第253話 大樹と鳥

「マズイ、あの閃光が来るぞ!」


「んなもん本調子の俺様に当たるわけがねえよ! しっかり捕まってろよ、ボーチ!」




 閃光が俺たちに向けて放たれるが、オレミアは余裕の笑みを浮かべながら旋回して回避する。飛行速度も速いし、何よりも機敏だ。




 まるで挑発するかのように飛び回り、閃光が消えたあと、悠々といった感じの表情で、その場を後にしたのである。




 途中、合流地点に設定しておいた場所に降り立つと、そこにはシキとカザが待ち構えていた。


 《念話》ではずっとやり取りをしていたので、俺の無事は彼らにも確認させていたのだ。




「殿、ご無事で何よりです」




 それでもシキは当然のように言葉をかけてきた。




「おお、オレミア殿も見事元気になられた様子でござるな」




 カザはオレミアを見上げながら笑みを浮かべている。




「おいボーチ、コイツらがオメエの『使い魔』なんだな? ……ずいぶんちっこい奴らだな」


「いや、Sランクのお前と比べるなって。これでもAランクの中では上位なんだぞ」


「へぇ、そりゃおもしれえ。おいオメエら、いっちょ俺様と殺し合いしてみねえか?」




 マジで物騒な鳥である。ついさっきまで死にそうだったってのに。どうやらねっからのバトルジャンキーのようだ。




 聞けば強そうな気配がしたから、この南極まで飛んできたらしく、そこで威嚇してきたガラフェゴルンと衝突したそうである。




「殺し合いは勘弁してくれ。オレミア、飛んでる間にも説明したが、ベルゼドアの侵食をお前なら止められるんだよな?」


「ああ、本来なら『ヒュロン』……じゃなかったか、ニンゲンって奴のために働くなんて真っ平ごめんだがよぉ、ボーチの頼みなら聞いてやらんこともねえ」




 脳筋バカではあるが、こうして義理堅いのはこちらとしてはありがたい。いくら助けたといっても礼すら覚えない奴が相手だと、言うことを聞かせるのも一苦労になる。




「助かる。それじゃ今からさっそくベルゼドアがいる場所まで飛ぶぞ」


「飛ぶ? 俺が連れて行きゃいいのか?」


「いや、俺が持ってるアイテムがあれば一瞬で向こうに辿り着ける」


「ほう、ボーチもただのニンゲンじゃねえってわけだな」


「俺は少し変わったスキルを持ってるだけの人間だ」


「…………どうやら嘘は言ってねえみてえだな」




 俺の目をジッと見つめ判断したオレミア。聞いていた通り、ラジエのような《真贋視》みたいな能力があるようだ。




「ここが異世界ってのがまだ信じられねえけど、スキル持ちの異世界人なんてもっと驚きだぜ」


「けど本当のことだ。今から向かう場所を見れば、もっと納得するはずだ。それじゃさっそく行くぞ」




 俺たち全員がオレミアの背に乗る。当然オレミアの許可を得てだ。そのままの状態で、《テレポートクリスタル》を使用した。


















 ベルゼドアがいる街の上空へと転移してきた俺たち。




 ここから見るとそれまでそこに広がっていた街並みが、鬱蒼と茂ったジャングルに飲まれているのがよく分かる。




 もう大分侵食は進んでいるようで、『乙女新生教』の拠点である教会にも、もうすぐ達しようとしている感じだ。




 何とか間に合ったみたいだな。




 見た感じ、誰もまだベルゼドアにケンカを売っている連中はいない。まあジャングルの中には、逃げ遅れて彷徨っている人間はいるだろうが。




「おお、おお、こいつはスゲエじゃねえか! 何だこのデケエ街はよぉ! それにバカみてえに高え建物ばっかだ! あの塔なんて俺の何倍だよ!」




 オレミアもまたベルゼドアと同時期に飛ばされてこっちに来たようだが、そこは南極にほど近い海の上だったらしい。だから地球の街並みをその眼にしていなかった。




「おいボーチ、ここはなんつー国だ?」


「日本っていう国だ。ここはその中の、ほんの一つの街でしかねえよ」


「マジか!? うひゃあ……マジで異世界だったんだなぁ。ん? ベルゼドアもいるじゃねえか。おーい、ジジイ!」




 叫びながらベルゼドアのもとへと飛んで行くオレミア。




「……んん? …………誰じゃったかいの?」


「もうボケちまったのかよ、ジジイ!」


「フォッホッホ、冗談じゃよ冗談」


「オメエの冗談は笑えねえんだよ!」


「どうやら無事じゃったようじゃのう」


「おう。不覚にもコイツに救われちまったぜ」


「ほほう……お主は……そうか、期待はしておらんかったが、よもやお主がのう」




 まあ『使い魔』を持っているとはいえ、たかが人間にオレミアを探し説得できるとは思っていなかったのだろう。




「ベルゼドア、これで約束は守った。どうか侵食を止めてほしい」


「ふむ……オレミアよ、お主はどうなのじゃ?」


「言ったろ、コイツに救われたってよ」


「たかが『ヒュロン』だがのう」


「コイツはたかが、じゃねえ。少なくとも同士を大事にしてる奴だ」




 オレミアがそう言うと、ベルゼドアがチラリと俺の肩の上に乗るソルを見て「なるほどのう」と口にした。




「……まるでかつてのヨミヤのようじゃわい」




 ……ヨミヤ? 一体誰のことだ?




「オレミアが決めたのであれば儂に否応はなし。……オレミア」


「おう! ボーチ、一旦下ろすぜ」




 俺は《ジェットブック》を出して、その上にソルたちとともに乗った。


 するとオレミアがそのまま上昇していき、ベルゼドアの頭上でピタリと止まる。










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