第275話 ホラー系な話だった
「話を聞かせてくれて感謝する」
「いいえ! 俺もハクメン様が信じてくれるってだけで嬉しいですから! あ~これで自慢できるぅ~!」
ハクメンという存在は、彼ら『ガーブル』にとっては恩人であり、中には救世主のように考えている者もいて、すこぶる好感度が高いのだ。
簡単にいえば人気絶頂アイドルみたいなもの。故にハクメンが信じているというだけで、それが真実になり得てしまう。
黒でも白になるようなもので、何それちょっと怖い……と思うが、慕われているのは確かなので、今後も俺のために働いてもらうように支援だけは変わらず続けることを決めている。
俺はそのあと、再度ブリッツから船についての話をすべて聞いたあと、《ジェットブック》に乗って空へと上がり、ジッと海を見回していた。
「マスター、もしかして例の海賊船を?」
「ああ、どうやらドワーツ・テイラーが乗っていた船っぽいしな。見つけたら財宝に関してもしかしたら何か有益な情報が得られるかもしれねえし」
「ですが突然消えるような船なのですか?」
「それなんだよなぁ……」
少なくともそんな仕掛けは《オズ・フリーダム号》には備わっていないはずだ。もしそのような便利な能力を持っているなら、〝SHOP〟の説明にも書かれているだろう。
ということは船自体の能力ではなく、何らかの外的要素によって消失したと考えられる。
ファンタジーアイテムを駆使するなら、そういうことも容易にできる。
俺がよく使う《保護色シート》で船を覆えば、周りの景色と同化して見えなくなるだろうし、それに似たアイテムも幾つか存在する。
「また誰かのスキルによる力ってのも考えられるかもなぁ」
「なるほど、スキル。……しかしだとするなら、今もその船に誰かが乗っているということだが。ドワーツが海賊をやっていたのは一千年以上前のことだぞ」
「ううむ……たとえば一千年以上生きるような種族がクルーにいて、今もそいつがいるとか?」
「一千年以上となると、我々のような『エルフィン族』になるだろうが、『エルフィン族』でも一千年以上もの時を生き続けられるのは数少ないし、生きていても一人くらいだろう。たった一人で一千年も船を保てるだろうか? ずっと航海し続けているとしたら、船にも寿命が来て壊れてしまっていると思うが」
確かに、ヨーフェルの考察は的を射ている。クルーが生きていたとしても、船がそのまま生き続けられているとは思えない。ブリッツが見た船が《オズ・フリーダム号》ならば、木造建築だろうし、さすがに一人で修理をし続けて航行させることは不可能に近い。
仮にどこかの造船所で新しくしたとしたら、俺の〝SHOP〟にも改修後の船が乗っているはず。
しかし幾つかドワーツが乗っていた船は商品として載せられているが、やはり最後の船は《オズ・フリーダム号》で間違いないないと書かれていることから、ここから大幅な改修が行われたとは思えない。
つまり今、海を彷徨っている船は、ドワーツが降りるまで乗っていた《オズ・フリーダム号》であろう。
しかしだとしたら、どうやって一千年もの間、その形を保ち続けてきたのか。
「そういえば……ブリッツさん、気になることも言ってた……よ?」
「気になること? ……ああ、そういや言ってったっけな」
イオルの言う通り、ブリッツから面白い話も聞けた。
「確か、海を漂う幽霊船の話だな」
ブリッツ曰く、アレは間違いなく幽霊船らしい。
何でも異世界の海には、いろいろ逸話があり、その中には霧深い海域に、不意に発見される幽霊船の噂もあるのだ。
それはふとした時に海に現れたと思ったら、しばらく海を漂ったあとに、これまた不意に姿を消す謎の船との話。
ただしそれが海賊船だという話は流れていないという。いや、正確には海賊船もある……ということ。
どうやら船が現れる海域には、大破して今にも沈みそうになる船が幾つも周りに出現し、その中を、まだ比較的無事な船がプカプカと浮いている。
見た者は、まさしく船の墓場だと断じているとのこと。
「船の墓場に漂う幽霊船……か」
「ユウレイ……ちょっと見たい」
「ん? イオルはそういうの大丈夫なのか?」
「べつに平気……でも」
チラリとイオルがヨーフェルの方を見やると、彼女は真っ青な顔で震えている。
ああ、苦手なのはコイツの方だったか。
「……ヨーフェル?」
「な、何だ!?」
「いや、そんな声を張り上げなくても。ていうか……幽霊――」
「幽霊などこの世にいるわけがないだろう! ははは、マスターも変なことを言うものだ! 幽霊船もただの噂で、誰かが尾ひれをつけただけの戯言なのだから信じるに値しない! 故にマスターもそんな話に踊らされることもないぞ!」
…………どうやらガチでホラー系はダメっぽいな。今度皆でホラー映画の上映会でもしたら面白そうだ。
〝それはさすがに酷ではないですかな〟
シキがツッコんでくる。
まあ、それはそれとして……。
「お前には悪いが、幽霊船の正体を突き止めるつもりだぞ、俺は」
「うっ……イ、イオルはそんなバカげた話は信じないよな?」
「ごめん。ぼくもちょっと……興味ある」
賛同を求めたイオルの裏切りに膝を折るヨーフェル。
「ということでさっそく幽霊船の捜索を始めてみるか」
「おー」
「うぅ……二人が乗り気だ。こんなことなら留守番していたら良かった……」
後ろで嘆いている奴は放っておいて、俺は《鑑定鏡》を使って眼下に広がる海を眺めていく。
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