第244話 氷中の怪鳥
「――見つかったのは良いが、まさか…………【南極】だったなんてな」
俺は受信用の《サーチペーパー》を見ながら大きな溜息を吐いていた。
そこには見つけたオレミアの情報が書かれている。間違いなくベルゼドアが求めている半身だと判断することができた。
ただ情報によると、オレミアはどういうわけか氷山の中で身動きができない状態で見つかったとのこと。
どうやら氷塊の中に閉じ込められているようで、生きているか死んでいるかも分からない状態らしい。ベルゼドアが存在を感じ取っていたことからも、生きているとは思われるが、どうしてそのような状況に陥っているかは定かではない。
「とにかく行ってみなきゃ始まらねえか。イズ、悪いがまた島の管理を任せるな」
「畏まりましたわ、主様。どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」
現在俺は【幸芽島】に来ていた。無論教団の方には《コピードール》をやっている。
島の防衛も含め、ヨーフェルとイオルは残しておき、ソル、シキ、カザを引き連れて、俺は南極へ向かうことになった。
南極はさすがに行ったことがなかったので、《ジェットブック》での飛行となるが、南の果てということもあり、さすがに時速900キロという速度で移動していても時間はかかる。
大体日本から南極までは14000キロメートルくらいあったはず。単純計算でも15時間以上はかかるということ。
しかし嬉しいことに、俺は一度オーストラリアに行ったことがある。日本からオーストラリアまでは約7000キロメートルなので、一気に半分程度の距離を縮めることができた。
そしてオーストラリアから《ジェットブック》に乗って南極まで真っ直ぐ移動を開始する。
問題がなければ八時間くらいで目的地に到着できるはずだ。
「そろそろ寒くなってきたな」
俺は懐からあるモノを取り出す。それは《ポカポカレー》。見た目は普通のカレーなのだが、食べると24時間は体温が下がらずポカポカとした状態が続く。
「腹ごなしにもちょうど良いし、お前らも食べろ」
ソルたちにも寒さ対策と食事を両用させる。これで寒さで身体が動かないということはなくなっただろう。
そうこうしているうちに、ちらほらと流氷が確認できるようになってきた。視線の先には水平線ならぬ氷平線とも呼べる光景が飛び込んでくる。
「こいつはすげえな……!」
俺は南極という場所の美しさに感嘆の溜息を零す。
空は一片の曇りもない快晴が、そしてその下には蒼と白銀が広がっている。
今まで親父に連れられていろいろな場所の景色を見て来たが、ここは別の意味で絶景だった。
すべてが凍り付いた静寂なる世界。生物も限られた者にしか生息を許さないこの氷結の大地は、見る者を圧倒させるだけの存在感があった。
《ポカポカレー》のお蔭で寒さは感じないが、ここは地球で最も寒冷な地域なのは間違いない。
過去にはマイナス90度近く下がった例もあったという。まさしく死の世界。とても人間が普通に暮らせる場所ではない。
だからこそか、その冷徹な表情を見せる南極には別格の美麗さがあるように思える。
「確か日本の南極観測基地って四つくらいあったんだよな。昭和基地くらいしか知らんけど」
観測基地では、地球環境の観測などを行っているらしい。ちなみに昭和基地というのが初めての観測基地だと聞いたことがある。
時間ができたら観測基地も探検してみたいところだが、今はそういう場合でもない。
俺は景色に見惚れながらも、《サーチペーパー》が示す場所へと急ぐ。
すると巨大な氷山が目の前に見えてきた。周囲は極寒の海で固められ、富士山に似たような形の山が聳え立っている。
そんな氷山の麓辺りには縦に亀裂が走っていて、そのまま奥に入っていけるようになっていた。
中に入っていくと、中は洞窟みたいになっており、かなり広大な空間が出来上がっていた。
ただこうして中に入って驚くべき光景が飛び込んでくる。
「な、何だこの生物の数々は……!?」
氷の中に数え切れないほどの動物やモンスターらしき生物が、まるで標本のように収められているのだ。
シキ曰く、中にはAランクやBランクのモンスターもたくさんいるらしく、どれもまだ生命力のようなものを感じるという。
この状態でまだ生きてるってことか……?
一体この氷山は何なのか。もしかしたら……いや、まず間違いなく異世界関連のものだろう。そうでなければ説明がつかない。
ここのどこかにオレミアが……。
どんどん突き進んでいくと、目の前に送信用の《サーチペーパー》がフワフワと浮いていた。ようやく目的地に辿り着いたようだ。
俺たちは《ジェットブック》から降り、滑らないように注意しながら《サーチペーパー》のもとへ向かう。
そして――発見した。
巨大な氷塊……いや、氷の壁の中に埋もれてしまっている怪鳥を。
「コイツが……オレミア?」
翡翠色の羽毛を纏い、大きく翼を広げながら時を凍り付かせている。
金色に輝く眼光は鋭く、動きはしないというのに生命力が伝わってくるほどの迫力だ。
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