第247話 シキ死す!?

「ヤベエッ! しっかり捕まってろ!」




 かなり急激な方向転換のせいで落下しそうになるものの、何とか《ジェットブック》から振り落とされないように、その場から離脱することができた。




 紙一重にかわした閃光は、その先にあった氷山を丸々と削る。その光景を見てゾッとしたものを感じつつ、低空飛行で移動する……が、目先にあった穴から急にキラータートルが飛び出てきた。




「先回りかよっ!?」




 全力でブレーキをかけて止まる。前に投げ出されそうになるが、カザが俺の身体を掴んで押し留めてくれていた。




 その間にも、俺たちに向かって、鮫のように鋭い牙が生えた口を開きながら飛びついてくる。




「何の、陸地ならば!」




 すかさず前に跳んだシキが、その鎌で見事キラータートルを寸断する。


 しかし次々と穴から新たなキラータートルが湯水のように湧いて出てくる。




「大将っ、背後から光が!?」




 さらには後ろから閃光がこちらへと放たれる。




「くそがぁぁぁぁぁぁっ!」




 ほとんど真上に飛行する――が、そこで気づく。まだ地上にはシキがいることに。




「!? シキィィィィッ!?」




 すぐに《ジェットブック》の上から、シキの姿を確認しようとするが、すでにそこには閃光が走っていて、キラータートルをも巻き込んで雪面を大きく削っていた。




 自分で出したくせに、お構いなしの攻撃によって、シキが巻き込まれてしまったのだ。




「そ、そんな……シキさんが……!?」




 ソルも顔色を青ざめてしまっている。




 あの近くに影でもあれば、そこに身を潜ませ回避することもできたかもしれないが、あの周りには障害物もないし、影なんてできない。




 つまりは……。




「シキ……嘘だろ」


「っ! 大将、また次が来るでござる!」




 まだガラフェゴルンの攻撃は終わっておらず、空の上に佇む俺たちに向かって再度閃光を放ってきた。


 とにかく回避を優先して、そのままちょうど良い大きさのクレバス(割れ目)の中へと逃げ込んだ。




 そこでようやく俺たちを見失ってくれたのか、閃光の攻撃は止んだ。


 また海中でもないので、キラータートルの気配もここにはない。




「「「…………」」」




 しかし俺たちは逃げることができた安堵感よりも、シキを失ってしまった喪失感の方が大きかった。




「ご、ご主人……」


「大将……」




 二人が、呆然とする俺を心配してか声をかけてくる。




 俺の判断の甘さが招いてしまった結果だ。海中で繋がっている以上、キラータートルたちが先回りすることだって読めたはずだ。いや、そんなことよりもSランク相手に、考えが甘過ぎた。




 後ろから近付けばどうにかなるなんて、普通のモンスターじゃないのだ。そう簡単に死角をつけるわけがなかった。


 もっと綿密に作戦を立てるべきだったのだ。俺にはそうできるだけの力だってあったのに。




 多分……という曖昧な根拠を選択してしまった。




「くそっ……!」




 胸が締め付けられるように痛い。この痛みは覚えがある。


 それは両親が死んだ時に感じたもの。




 それに加えて、自分の短絡的な判断のせいで招いてしまった事実ということもあり、言葉にできないほどの、自分に対しての怒りと空虚感に押し潰れそうだ。


 俺がどれほどシキを大事にしていたかが理解できる。




 そうして大事なものを喪失してしまった不甲斐なさを噛み締めていたその時、氷壁を突き破るようにして一体のキラータートルが出現し、ターゲットである俺に向かって口を大きく開けて突っ込んできた。




 ――ズシュッ!




 しかし直後、目の前のキラータートルが真っ二つに切断された。




「……え?」




 思わず目を見張ったのは、それを為した存在を見たからだ。


 てっきりカザが守ってくれたのかと思いきや、そこには別の者がいた。




 そしてそれは間違いなく――。




「――シキ?」


「ご無事ですか、殿!」


「シキ……シキッ! お前、無事だったのか!?」


「間一髪といったところで影に潜り込んだので」




 そう言うシキではあるが、右手が失われていて、そこから大量の出血が確認される。




「お前その腕!? それに影って……あそこにお前が潜める影なんてなかったはずで……!」




 いろんなことが立て続けに起こった衝撃で、思考が追い付かずに混乱してしまっている。




「大将、とりあえずここも完全に安全ではないようでござる。シキ殿と一緒にさらに奥へと逃げる方が良いでござるよ」


「あ、ああ、分かった。シキ、行くぞ!」




 すぐにその場から離れていき、クレバスの奥へとどんどん突き進んでいく。




 かなりの距離を離したようで、ここまで来ればさすがに追ってはこれないだろう。しかしカザとソルに周りを警戒させつつ、俺はシキの治療をすることにした。








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