第274話 謎の海賊船

「最後は…………ああ、あれだな。空飛ぶ庭園の話だ」

「またファンタジーな言葉が出てきたな」


 海賊の財宝や幻の遺跡などは、地球にももしかしたら……ってこともあったかもだが、さすがに空を飛ぶ庭園は存在しないだろう。


「これも実はそのヨミヤの手記に書かれていたもので、何でも雲のようにずっと空を漂う庭園があるらしいのだ」

「へぇ、それが何で財宝と関わりあるんだ?」

「その庭園には古代アーティファクトの大量に眠っているという話で、それらを売ればかなりの財産を築けると言われている。古代アーティファクトを欲する権力者や研究者などは後を絶たないからだ」

なるほど。それほどの価値があるもんなら、〝SHOP〟でも高値で売却できそうだ。

「そのどれか一つでもこの世界に飛ばされてきてるなら良いんだが……」


 《サーチペーパー》で探させてみるのもいいが、情報量があまりにも少ないため難しいかもしれない。


「……あ、そういえばこの前、『ガーブル』たちとダンジョン攻略に向かった時に、彼らから奇妙な話を聞いたな」

「奇妙な話?」

「うむ。何でも夜中の海にボロボロな帆船が漂っていたと」

「ボロボロな帆船が?」


 今時帆船……か。珍しいが無いこともないが……。


「どんな帆船だったか聞いたか?」

「あまり詳しくは。ただ――海賊船のように見えたと」

「何だと?」

「大きな帆には、ドクロマークらしきものが記されていたようだ」

「夜中なのによく分かったな」

「夜目が利く種族だったからな。それにマスターから授かった双眼鏡で確認したようだ」

「海賊船……ね。何とも今していた話題に沿った話だな」

「だがまだ続きがあってだな。何でもほんの少し目を離していただけで、船がまるで霧のように消失したと言っていた」

「おいおい、見間違いじゃねえのか?」

「さあな。見た者はソイツだけで、マスターの言うように本当に見間違いという可能性もある」


 ボロボロの帆船。しかも海賊船という。それが海に漂っていて、ふとした瞬間に消える。

 まるで物語にもあるような幽霊船だ。


 ただ今までしていた話にも海賊が登場していたし、何となく気にはなる。


 しかしながら例のドワーツ・テイラーという海賊は、死ぬ前に船を降りたという話だし、仮に異世界からやってきた船だとしても、ドワーツ・テイラーが乗っていた海賊船とは無関係かもしれない。


 俺は何気なく〝SHOP〟を開いてドワーツ・テイラーと検索ワードをかけてみた。

 すると幾つかヒットする項目がある。


「――《オズ・フリーダム号》、ドワーツが最後に乗っていた船の名前か」


 やはり帆船で、巨大なドクロマークが描かれた帆が目立つ。かなり機動性に優れている船らしく、その時代では『最速の船』として名を馳せていたようだ。


 他にもドワーツが所有していた剣や服などの商品も売っている。それもプレミアがついているようでかなり高い。ドワーツが被っていた帽子があるが、これだけでも十億の値がついている。


 まあコレクターなら、十億を出してでも欲しいと思っているのだろう。


「……なあヨーフェル、その例の海賊船の話をした奴のところに行きたいんだが」

「は? まさかさっきの話を?」

「ああ、ちょっと確かめたいことがあってな」

「分かった。なら私が案内しよう」


 そうしてイオルもついてくるということで、三人(当然シキは影の中)で《ジェットブック》に乗り、海賊船の話をした『ガーブル』がいる島へと向かった。



 そこは『猿人族』が住む島で、その一人が例の海賊船を見たとのこと。

 さっそくヨーフェルに、件の猿人を連れてくるように言った。


 やってきたのはブリッツという名の青年で、俺が海賊船の話を聞きたいと言うと嬉しそうに語ってくれたのである。


「いやぁ、さすがはハクメン様だ! 誰も俺の話なんて信じてくれなくてつまんなかったんですよー!」


 彼は周りに吹聴したらしいが、誰も見ていないということで信じてはくれなかったらしい。ままオンボロな海賊船が、急に海から消失したなどという話を信じてくれる人はそうはいないだろうが。


「それよりもお前が見たという船は、このような造形だったか?」


 そうして俺は手に持っていたあるものを見せた。

 そこには昨今のプラモデルのように繊細な作りをしている船の模型がある。


 これは《錬金土》というもので造り上げたもの。この土は、錬金術師が扱う術のようにイメージするだけで、見た目そっくりの造形物を作り出すことが可能になるのだ。


 ただし元々土なので、水には弱いし、強い衝撃を与えてしまうと崩れてしまう。観賞用としては立派なものではあるが。


「おっ、おおぉぉぉっ! これっす! これですよぉー! 俺があの夜に見た船は! まああん時の船はもっとボロボロでしたけど、確かにこんなドクロマークが描かれてました!」

「……そうか」


 まさかと思って確かめたにきたが、本当に的中するとは意外だった。


「マスター、その船はまさか……?」

「ああ、ドワーツ・テイラーが最後に乗っていた船だ」

「! つまり彼の船がこちらの世界へ?」

「その可能性が非常に高くなったな。……ブリッツ、見間違いなどではないのだな?」

「みんなそう言うんですけど、俺は確かにこの目で見たんですよ! これでも視力には自信あるし、夜目だって誰にも負けないつもりっす!」


 確かに猿の中でも〝メガネ猿〟は、非常に夜行性に適した目を持つ。どうやら彼は、そのメガネ猿のような視力を有しているようで、その気になればマッチほどの明るささえあれば、真っ暗闇の森の中でも昼間と同じように見ることができるという。


 それが当日は雲が一切ない満月の夜でもあったことから、月明りで非常に明るかった。だからこそハッキリと確認することができたらしい。




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