第277話 カボチャのお化け?

 霧の中に飛び込むと、やはり濃霧のせいか周囲が真っ白で何も確認できない。


 どことなく冷気が漂っているのか、肌寒い感覚がある。




「化けて出るな化けて出るな化けて出るな化けて出るなぁぁぁ」




 本当に怖いのか、俺を抱きしめる力が徐々に強くなっていく。……苦しいんだけども。




「これは……何か異様な気配に包まれていますな」




 シキの言う通り、冷気の他にピリピリとした空気感も伝わってくる。




「……ん? ヒロさま、あっち」


「む? どうしたイオル?」


「あっちの方から何か聞こえた気がした」




 俺は何も聞こえなかったし、シキも同様だったが、今のところ何も手掛かりがないので、イオルの指差す方へ向かうことにした。




 するとしばらくして、霧が徐々に薄くなっていき、ある程度視界が開けた場所へと出る。


 そこで俺たちはギョッとし、言葉を失ってしまう光景を目にした。




 海面に浮かぶ大破した船の数々。大小様々であり、中にはマストと帆しかないものや、半ばからガッツリ船体が折れているもの、燃えたのか炭化しているものなど千差万別だ。


 ただいえることは、どの船も見るも無残に〝死んでいる〟ということだろう。




「なるほど。船の墓場とはよく言ったものだな」


「はい。しかしこれだけの船が一カ所に集うなど……不可思議なこともありますな」


「何だか……かわいそう……おふねさんが泣いているよ」


「イオル……」




 どうやら彼には船の嘆きが聞こえているらしい。感受性の高いこの子だからこそ感じ取るものがあるのかもしれない。




「……む! 殿、あちらから何かがやってきます!」




 今度はシキが霧の向こうを指差した。警戒態勢を敷く。


 すると霧を突き破るように、そこから巨大な影が姿を見せた。




 そしてそれは――。




「…………海賊……船?」




 大きなドクロマークを描いた帆を有した船だった。


 また俺の脳裏にある船と、まさしくその船が合致したのである。




「オズ……フリーダム号……!」




 船体はボロボロで、何故今もなお航行し続けられているのか不思議なほどだが、見た目は確かに〝SHOP〟で確認したドワーツ・テイラーが乗っていた《オズ・フリーダム号》だった。




「……殿」


「どうやら幽霊船ってのは事実みたいだな」




 何故なら船体の端々が、まるで人魂のようにユラユラと揺れているのだ。つまりはこの船は巨大な人魂のようなものである可能性が高い。


 ゆっくりと目の前を通り過ぎていく《オズ・フリーダム号》。




 そのまま甲板が目前に辿り着いたその時、俺たちは――ソイツを見た。


 子供のような小さな身体。血のように真っ赤なワンピースを着て、右手にはランタンを持っている。




 そして――――何故か頭部は目と口の部分が開けられたカボチャだった。




「あれれぇ? 珍しいお客さんだよん。ヤッフ~」




 しかも……喋った。


 そのカボチャ少女の頭部にはチョコンと魔女が被るようなハットが置かれている。




「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ、お化け出たぁぁぁぁぁっ! ……きゅぅ~」




 突如現れたカボチャ少女を見て、ヨーフェルがとうとう限界値を通り越し倒れてしまった。


 さらに、だ。




「えぇぇぇぇぇぇっ!? お化け出たのぉっ!? 怖いよぉぉぉぉぉんっ!」




 いや、お化けはお前だから。何怖がってんだよ。


 と思わず、目の前にいる不可思議な存在に心の中にツッコんでしまった。




 カボチャ少女が、慌てふためきながら走り周り、コテッと躓いて転倒してしまう。


 そこへフッと意識を取り戻したヨーフェルが、「あいててて」……と言いながら立ち上がるカボチャ少女に視線を向けた。




 すると何故か被っているカボチャの頭頂部から赤い液体が溢れ出ていて、カボチャが真っ赤に染まっていたことで……。




「血塗れだぁぁぁぁぁぁっ!? ……きゅぅ~」


「えぇぇぇぇぇぇっ!? 血塗れぇぇぇぇっ!? 怖いよぉぉぉぉぉんっ!」




 いや、もういいからこの流れ。


 マジでこのガキがお化けだとしてもはしゃぎ過ぎだろう。まったく怖くない。




「おい、いいから少し落ち着け」


「血塗れ怖い血塗れ怖い血塗れ怖いぃぃぃん……!」


「いや、だから話を聞けって。ていうかそれ、本当に血なのか?」


「……え?」




 俺の言葉を受け、カボチャ少女がポタポタと自分の頭部から落ちている液体を見て、「……あ」と何かに気づいたかのように、魔女ハットの中に手を入れてあるものを取り出す。


 それは一つのグラスで、その中にちょっとだけ赤い液体が入っている。




「あぁ……このあと飲もうと思ってたのに…………トマトジュース」




 トマトジュースかよ……。つか何でそんなとこに入れてるんだコイツ? てかお化けなのに飲めるのか? いや、そもそもマジでお化けなのか?


 いろいろな疑問が渦巻くが、それよりも話を聞いてもらうことにする。




「ちょっといいか?」


「ん? ……ボクのことかな?」


「ああ。聞きたいことがあるんだが……」


「おお! ボクに聞きたいこととな! いいよん! 何でも答えてあげるよん! ドンとこいよん!」




 何だか独特の喋り方をする奴だな……。


 ただ胸を張っている姿は、何となく愛嬌があって微笑ましい。




「えっと……お前って何?」


「ボク? ボクはオズだよん!」


「……オズ? ……? もしかして《オズ・フリーダム号》と何か関係があるのか?」


「もっちろんだよん! だって《オズ・フリーダム号》とはこのボクのことだからねん!」




 …………は?






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