第273話 さらなる金儲け

 教団の一件が片付いたあと、俺は小百合さんと蒼山に挨拶をするとすぐに【幸芽島】へと帰還していた。




 長い長い教団生活……別に信者をやってたわけじゃないが、少しはゆっくりと島で暮らすのも悪くないと思っていたのである。 




 何せSランクとの交渉とバトル、ヤクザの襲撃などなど、立て続けに仕事をし過ぎた。


 できればのんびりと悠々自適なスローライフを送りたいが、なかなかそれも難しい。




 特にSランクと対峙してよく分かった。あれは最早大災害レベルだ。もしこの島に襲い掛かってくれば、今の状態だと一溜まりもない。




 現在120億以上もの所持金はあるが、これを全部費やしたとしてもSランクを簡単に退けられるかといわれれば首を横に振らざるを得ない。




 やはり一兆くらいないと……。




「もう手あたり次第の建物とか問答無用に売り捌いてやろうかなぁ」




 できるだけ他人の持ち物を不当に売却するのは避けてきたが、最早盗賊よろしくな精神で行くべきかもしれない。




 ただ俺にも俺なりの美学というものがある。それに反する行為はあまりしたくない。


 しかしながら明らかに放棄された施設や物件などならどうだろうか。




「でも名義が残ってる物件は売却率が低いんだよなぁ」




 実はそうなのだ。以前試しに他人が所有する二階建ての一軒家やビルなんかも《ボックス》に収納して売却値を確認してみたいのだ。




 すると元々の購入値段が5000万円とすると、売却値は――250万円。つまりはたったの5%程度ということだ。しかもこれは購入してまだ一年未満の物件に対してのみ。




 無論売却対象物は、物件だけにあらず汚れや傷などがついていたら査定が落ちるし、家なども長く住んでいるだけで価値が下がる。




 だから実際はもっと安い値段でしか売れないというわけだ。


 そんな中で一兆円稼ごうと思ったら、それこそ街から建物が一切消えかねないだろう。




 そうなれば、何か俺自身が終末を起こしている気さえしてしまい気分が悪い。




「もっとこう……が~っと一気に稼ぐ方法はないもんか」




 俺は家の前に設置したテラスにて、そんなことをぼんやり考えながら椅子に腰かけていると、そこへイオルとヨーフェルが近づいてきた。




「何やら魂が抜けたような顔をしているぞ、マスター?」


「もしかしてどこか具合……わるいの?」




 二人が心配して声をかけてきてくれた。




「いや、そうじゃないぞ。体調はすこぶる良好だしな。……そういや最近、ヨーフェルと一緒にニケの島へ行って農作を手伝ってやってるそうじゃないか、イオル」


「うん……まーちゃんがよろこんでくれてるから」




 本当にまひなと仲が良い。まひなも良い子ではあるので、そのまま真っ直ぐ純粋に育ってほしいものだ。




「しかし意外だったぞ。まさかマスターが他人の島の利益になるようなことを許可するとは」


「お前ね、俺をどんだけ心の狭い人間だと思ってんだよ。別に俺に害がない限り、基本的には俺は誰も縛ってないつもりだぞ。ヨーフェルにもイオルにも、好きなことはさせてるだろ?」


「それは……そうだな、従者としては嬉しい限りだ」




 まあイオルはまだ従者ってわけじゃないが。




「と、そのようなことより何故マスターは体調も悪くないのに、そのような様子なのだ? 何か心配事でもあるのなら教えてほしい。私にも何かできるかもしれないからな」


「ぼくも、がんばる……よ?」




 二人の心遣いはありがたいが、こればかりはなぁ。それに彼女たちは異世界人だし、地球に眠る財宝とかも知らないだろうし…………ん? 待てよ、異世界……か。




「……なあヨーフェル、異世界……お前たちが住んでいた世界に、たとえば財宝伝説とかそういった儲け話などはなかったか?」




 もしかしたらそういう隠し財産がある島などが、こっちの世界に飛ばされてきているかもしれない。




「儲け話? ふむ……」




 やはりそう都合の良い話はないか。




「……そんな話なら幾つかあるぞ」


「だろうな。やっぱ楽して儲かる話なんて……って、ある?」


「うむ、それほど詳しくはないがな」


「お、教えてくれ!」


「お、おう。何やら急にやる気になったなマスター」


「いいから早く!」


「わ、分かった。おほん……まず有名なのは海賊ドワーツ・テイラーの隠し財宝だな」


「海賊……か」


「ああ。今はもう存在しないが、かつては我らの世界で最も勇名を馳せた人物だった。何せ帝国艦隊三十隻を相手に、たった海賊船一隻で迎撃したというのだからな」




 それは凄い。帝国艦隊がどれだけ強かったか分からないが、それでも数は三十倍だ。普通なら八方を囲まれて終わりのはず。それを逃げ遂せるのではなく迎撃したというのだから驚きでしかない。




「その時代において、最強の海賊であり船長であるドワーツもまた天下無双の男だったらしい。だが晩年、彼は病に倒れてしまう。その際に船を降り、何十年とかけて集めた財宝をどこかの島に隠したとされている」


「なるほど、それが隠し財宝ってわけか」


「ああ。しかし当然名のある冒険者たちやトレジャーハンターどもが、こぞって財宝の在り処を見つけようと奔走した……が、少なくとも見つかったという話は聞いていないな」




 仮に見つけたとしても誰にも言わないと思うが。




 それでも可能性としては、もしその島がこっちに飛ばされてきているなら調査の価値はありそうだ。




 伝説ともなっている海賊が残した財宝だ。金を集めるうんぬんはおいておいても、男として少し興味がある。




「あとはそうだな……【幻のダイヤモンド遺跡】か?」


「おお、聞くからに女が飛びつきそうな話題だな」


「まあその名の通り、宝石の一つであるダイヤモンドがたくさん取れる遺跡らしい。噂では遺跡そのものがダイヤモンドでできているとか」




 それは凄い。もし手に入れられれば十回くらい人生を遊んで暮らせそうだ。




「ただしこちらも幻とあって誰も見たことはない」


「それなのに何故噂が?」


「これは謎の冒険者だった〝ヨミヤ〟という男が残した手記に書かれていたのだ」


「ヨミヤ……?」




 その名前……どこかで聞いたことがあったが、どこだったか?




「すでに故人らしいがな。そのヨミヤが遺した手記には、数々の冒険譚が書かれてあって、その一説に【幻のダイヤモンド遺跡】のことが書かれていたらしい」




 だが残念ながらその場所そのものは記載されていなかったという。








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