ありがたく頂戴致します!」




 余程嬉しかったのか俺に跪いて礼を述べるシキ。




「そして俺はコイツで相手をする」




 同じように今購入した武器を皆に見せつける。 


 それは一振りの刀。黒い柄に雪のような真っ白い鞘。


 そして鞘からゆっくりと抜くと、その刀身を見て皆がギョッとする。




「く、黒い刃?」




 ヨーフェルが皆が思っているであろう言葉を口にした。


 そう、刀身が墨で塗り潰したかのような姿をしているのだ。




「《霊刀・黒一文字》――それがコイツの名だ」




 これは『黒鮫』と呼ばれる『ガーブル』が、自らの血で造り上げた刀。かの血液には特殊な力が宿っており、対象が持つエネルギー自体を斬ることができる。




「つまりコイツなら、エネルギーの塊のようなドワーツにも対処できるってわけだ」


「す、すっごいのん! 何も何も無いところから何でそんなポンポンと武器が出てくるん!?」




 あーそういや、オズにとっては不思議でしかないか。




「これは俺のスキルなんだよ。詳しく説明してる時間はねえし、今はそういうものだって理解しておいてくれ」


「はぁ……ヒロはビックリ箱みたいな人だねん」




 とりあえず追及は逃れたというところで、さっそくこれからについて話し合う。




「いいか、今回の任務は討伐じゃねえ。あくまでも荒ぶってるドワーツを鎮めることだ」


「うむ。これらの武器があるなら、ドワーツのエネルギーを削っていくことが可能でしょうな。そうして負に汚染されたエネルギーを何とかしていけば、あるいは彼の意識が蘇るかもしれませぬ」


「そうか。じゃあそのためには多少のダメージを与える必要がある。……イオル」


「なに?」


「お前のスキルで対象の動きを止めろ。そこを俺たちが一斉に攻撃を仕掛け、奴のエネルギーを削っていく」


「うん、がんばる」


「あ、あのぉ……ボクは何をすればいいのかなん?」




 そういえばオズに関しては決めていなかった。そもそもコイツは戦えるのだろうか?




「オズは何ができるんだ?」


「世界の海を股に掛けることができるよん!」




 自信満々で胸を張りながら言うが、今のところ足手纏いにしかならない。 


 それを伝えてやると、ズゥゥゥン……と激しく落ち込んでしまった。




 イオルが慰めるが、何の対抗意識なのか「ボ、ボクだって君には負けないよん!」とイオルに向かって言い放った。


 背恰好が似ているからか、俺の役に立つイオルが羨ましいのかもしれない。




「とりあえず、まずはシキ……様子見のために、お前が先行してくれるか?」


「問題ありません。ではさっそく行きますか」




 皆が頷き、もう一度船首の方へ向かうことにした。


 ドワーツは今も船首に立ち、身体から放電させながら咆哮を続けている。




「――参る!」




 俺たちは隠れて様子を見ることにし、シキだけが飛び出していく。


 忍者さながらの素早く足音もない接近に、ドワーツもまだ気づいていない。




 そこへシキがドワーツの背後をついて、さっそく手に入れた《ソウルガントレット》の威力を試す。


 ドワーツの背中に蒼い閃光が走った。




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