第254話 移転
「さあ行くぜ! ジジイも気張れよな!」
オレミアが気合を入れると同時に、彼の身体から先の《暴食オーラ》に似た光が輝き、それがどんどん広がっていく。
光はベルゼドアだけではなく、彼が広げたジャングルにもまた伸びる。
するとベルゼドアも「むぅぅぅぅ!」と唸り声を上げ、その直後から広がっていた森が、面白いことにベルゼドアに吸収されるように引いていき始めたのだ。
「おお~! 森がなくなっていくですよぉ!」
ソルも嬉しそうに飛び回っている。
しかし俺はジャングルに棲息していたモンスターたちはどうなるのか気になった。
目を凝らしてみると、モンスターたちも森と化して吸収されている。
「凄まじいな……」
これだけ大規模に広がった森をすべて吸収するなんて圧倒される。ものの数分足らずで、半径数キロに渡って拡大化していたジャングルが消失してしまった。
そしてオレミアが再びここへ戻ってくる。
「よし、これで良いんだろボーチ?」
「ああ、助かる」
とはいっても全部コイツらのせいではあるが。それでも素直に言うことを聞いてくれたことには感謝しておこう。
「だが放っておいたら、また侵食が起こるんじゃねえのか?」
「フォッホッホ、オレミアが無事ならば問題ないのう」
ベルゼドア曰く、今回の侵食が起こった原因はオレミアの衰弱によるものだという。たとえ離れていたとしても、オレミアが十分に力を発揮できる状況にあれば、侵食は止められるらしい。
なるほど。今回、オレミアはガラフェゴルンに殺されそうになっていた。だから侵食を止める力が弱まっていたってことなのか。
「じゃあオレミアが死なない限りは侵食は起こらないって解釈でいいんだな?」
「うむ。それで間違いないのう」
だが一つ確認しておくことがある。
「なあベルゼドア、いや、オレミアもだが、お前たちはこうして異世界に飛ばされてきた。この世界でお前たちは何をするつもりだ? それとも元の世界に戻りたいのか?」
コイツらがその気なら、日本、いや、世界を滅ぼすことだって容易だ。だから確かめておきたかった。敵になるか、味方になるか。それともそれ以外、か。
「ふむ、儂にとってあちらの世界での役目はとうに終えておる。別に戻りたいとは思わんのう。それにオレミアがおれば、どこぞの世界でも儂は構わん。また進んで暴れようとも思っておらんよ。そういうのはもう止めたからのう」
「……オレミアは?」
「俺様か? 決まってんだろ! 男ならナンバーワンでオンリーワンを目指すべきだ!」
「……はい?」
いきなり何言ってんだコイツ……。
「いいかボーチ、俺様にとっちゃ人生なんてもんは、面白いケンカができるかどうかなんだよ! そんなガチバトルでてっぺんを獲る! それが男ってもんだろうがよ! ワッハッハッハ!」
ああ、そういえばコイツはそういう奴だったっけか?
「じゃあお前は手当たり次第に暴れるのか?」
「あん? おいおい、俺様をそこらの二流喧嘩師と一緒にすんなよボケ!」
いや、そもそも喧嘩師なんていねえからな。
「俺は超一流だぜ? 弱え奴らとバトっても意味ねえだろうが。俺は強え奴とタイマン張ってぶち倒す! そんで俺様が天下無双だって証明するんだ! そういやそこのカザだったか? なかなか良い雰囲気出してんじゃねえか。どうだ、一発俺様とやらねえか? きっと気持ち良いぜ?」
後半部分の言葉だけを取るなら、マジでただのゲスイ奴の発言である。
「ふむ。拙者もオレミア殿と刃を交えるのは興味が惹かれるでござる」
「おお! マジか!? じゃあやろうぜ!」
「待ってくれオレミア」
「んだよ、ボーチ! 止めんなよな! もう火照ってんだよ俺様は!」
ああもうコイツ、暑苦しい奴だ。
「別にケンカするなとは言わん。ただここで暴れられたら、せっかくジャングル化から街を守ったのに元も子もない。やるなら別の場所でやってくれ」
カザだってやる気みたいだし、殺し合いってわけでもないようなので模擬戦くらいは良い。ただAランク以上のモンスターが全力でぶつかり合うと、さすがにここらへんが更地と化してしまいかねない。
「じゃあどこだったらいいんだよ?」
……こうなったらどこか広い土地を用意してやる必要があるか。できる限り周りに被害が出ないような場所を。
「ちゃんとあとで用意する。そこで一つ提案なんだがな、ベルゼドア」
「む? 何じゃ?」
「ここから転居する意思はあるか?」
「転居、じゃと?」
「ああ。ここには人間がまだたくさん住んでるし、いつまた侵食が起きるとも限らねえ。それに人間が興味本位、あるいは害意を持ってお前に接触してくる可能性も高い」
そうなればベルゼドアの怒りを買って、結局はまた俺が何とかしないといけなくなる。その可能性はできるだけ避けておきたい。
「儂はどこに住もうが問題ないのう。オレミアが同じ世界にいるというのであればな」
「それは問題ない。オレミアもそれで文句はないか?」
「ジジイが選んだんならどうだっていいぜ。ただ俺様の自由を奪うってんなら容赦しねえがよぉ」
俺は二人に転居の意志があることを確認しホッと息を吐くと、少しここで待っていてほしいと言ってから《テレポートクリスタル》を使って転移した。
やって来たのは周りすべてが水平線に囲まれた海の上。
さっそく〝SHOP〟であるものを購入し、すぐさま《ボックス》からソレを取り出した。
すると何もなかった海上に、ポツンと大きな島が出現したのである。
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