第271話 報酬はしっかりと
「――鳥本さん」
「! ……小百合さん……と、蒼山さんですか」
俺に声をかけてきたのは、これから会おうとしていた人物だった。
「何です? 私はついでみたいな感じですね」
キッと睨みつけてくる。やはりこの人の男嫌いは緩和してなさそうだ。
「もう葵さん、ダメですよ、それに言いたいことがあるのでしょう?」
「あ…………はい」
俺の前に立った蒼山だが、目をキョロキョロとさせて、どこかバツが悪そうな表情を浮かべている。
そしてスッと腰を曲げ頭を下げた。
「助けてくださって、ありがとうございました」
「え? ……ああ、死者蘇生のことですか。別にいいですよ、何てことないですし」
「いや、十分大それたこと……というかあり得ないことだと思うんですが……」
顔を上げた蒼山がジト目で見つめてくる。
「まあラッキー程度に思っていてください。それにあなたを助けたのは、そう小百合さんが望んだことです。お礼を言うなら彼女に」
「それでも……私は普通なら死んでいました。こうしてまた……小百合姉さんと一緒にいられるのはあなたのお陰です。だから……感謝しています」
少ししおらしい感じになっている。いつもこんな感じなら良いと思うのだが。
「だから本当にいいんですって。俺はただ依頼をこなしただけです。……小百合さん」
「はい。その件もあって来ました。鳥本さん、どうぞこちらへ」
小百合さんの先導によって、俺は黙ってついていく。
案内されたのは教会で、そのまま裏口の方から入った。
確かここには地下水路に通じる隠し通路があった。
そことは違い、通路をそのまま真っ直ぐ向かって突き当たりへと出る。何もないと思いきや、壁に巧妙に隠されていたスイッチを押すと、天井部分が開いて上に行くための階段が現れたのである。
ずいぶんと隠し通路が多い教会だなここは……。
そのまま上るように言われたので、二人のあとを追っていくと――。
「へぇ、これは大したものですね」
そこは屋根裏部屋になっていて、結構広い空間があり、そこかしこに食料、武器などが保管されていた。
今じゃ食料や武器は金よりも貴重品だ。奪われないために、小百合さんの指示で隠されているとのこと。
またここのことは小百合さんと蒼山さんと、他数名しか知らず、管理を蒼山さんが行っていたらしい。
あの襲撃の際、ここに籠城しても良かったのだが、相手の人数も多いし逃げ場所も失うことから放棄するしかなかった。故にこうしてまた戻って来られて本当に良かったと小百合さんは言う。
そして蒼山さんが、俺に向かって突き当たりに置かれている大きな長方形の箱を指差す。
それは巨大な金庫になっていて、蒼山さんがダイヤル式の鍵を回してロックを解除する。
扉が開くと、その中にはギッシリと札束や貴金属類が収められていた。
「おお、こんなにたくさん……!」
「今の世の中には必要のないものですが、あなたへの対価のために蒼山さんにお願いしてコツコツと集めてもらっていたのです」
教団に俺を縛り付けるための金銀財宝というわけだ。
「どうぞ、納めてくださって結構です」
「え? 全部ですか?」
「元々あなたへの依頼料として用意したものですから。それにあなたは多くの信者を……葵さんを救ってくれました。何を差し出したって足りません」
「……そういうことでしたら遠慮なく」
俺は金庫に触れると、そのまま《ボックス》の中へと収納した。
「あ、相変わらずその不可思議な力は驚きますね」
言葉を発した蒼山さんだけでなく、小百合さんも同様に目を見開いている。
「あ……金庫は返した方が良いですか?」
「いえ、お持ちください」
小百合さんの許可も頂いたことで、その厚意に甘えることにした。一見したところ億は下らないので、一体どれだけの収入になったのか、あとで調べるのが楽しみだ。
「さてと……では小百合さん」
「……行かれるのですね」
「ええ。もう滞在する理由がなくなりましたから」
「……寂しくなりますね」
「もっとも、またご入り用なものがあればいつでも。見返りさえあれば飛んでくるような腰の軽い男ですので」
「それ……男としてどうなんですか?」
いちいちツッコまないでくれ、蒼山。
「ただ……不安ではありますね」
「蒼山の懸念は加賀屋さんのことですか?」
「……はい。信じたくはありませんが、本当に今回の事件、彼女が起こしたことだとしたら、また私たちが狙われる可能性があります」
「俺もいなくなるというのに?」
「それでも、です。あの人は一度狙った獲物は必ず仕留めるまで動きますから」
うわぁ、蛇みたいな女だな。
「そうですか。でもまあ……大丈夫だと思いますよ」
「え?」
「ああいう恩を仇で返すようなクズには、必ず天罰というものが下りますからね」
「ふふ、神様を信じていないあなたがそれを言うのですか?」
「……おお、蒼山さんがそんなふうに笑ったのを初めて見ましたね」
「っ……別に笑ってなんかいませんから」
「いいえ、葵さん、可愛らしい笑顔でしたよ?」
「さ、小百合姉さんまで! もうっ、知りません!」
俺たちにからかわれてそっぽを向く蒼山。
そんな彼女をよそに俺は、加賀屋について思考する。
そう、罰は下る。いや、下すだけだ。
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