第256話 率いる者

「答えてほしいんだけど、君たちは何者かな?」


「っ……はあ? てか何で男がこんなとこにぐぅっ」


「聞かれたことだけに答えろ。さもなくばこの首……落とすぞ?」


「ひぃっ!? わ、分かった! 答える! 答えるから!」




 シキが鎌を首にかけて脅し、男は涙目で叫ぶ。




「お、俺らは『宝仙組』だ!」




 ……何だと?




「『宝仙組』? あの『火口組』の系列組織のか?」


「そ、そうだ! その『宝仙組』だよ!」




 これはどういうことだ? 何故今になって『宝仙組』が?




 確かに以前、『乙女新生教』とぶつかって、危うく戦争になるところまで来ていた。しかし身内の裏切りによって、『宝仙組』筆頭であった若頭である宝仙闘矢は殺されたのだ。




 頭を失った組は解散したと思っていたが……。




「君たちを率いている人物は誰だい?」


「そ、それは……」




 言い淀むが、再びシキの殺気を浴びて、堪らず男は白状してしまう。




「お、押倉さんだよ! 押倉諒治! あの人に命令されたんだ!」




 押倉? 聞いたことのない名前だな。




「どういう経歴を持つ人間なんだい?」


「あ、あの人は元々『桜煉』ってチームの頭で――」




 この男から聞いた話。




 押倉諒治という男は、まだ十九歳と若く、中学の頃から不良グループとの関りがあったとのこと。




 高校生では『桜煉』というグループを作り、まあ簡単にいえばやんちゃをしていたらしい。




 そして『宝仙組』の宝仙闘矢に目を掛けられ、グループを解散した後すぐに組に入った。何でもこの世界に誘ってくれた闘矢を慕っていたようで、その闘矢を殺した『乙女新生教』を許せずに、こうして攻めに来たのだという。




 その目的は当然復讐。教祖である小百合さんだけじゃなく、皆殺しにするつもりだ。




「待て。宝仙闘矢を教団が殺した?」


「ああ、押倉さんはそう教えられたって言ってた」




 どうやらここに集まった男たち、押倉含めて真実を知らないらしい。




「……誰に?」


「さ、さあ……そいつは知らねえが、確かな筋って話だ。なあ、もう話しただろ? 頼むから助けてくれよ!」


「……君はヤクザなのにずいぶんヘタレなんだな?」


「お、俺は本当は組員なんかじゃねえよ! ただ押倉さんが暴れられるって言うから来ただけで!」




 どうやらその押倉とやらは、組員を動かしたわけじゃなく、そのほとんどを知り合いから集めたチンピラで構成しているようだ。




 それにこの男も二十歳程度で若い。ここに集まっている男どもも、ヤクザほどの覚悟もないただのガキどもらしい。


 だからすぐに命乞いをするし、情報も簡単に吐く。




「一つ聞くけど、君は銃を持ってここに入ってきた。きっと真正面に俺が立っていたらすぐに撃ってたよね?」


「そ、それは……」


「それにここに来る間に、君は何人殺したのかな?」


「っ……」


「楽しかったかい? 人を殺すのって? もしかしてゲーム感覚でやってたのかな?」




 俺はこの男が持ってきた銃を、彼の額に突きつける。




「人の命を奪っておいて、自分の命は助けてくれって言うつもりかい?」


「た、たたたた頼みます……! い、い、命だけはどうか……っ!?」




 怯えた顔。その酷く歪んだ瞳からは涙が流れ出している。しかも失禁して下半身を濡らしていた。




 俺はただただ後悔し、命乞いをする男を見下ろしながら静かに口を開く。




「…………お前に自分の命を惜しむ資格はねえよ」




 引き金にかけた指に力を込めた。 


 乾いた音が響き渡り、男は額から血を流して項垂れるようにして息絶える。




「殿、これからどうされますか?」




 本当にどうするか。こうなった以上、巻き込まれないように離脱するのが一番賢い。


 ただ勿体無いという気もする。




 せっかく『乙女新生教』という大口顧客が手に入ったのだ。ジャングル化の問題も解決し、あとは時間をかけて稼がせてもらおうと思っていたのに。




 教団は大分数が減ったとはいえ、まだ宝石類などの蓄えは結構あるらしいし、俺との契約のために金目の物を集める活動だってしていた。




 俺のための労働力をここであっさりと失う。それで黙って立ち去った方が良い?




 今回、ガラフェゴルン攻略やベルゼドアの転居などに多くの金を要した。だからこそ大口顧客をできる限り失いたくはなかったのだ。




「……シキ、もう一仕事できるか?」


「殿の御心のままに」




 押倉諒治……俺の商売の邪魔をするっていうなら容赦はしねえ。








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