第278話 船はボク、ボクは船!
「ちょ、ちょっと待て。お前自身が《オズ・フリーダム号》? どういうことだ?」
「どういうことも何もそういうことだよん?」
コクンと小首を傾げるカボチャ少女ことオズ。
「……じゃあこの船は? お前の乗ってる船は《オズ・フリーダム号》じゃねえのか?」
「だからボクだよん! この船がボクで、ボクは船で!」
……うん、サッパリ分からん。
〝殿、我々の世界では船には魂が宿ると言われています〟
〝魂?〟
〝はい。特に長く……そして大切に扱われた船は、稀にフナダマサマという名前を神が姿を見せることもあると〟
フナダマサマ……ああ、《船霊様》のことか。
それならばこの世界でも存在する話だ。
《船霊様》とは、船に宿る守護神として、漁師や船乗りたちの航海安全や大漁祈願の対象となっているらしい。また日本では、女性の神様のようで、船に女性を乗せるとやきもちを焼いて、海が荒れるなどという面白い話もあったりする。
じゃあコイツがその神様だってか……?
「……ん? ……ぽっ。そんなに熱い視線で見つめられると照れるん……」
カボチャに両手を当ててイヤンイヤンと首を振っている。しかもその度に真っ赤な液体があちらこちらと飛び散る。いいからさっさとその顔拭けよな。
「あーオズ、だったか?」
「はい? もしかしてこれから告白してくるん?」
「寝言は寝て言え、このカボチャお化け」
「酷い!? ボクはお化けじゃないのんっ!」
「じゃなくても怪しさ爆発だろうが。何でカボチャなんか被ってやがる?」
「そ、それは……」
もしかしたら何か重要な理由が隠されて……。
「……素顔を見られるの恥ずかしいのん」
……なかった。
思わず拳骨をくれてやりそうになったが、グッと堪える。
「オズ、お前は船の化身……みたいなものってことだな?」
「おお! そういうことだよん! 船はボク、ボクは船!」
どういう原理かは知らんが、とりあえず船に宿った魂が人型に具現化しているということなのだろう。どうせファンタジーな世界のことだ。そこに理屈など求めてもしょうがない。そういうものだと認識しておこう。
それにこの船が間違いなく《オズ・フリーダム号》であることが判明したので良しとする。
「この船に乗ってるのはお前だけか?」
「! …………」
何だか急に押し黙ってしまった。何かマズイことでも聞いてしまったのだろうか?
「それにこの船は、かつてドワーツ・テイラーってヤツが船長として動かしてたんだろう? しかしそれももう一千年も前のことだって聞いた。何故まだこの船が存在してる?」
本当に幽霊として彷徨っているのか、これでハッキリするだろう。
しかしオズは黙したままジッと動かない。
俺は眉をひそめながら、イオルを顔を見合わせてしまう。イオルも困った様子で首を傾げている。
するとようやくオズが口を開いてくれる。
「…………キミたちは、どうしてそこまでこの船のことを気にするのん?」
「それは……財宝の在り処を探るためだな」
「財宝? ……そっか、キミたちもドワーツの遺産を求めてるんだねん」
少しガッカリといった感じの声音だ。きっとドワーツの宝を求める者は後を絶たなかっただろう。そんな俗物欲に塗れた者たちに飽き飽きしているのかもしれない。
「お前はその遺産の在り処を知ってるのか?」
「……知ってるよん。ボクが管理してるようなもんだしねん。けれど……教えるわけにはいかないのん」
「そうか、だったら別にいい」
「だってアレはドワーツが必死に守り続け……って、諦めるの早っ!? いいの!? 正直潔過ぎてビックリなんだけどんっ!」
「いや、だってな……管理者ってことは、お前が所有者代理ってことだろ? 所有者がいるものを問答無用で奪うのは俺の美学に反するからな」
「…………」
「どうした?」
「君は変わってるのん。今までの連中は、ドワーツの遺産があるって知ると、何が何でも手に入れようとしてきたよん。だってドワーツが集めた財宝は、人間の世界じゃ莫大な富になるからん」
まあそれが普通だろうな。誰だって簡単に莫大な富を得られるなら得たい。特に海賊の宝なんてロマン溢れるし、俺だってそうだ。
だがさすがに所有者がまだ現存しているというのならば話は別である。問答無用で奪うのならば、それはただの賊でしかない。
もしその財宝を手にしなければ、誰かを助けられない、自分の命が消えるなんていうシチュエーションじゃない限りは、強奪はできるだけ避けたいのが信条である。
「良いのですか、殿? かの伝説の海賊のお宝を求めてらっしゃったのに」
「シキ、だったらお前は、今目の前にいるコイツを脅したり痛めつけて、遺産の在り処を聞き出せってのか? そんな小物みたいな真似はしたくねえぞ」
しかも見た目は子供にしか見えないのに、そんなことをしたらあの世にいる親父に殺されちまう。
「それは……そうですな。それがしもそのようなことを平然とできる賊徒にはなってほしくはないです」
まあ、本当に切羽詰まっている状況ならともかく、今はまだ俺の身に命の危険が降りかかっているわけじゃないので仕方ない。
だが……何も財宝そのものを完全に諦めたわけでもない。
だから――。
「なあオズ、何か困ってることはないか?」
「ふぇ? こ、困ってること……?」
「ああそうだ。俺は確かに問答無用でお前から財宝の在り処を聞き出して手に入れようとは思わん。だから……商談がしたいんだ」
「しょ、商談? ど、どういうことなのん?」
オズは分かっていない様子だが、俺のやり方を熟知しているシキたちは、なるほどと頷いている。
「お前が管理してる遺産ってのは大事なもんだろう。生半可な対価じゃ、他人に分け与えてやれないもんのはずだ」
「それは……そうだねん」
「だからその対価に見合うような依頼をお前が俺にしてこい。それをこなした暁には、その遺産の一部でもいいから俺にくれ」
「…………!」
またも衝撃を受けたかのような感じで、俺を見つめながら固まるオズ。カボチャの中の素顔はきっと呆気に取られているだろう。
「……依頼……困ってること………………き、君は一体何者なのん?」
「ああ、そういやこっちは名乗ってなかったな。俺は――日呂。坊地日呂。商売人……だな。まあ広く言えば『何でも屋』が正しいような気もするがな」
「商売人……何でも……屋」
するとしばらくオズは沈黙し、ブツブツとこちらには聞き取れない声で呟き始めたので、俺は彼女からの返答を待っていた。
そして意を決したかのように、オズが口にする。
「ほ、ほんとにボクの依頼を受けてくれるのんっ!」
「もちろん、だがちゃんと対価はもらうぞ」
「う、うん! もしほんとに………………を救ってくれるなら、ボクは何だってするよん。だからボクに力を貸してほしいのんっ!」
「よし、商談成立だな」
これで依頼を達成すれば、正規のルートで海賊のお宝をゲットすることができる。
そう、これが俺のやり方だ。問答無用より、断然こっちの方が美しい。
ただ気になるのは、誰にも遺産を渡したくないという強い意志を持っていたオズが、それを手放しても叶えない願いがあること。それほど困っていることがあることだ。
恐らくはかなり困難な依頼であることが分かる。
「オズ、依頼内容は?」
さあ、鬼が出るか蛇が出るか……。
「――――――――ドワーツを救ってほしいんだよんっ!」
思わず「は?」となるようなことを要求してきた。
当然俺は、どういうことなのか詳しいことを聞くことにする。
そしてオズは粛々と語り始めた。彼女と……そしてドワーツの長い長い物語を――。
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