第261話 釈迦原の悲劇
それは高校卒業の日、アタシは諒治を呼び出していた。
幼い頃から、凛羽を含めていつも三人一緒に行動していた。まるで家族みたいな繋がり。
ただその中で、アタシは諒治の真っ直ぐで優しいところに惹かれ、ついにこの想いを伝えるために動いたのである。
そして呼び出した諒治に意を決して言った。
「ア、アタシは諒治が好き! 付き合ってくださいっ!」
もちろん人生初めての告白だ。緊張と不安で心臓が潰れるかと思った。
「ああ、俺も桂華のことが大好きだ」
まさに天にも昇るような気持ちだった。両想いだったのだ。これほど嬉しいことはない。
アタシは諒治と恋人同士になり、すぐさまそれを応援してくれた凛羽に伝えた。
凛羽はアタシを抱きしめ、まるで自分のことのように喜んでくれたのである。
そうしてアタシは、大好きな諒治と新たな関係を作ることに成功した。
一緒にショッピングにも行った。海にも山にも。お互いの家でデートもした。
本当に楽しかった。優しい恋人だけじゃなく、アタシには頼りになる親友もいる。世界で一番自分が幸せなのではないかとさえ思うほどに人生を楽しんでいた。
しかし――――その時は訪れた。
初めて諒治と旅行するということになり、アタシは覚悟をしていた。
泊まりなのだ。夜には同じベッドで……そういうことになるだろうと覚悟していた。
アタシも諒治が求めてくれるならと、少し怖かったが期待もしていたのである。
そして諒治が用意してくれたというホテルに入った瞬間、アタシは目を疑った。
そこには見たことのない男たちがいたからだ。しかも他にも裸の女性たちが何人もいて、その身体を男たちに蹂躙されていた。
「え、えっと……りょ、諒治?」
アタシは絶対に部屋を間違えたであろう諒治に助けを求めたが、
「さあ桂華、お客さんがお待ちだぞ」
「……え?」
客? ……何のこと?
「いやぁ、初物は高く売れるんだ。桂華……俺のために頑張ってくれるよな?」
笑顔。それまで見てきたアタシの好きな彼の表情とは異なっていた。酷く歪んだ、利己的で醜い顔だった。
「ああ、大丈夫。あとで俺も愛してあげるから、さ」
その言葉をきっかけに、アタシの地獄が始まった。
無理矢理服を破られ、泣き叫ぶアタシを、見知らぬ男が組み敷いてくる。
「嫌……嫌よっ! 諒治! 助けてっ! 助けてよ諒治っ!」
だがまたも目を疑う。何故なら諒治は、他の女性を、その欲望のままに凌辱していたのだから。
「嘘……嘘よ……こんなの……嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
何度助けを請うたか分からない。しかしその声は無情にも、何の救いにもならなかった。
男たちが次々と、代わる代わるアタシの身体を蹂躙していく。
そして当然諒治も。
「さあ、愛し合おうよ、桂華」
何度も。何度も。何度も何度も何度も。
気が付けばアタシの目の前には凛羽がいた。まるで大切な人が死んでしまったような、そんな悲しそうな表情でアタシを見ていたのである。
アタシは諒治に裏切られ、この身体を売られてしまった。
その事実を知った凛羽は、アタシよりも泣き叫んでいた。
それからしばらくして、落ち着いた凛羽から事情を聞いたのである。
どうやらあの地獄が始まってから、すでに三日が過ぎていて、アタシはよれよれのバスローブを着させられたまま、地元の路地裏に放置されていたらしい。
何故凛羽がアタシを見つけられたのか、それは非通知で見知らぬ男から電話が来て、アタシの居場所を教えられたという。
凛羽も、ずっとアタシと連絡が取れなかったことを不安に覚えていたようで、すぐに飛び出して行った。そしてアタシを発見したというわけだ。
恐らく見知らぬ男というのは、諒治の周りにいる男のことだろう。
諒治に騙され、この身体を穢されたことについて、もちろん凛羽に言った。
当然凛羽は怒り心頭に、すぐに諒治とコンタクトを取ろうとしたが、それから諒治は行方を眩ませ、一切見つけ出すことができなかったのである。
風の噂では諒治はヤクザとの繋がりがあって、海外に渡ったとか何とかで、アタシたちの前に姿を見せることはなかった。
当然警察を頼ったが、帰ってきた返事は芳しくないものばかり。しかも諒治には母親しかおらず、その母親も消息を絶っていたのである。
それからアタシは男を見ると恐怖を抱くようになっていた。それが一年ほど続き、その間も凛羽が甲斐甲斐しく、家に引きこもっていたアタシを支えてくれていたのである。
そんな矢先、たまには散歩でもしようと凛羽の提案を受け、勇気を出して近くの公園まで外出することにした。
だがそこでまた男と問題を引き超こすことになる。アタシがトイレに行っている間に、凛羽が男二人に言い寄られていたのだ。
その光景を見たアタシは、恐怖よりも凛羽までアタシと同じになってしまうと恐怖し、気が付けば落ちていた棒を拾い上げ、男どもに振り回していたのである。
男たちは堪らず逃げて行き、アタシは凛羽を守ることができた。
この時からだろう。男に対する恐怖が、すべて憎しみに変わったのは。
そして諒治に強い怒りと憎しみを抱いた。ただこの気持ちをぶつけたいという思いとは裏腹に、二度とあんな奴と会いたくないという気持ちも強かった。
そうしてまた一年近く過ぎた頃、世界が一気に豹変したのである。
それが今の変わり果てた世界。
こんな世界になったことで、益々諒治との縁は切れたと思っていた。仮にどこかにいるとしても、もう二度と会わないだろう、と。
しかし――――それは起きてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます