第251話 解放

 俺はオレミアの背に乗りながら、何とか作戦が上手くいったことに安堵を覚える。




「ワッハッハッハッハ! おい見ろよ、ボーチ! あのガラフェゴルンの呆気に取られた顔! オメエが言ってた通りになったなぁ! こりゃ最高だぜ!」




 豪快に笑いながら喋るのはオレミアだ。嬉しそうにガラフェゴルンの表情を見ている。


 俺はそんなオレミアを見ながら、この作戦のことを考えていた。




 単純に正面から行っても、ガラフェゴルンは攻略できない。ただ氷山の中に入るのは簡単だ。一度足を踏み入れた以上、《テレポートクリスタル》を使えばいいから。




 しかし中に入ると、必ず気づかれて対処されてしまうだろう。下手をすればそのまま氷漬けにされかねない。




 でも中には入る必要がある。つまりは中に入ってもなお、オレミアを救出できるだけの時間を稼げるかどうか、だ。




 それにはガラフェゴルンの意識を、氷山から少しの間だけでいいから離す必要だった。




 そしてその間に、オレミアを氷から取り出し、現状を説明したのちに、一緒に脱出を図る。Sランク相手には、かなり綱渡りの作戦だった。




 こちらとしては犠牲は一切出したくない。なのであまり好ましくはないが、大盤振る舞いで《コピードール》を使用することにした。




 またシキの分身も使って、ソルに化けさせ、ガラフェゴルンを襲撃するように命じた。もっとも分身は攻撃力を持たないので、ガラフェゴルンを傷つけることはできないが。


 ただガラフェゴルンの意識は空へと向くだろう。




 そうして今度は海中からの接近だ。《コピードール》にキラータートルへ変化させ、近づけさせた。ただこれも当然対処してくるだろうと予想していた。




 案の定、ガラフェゴルンは身体を回転させて《コピードール》たちを排除したのだ。


 だがこれで海中にも意識を向ける必要があると認識させられた。




 空と海への意識の分散。加えて、《コピードール》でガラフェゴルンを模して、遠目に配置させた。当然ガラフェゴルンのような攻撃などできないので、ただ置くことだけしかできない。




 それでもガラフェゴルンの意識は、今度は陸へと分散させ、かつもう一体の自分が現れたことで、そこに警戒が一気に集中するだろう。何せ一番危険だと思われる相手だからだ。




 次に分身ソルの群れの中に、本物のシキを《テレポートクリスタル》を使って投入させる。そこで分身ソルたちをシキへと戻して、同時に《爆手裏剣》での攻撃だ。




 ただしガラフェゴルンに当てても大したダメージにはならない。故にわざと別の場所を攻撃させて、ガラフェゴルンの考えを揺さぶることを選んだ。




 意味不明の攻撃を繰り出したことで、必ず相手は何か企んでいると思うからだ。これで思考の誘導もできた。


 俺はその隙に氷山の中、オレミアがいた場所へと《テレポートクリスタル》で転移する。




 時間はあまりない。さっそく予め購入しておいたあるものを取り出す。




 それは――《封滅香ふうめつこう》。




 蚊取り線香のような見た目のソレは、当然ファンタジーアイテムの一種であり、その効果は字のごとく封印の力を消滅させることにある。




 火を点けることにより発生する煙を浴びた存在は、いかな封印といえど破砕してしまうのだ。


 俺は作戦を実行する前に、再度ガラフェゴルンの氷山を鑑定した。




 すると《氷甲籠》という名の、えげつない能力を秘めたものだということが分かったのである。




 氷の中に閉じ込めた存在から、徐々に生体エネルギーを奪い取り、そのエネルギーを自在に操作することができる。




 しかも閉じ込める対象として、自身の攻撃がヒットしたものなら何でもというのだから恐ろしい。もしシキが攻撃を受けていたことが分かっていたら、この冷たい氷の中に閉じ込められていたということだから。




 ただ時間制限もあるようで、攻撃がヒットして間もないくらいに閉じ込める必要があるらしい。だからもうシキは大丈夫だろう。


 このことから、この《氷甲籠》の特性として〝封印〟だということが分かった。




 なら話は簡単だ。その封印を解いてやればいい。幸い〝SHOP〟には、そういう商品は売っている。


 俺は《封滅香》に火を入れ、立ち昇る煙をオレミアが封印されている氷に近づけた。




 すると煙に触れた氷に亀裂が走り始め、砂上の楼閣のようにボロボロと崩れ落ちていく。




 どうやら上手く救出できるようでホッとしたが、氷から出てきたオレミアは、そのまま前のめりに倒れてしまったのである。


 当然焦った。もしかしたら手遅れだったのかと。




「おい、しっかりしろ! オレミア!」




 鳥にしては大きな頭部にそっと触れながら、そいつの名を呼ぶ。


 すると閉じられていた目が微かに開かれる。




「っ……オメエ……は……誰……だよ……?」


「良かった! まだ生きてたんだな! 俺は坊地日呂。ベルゼドアの頼みで、お前を助けに来たんだ」


「ジジ……イ……の……?」


「ああ、そうだ」


「なら……ジジイ……に……伝え……てくれ……。俺は……もう……ダメ…………だって……な」




 かなり衰弱している。いつ死んでもおかしくないほどだ。恐らく《氷甲籠》に閉じ込められ、積極的にエネルギーを奪われていたのだろう。




 そしてもう致命傷。自分の死期がそこまで来ていることを彼は分かっているのだ。




「悪いが、お前をここで死なせるわけにはいかねえんだ」


「っ……オメエ……みてえな……ちっぽけな奴に…………何ができる……ってんだ?」


「舐めるなよ。こう見えても俺にはできることが山ほどある。当然お前を救うことだってな。実際にガラフェゴルンに囚われたお前を今救ったのは俺だぞ?」


「まさか……」


「信じられないか? なら信じさせてやる。だがその見返りに、俺の言うことも聞いてもらうぞ」


「…………好きに……しな。どうせ……無理だ。もし……どうにか……できたなら…………この俺様の力ぁ……貸してやるよ」


「言質は取ったぞ」




 俺はすぐさま《エリクシル・ミニ》を取り出し、オレミアの口へ流し込む。


 すると彼の巨体が眩い光を発し始め、覇気も失われガリガリに見えた身体に活気が戻って来る。




「――――っ!?」




 オレミアも、自身に漲る力が蘇ったことに気づいたのか、勢いよく目を見開き驚愕の表情を浮かべた。








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