第245話 怠惰な亀
「……それにしても綺麗だな」
その姿は絵になっており、いつまでも見ていたいと思わせる魅力がある。
それはオレミアという存在が美しい鳥だからこそだろう。
「だがマジで生きてるのかこれ……」
「殿、間違いないですな。この者からは強い意志を感じます」
「意志?」
「はい。言うなれば生きる意志。絶対に死なぬという気迫が」
シキだけでなく、ソルやカザもそうだと言う。彼らが言うのであればそうなのだろう。俺には残念ながら分からないが。
「しかし大将、どうやってココから出すでござるか?」
「ソルが炎で溶かすですぅ! はぁぁぁぁ~、ぷぅぅぅぅぅ~!」
突然ソルが大きく息を吸い込み火炎ブレスを吐き出した。
炎は氷壁にぶつかるが、なかなか溶けてくれない。
しばらくしてグッタリとしたソルが俺の懐に飛び込んできた。
「ぷぅ……あの氷、嫌いなのですぅ」
「はは……はいはい、お前はよくやってくれたよ」
俺は意気消沈するソルを抱きしめ、その身体を撫でながら氷壁を観察する。
「ソルの炎でも一切溶けてねえな……どうなってんだ?」
普通の氷ならすぐにでも溶けて、オレミアを取り出すことができていたはずだ。
「ふむ……ふむふむ」
カザも気になった様子で、氷壁に触れながら頷いている。そして何か思い至ったようで俺を呼ぶ。
「何か分かったか、カザ?」
「うむ。どうやらこれはただの氷ではないでござるな。この氷自体に強い力を感じる故」
「そうなのか? なら少し調べてみるか」
俺は《鑑定鏡》で氷壁を確認することにした。
すると驚くべき事実が発覚したのである。
「……おいおい、マジか」
「殿、どうされましたかな?」
「ああ、どうやらコイツは厄介なことになっちまったようだ」
「厄介なこと……ですか?」
「聞いて驚くなよ。俺たちがいるこの氷山……………………モンスターなんだよ」
「「「は?」」」
俺の発言に三人が揃って声を上げた直後、グラグラと足元……いや、周囲全体が地震が起きたように揺れ始めたのである。
倒れそうになったところを、シキに支えてもらう。
「ありがとな、シキ」
「いえ、ですがこの揺れは……?」
「多分ソルの炎の攻撃で起きちまったんじゃねえか……Sランクのモンスターがよ」
「「「Sッ!?」」」
続け様の超ド級の情報に、ソルたちもまた声を揃える。
「とりあえず今すぐに離脱だ」
「オレミアはどうするでござる?」
「後だ。このままじゃ、俺たちまで氷漬けにされかねねえ!」
すぐさま《ジェットブック》を出して、猛スピードで氷山からの脱出を図る。
そして入ってきた亀裂から外へと出て上空へと逃げると、ようやくそこで全貌が分かった。
海に浮島のようにポツンと浮いていた氷山だったが、それは周りの氷が溶け出してそうなったわけではなく、懐中に氷山を背負ったモンスターが浮いていただけなのだ。
「あの氷山はあやつの甲羅というわけですな」
シキもまた海中から姿を見せたソイツを見て冷や汗を流す。
それもそのはずだ。そこにいるのはまるで映画にでも出てくるような巨大亀だったのだから。
中東の伝説では、船乗りが島と思って上陸したら、実は巨大な生物だったという話がある。もちろん架空の物語ではある。名前はザラタンとかサラタンとかいうらしい。
「まるで大怪獣そのものだな」
「よもやアレは――『氷雪の怠惰亀・ガラフェゴルン』?」
確かに《鑑定鏡》を覗いた時には、そのような名前が記載されていた。
「知ってるのか、カザ?」
「うむ。ベルゼドアと同じく、最強とされるSランクモンスターの一角でござるよ。ただ姿を見た者はあまりいない」
「何故だ?」
「奴はここのような人気のない氷河地帯に棲息するモンスターでござる。しかも自ら動くことは滅多になく、三年間でたった十メートルしか移動しなかったという例もあるらしいでござるよ。あまりにも動かないその様子から名付けられたのが『怠惰亀』」
三年間で十メートル……? アイツの大きさなら寝返りを打っただけでももっと行くだろうに。まああんな氷山を背負っている以上は寝返りなんか打てねえだろうが。
「にしてもまさかここでもSランクモンスターと対面するなんてな」
「殿っ、奴が攻撃してきますぞ!」
シキの注意が響くと同時に、奴の背負っている氷山が眩い輝きを放った瞬間に、そこから閃光が俺たちに向かって発射された。
「マズイッ、避けるぞっ!」
凄まじい速度で向かってくる光。俺は《ジェットブック》を全速力で動かして回避行動を取る。
しかし閃光は自在に方向を変えられるのか、このままではいずれ捕まってしまう。
俺は目の前にあった氷床へと滑り込み壁にするが、氷の壁は一瞬で消失する。
何て破壊力だよ!? こうなったら!
「お前ら、しっかり捕まって、そんでちょっと我慢しろよ!」
三人にそう伝えると、真下に見えている冷たい海の中へと潜っていった。
それでも閃光は海中にまで襲い掛かってくるが、俺は真っ直ぐガルフェゴルンの真下まで移動していく。
すると光は俺たちを見失ったかのように消えてしまう。
……よし、やっぱ真下には攻撃できないか。
「ぷっ、ぷぷぷぷぅっ!?」
俺にしがみついているソルが口から盛大に泡を噴き出している。
このままじゃソルが溺れちまうな。しかし勢いよく動くと、そこを感知されて、また攻撃を食らうかもしれない。
俺はできるだけ刺激しない程度の速度で浮上し、水面へと出てきた。
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