第263話 撃てるものなら
「……え……えと、何?」
凛羽も突然の諒治の変わり様に戸惑いの声を上げている。
すると諒治はお腹を抱えながら説明していく。
「母さんに忌み嫌われるようになったとか……自分で言ってて笑いそうになったわ。あーおかしい! そんなもん、噓に決まってるだろう?」
「う、噓?」
「そうだよ凛羽、噓だよ噓。凛羽は優しいなぁ。親友を傷つけた男相手でも、しっかり同情するんだから」
「酷い……何でそんな嘘なんか!」
「……別に。何の意味もないかな」
「え?」
「俺の噓に意味なんてないよ。俺は昔からこうだった。周りに完璧に見せてたのも、それが面白かったからだ。そうすることで、大抵の人間は俺を信じたしな。そうして他人を欺くのが楽しかった。だから別に苦なんかじゃなかったんだよ」
「昔からって……いつからなの?」
「そうだな……小学生の時はもうこの生き方が楽しくて仕方なかったかな」
……それじゃあ……。
「じゃ、じゃああの優しかった諒治くんは? 私やケイちゃんが困ってる時はいつも助けてくれた諒治くんも……全部偽物だったの?」
「おいおい、偽物ってのは酷いな。俺はただ単に、演じてやっただけじゃないか。お前らが望む優しい幼馴染像ってやつをな」
言葉が出ない。それは質問をした凛羽もそうらしい。
まさかアタシたちがずっと見てきた諒治が、彼が演じてきたキャラクターだなんて誰が理解できるだろうか。
アタシに酷いことをしたといっても、それは高校生の頃に悪い人と付き合ったことでおかしくなったのだと思っていた。
だって子供の頃の諒治は本当に優しい、とても良い子だったから。誰にも好かれるような。だからアタシも惹かれた。
それなのに良い子を最初から演じていたということ。つまりは誰かの影響で狂ったのではなく、コイツは最初から狂ってしまっていたということだ。
そんなの……そんなの…………悲し過ぎるわよ……!
「ケイちゃん……」
アタシがもう情けないやら怒りやら恐怖やらで震えていると、心配そうに凛羽が声をかけてくる。
凛羽もどう言葉にしていいか分からず明らかに困惑気味だ。教祖様たちも、想像以上の人格破綻者相手に呆気に取られている様子。
そしてそんな中、ただ一人冷静さを欠くことなく見守っていた人物がいた。
「……ふむ、なるほど。つまり君は救いようのない腐った人間だということだね」
――鳥本だった。
「あぁ? そういや何だお前? 確か『乙女新生教』ってのは男はいないんじゃなかったか?」
「ああ、それはリサーチ不足だね。俺は鳥本健太郎――『再生師』さ」
「再生……? 何言ってんだお前?」
「君に理解してもらおうとは思わないよ。もっとも、頭の悪そうな君は一生理解できないかもしれないけどね」
「っ……なるほど、死にたいわけか」
今度は鳥本目掛けて躊躇なく引き金を引く諒治。
しかし鳥本は身を翻して回避する。
「ちっ……おいこら、次避けるようなら、まずコイツらから撃つ」
銃口を教祖様に向けながら諒治が言う。本当にクズだ。アタシが言うのも何だが、よくもそこまで平気で人を撃てるものだ。きっと今まで数多くの人間を殺してきたのだろう。
避けると教祖様を撃つと脅され、鳥本は大きく溜息を吐く。
「やれやれ。どうやら君も、俺の主が大嫌いな人種らしい」
……主?
一瞬、コイツが何を言ったのか分からなかった。主ということは、誰かに仕えているということだ。だがこれまで接してきて、そういう話を鳥本から聞いたことがない。
何せコイツはずっと旅をし続けてきた人間のはずだから。だから不思議に思った。
そして銃口が再び鳥本へと向く。同時に他の男たちの照準もだ。
これでは回避しようにも無理な話である。
「動くなよ? まあ……命乞いでもすれば助けてやるかもしれないけどな」
「……そうやって言うことを聞かせることに快楽を覚えてきたんだね。哀れな男だな君は」
「……あ?」
「暴力や権力だけで、これまで多くの人間を欺いたり傷つけたりしてきたんだろうね。そうして自分の思い通りに事を運んできた。……けどね、そんな薄汚れた力で動く人間ばかりじゃないんだよ」
「何だと?」
「さあ、撃つといいさ」
鳥本が笑みを浮かべながら両腕を広げる。
アタシはそれを見て、何故が震えが止まった。
「と、鳥本! アンタ何言ってんの! 止めなさい!」
何故男であるはずの鳥本なんかの心配をしてるのか。言葉を発したアタシ自身が驚いていた。
しかし鳥本は一切の怯えなど見せずに立ったままである。
「……脅しでも何でもないぞ?」
「だから?」
「何で怯えない? 何で命乞いしない? そんなに死にたいのか?」
「どうぞ。殺せるものなら」
「何?」
一体鳥本は何を言っているの? 殺せるものならって、諒治は平気で人を傷つけるし、そして殺すことだってできる。アイツの目は人殺しの目だ。……アタシと同じ。
それなのに怖くないっての……?
「……気に入らないな。何の自信があるのか分からないが…………極道を舐めんなよ?」
諒治が引き金にかけた指に力を込める。当然それを誰も止められない。
「鳥本っ、逃げ――」
アタシが声をかけようとした直後、銃声が響き渡り、鳥本の胸に命中してしまう。
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