第252話 オレミアの力

「これ……は? 身体が……力が戻った?」


「だから言ったろ。お前を救うことだってできるってな」


「オメエ……オメエは一体……!」




 まあすぐそこに死神が命を刈り取ろうとしていたのにもかかわらず、一瞬で状況を覆したのだから驚きもするだろう。




「さっそくだがオレミア、軽く状況を説明するから聞いてほしい」




 だがオレミアは身体を起こすと、しばらく何も言わずに俺を見る。そのまま俺の肩にいるソルを見て、目をスッと細めたのち、再度俺の目を見据えた。




「…………まずは名乗れ」




 そんなことをしている場合じゃないんだが、俺を見定めるような彼には有無を言わさない迫力があった。




「いや、さっきも名乗ったんだが……」


「んなもんしんどくて覚えてねえわ。もう一度名乗れ。今度はちゃんと……刻むからよぉ」


「……日呂だ。坊地日呂」


「ボーチ……ヒロ。ならボーチ、お前もちゃんと刻め。俺様は誇り高き『暴食樹・ベルゼドア』の半身――オレミア。『森霊鳥』のオレミアだ」


「オレミア、話を聞いてくれるな?」


「ああ、俺様に二言はねえ。一度口にしたことは守る主義だ」




 俺は掻い摘んで、今の状況を説明した。




「――なるほど。俺様はガラフェゴルンに利用されちまってたわけだ。ちっ、いけすかねえぜ。このクソ亀がよぉ!」


「そういうことで、今のうちにここから脱出したい」




 まだガラフェゴルンは、俺たちの存在に気づいている様子はない。だがそれも時間の問題だ。




 その時、凄まじい衝撃がやってきてその場を揺らした。




 ……カザか。最後の一手。十分にガラフェゴルンを引き付けておいてくれよ。




 作戦開始と同時刻、カザには《ジェットブック》で遥か上空まで向かわせ待機させていた。シキたちの攻撃が終わり次第、最大の技でガラフェゴルンの気を引くように指示したのである。




 Aランクの中でも上位に位置するカザならば、きっとガラフェゴルンも無視することはできないはずと睨んだ。


 だから必ず意識がまたも分散する。だがそれでもうこちらの手は尽きる。




「オレミア! すぐに出るぞ!」


「けっ、いいぜ! なら俺様の背に乗りな、ボーチ!」


「え?」


「このクソ氷に、俺様を閉じ込めてくれた礼をしなきゃなんねえしな。ぶっ壊して脱出してやるよ!」


「はは、そりゃいい。きっと奴は驚いて言葉を失うだろうよ」


「ワッハッハ! そりゃあいい! そいつは見ものだな! さあ、乗れオメエら!」




 俺はソルと一緒にオレミアの背に乗り込んだ。




「よっしゃあ! しっかり捕まってろよぉぉぉ!」




 大きく翼を広げたオレミアが、頭上に向けて飛翔する。


 当然その先には分厚い氷の壁が行く手を遮っているが……。




「――《暴食オーラ》!」




 突如オレミアの全身から赤い光が放出され、それが球体状に変化してオレミアの全身を包み込む。




 するとその光に触れた氷が、徐々に削られていくではないか。次いで周囲に細かい亀裂が走る。




 もしかしたらこの亀裂は、外にいるはずのカザの攻撃によるものなのかもしれない。


 そのままどんどん氷壁を、まるで食っているかのように減らしていき、そして――。




 俺たちは見事、澄み切った大空の下に出ることができたのであった。




「よっしゃ、さっそく野郎にリベンジかまして――」


「ちょ、待ってくれオレミア! 今のうちに奴の領域から離脱してくれ!」


「あぁ! 何でだよ! 俺様に負けっ放しでいろってのかよ!」


「頼むからリベンジはもっと場を整えてからにしてくれ! それにアイツはSランクモンスターの『怠惰亀』なんだぞ! Sランクとはいえ、半分の力しか持たない状態のお前じゃ、また返り討ちに遭う可能性が高え!」


「ぐっ……!」


「また氷の中に閉じ込められていいのか? さすがにもう助けられねえぞ!」




 実際にこんなに救出作戦が上手くいったのは、ガラフェゴルンが圧倒的に油断してくれていたお蔭だ。次はもう全面対決をする必要があるかもしれない。


 というより、これ以上無駄に金も浪費したくないのだ。




「リベンジならベルゼドアと一体化してからにしてくれ!」


「け、けど男としてこのまま引き下がるなんて……!」




 くそ、意外にしつこい。こうなったら……。




「ならせめて一度ベルゼドアと会ってからにしてくれ! そうすればもう何も言わん!」


「…………ちっ、オメエは命の恩人だからな。ここで暴れて死なせちまったら事だ。わーったよ。ここは大人しく言うことを聞いてやらあ」




 すると何を思ったのか、オレミアが大きく息を吸い込み始め、そして――。




「このクソガメェェェェェッ! 今度会ったらその甲羅ごとミンチにしてやっからなぁぁぁぁ! 覚えとけボケェェェェェッ!」




 何とも子供っぽい叫びだこと。




 ただ愕然としていたガラフェゴルンもまた、その声によって正気に戻ったようにオレミアを睨みつけ、再び《氷甲籠》を輝かせ始めた。






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