第235話 暴食樹の半身
「ただ……そうじゃのう。微かな……本当に微かではあるが、向こうの方からオレミアの気配を感じる」
方角でいえば南西だ。
「しかし不思議じゃ。儂がこうして微かではあるが気配を感じ取ることができているということは、オレミアも同じはず。それなのに何故オレミアは儂のもとへ戻ってこぬのか……」
その理由は、ベルゼドアには分からないようだ。もっとオレミアが近くにいれば、感覚を共有し合うこともできるらしいが。
つまりはここからかなり離れた場所にオレミアは飛ばされたということ。
まあ幸いなのは、オレミアもこの世界にいるってことだな。
もし異世界に取り残されていたら、もうどうにかしてベルゼドアを殺すしかないところだった。いや、まだ大切なことを確認し終わっていなかった。
「なあベルゼドア、もし俺がオレミアを見つけてここに連れて来られたら、浸食を止めるようにオレミアに言い聞かせてもらえるか?」
「……そうじゃのう、儂ももう昔のような気性はない。もしお主が本当にオレミアを連れてきてくれたならば、その願い叶えてやろう」
よし、これで言質は取った。本当に守ってくれるかどうかは分からないが、それでもこのままガチでやり合うよりは可能性はあるだろう。
「分かった。じゃあ急いでオレミアを探してくる。約束は守ってくれよ」
「『ヒュロン』……いや、ニンゲンとの約束か。懐かしいのう」
「……ところでオレミアがどんな鳥なのか聞かせてもらっていいか?」
探す上で、オレミアの情報は必要になる。だからベルゼドアに見た目や性格などを聞き出した。
そして俺は、《ジェットブック》を【幸芽島】に向けて飛ばしながらイズと連絡を取る。そして話の結果、どうなったかを伝えた。
〝――それは安堵しましたわ。少なくとも正面衝突にならなくて〟
〝ああ、心配させて悪かったな。だが時間にあまり猶予はねえかもな〟
〝それはどうしてでしょうか? 別にベルゼドアからは急ぐように言われてはいないのでしょう?〟
〝それはそうだが、いつ人間がベルゼドアに牙を剥くとも限らん。それで怒りを買っちまったら、俺がやることが無意味になっちまう〟
とりあえず大鷹さんたちには、《文字鏡》を通じて、ベルゼドアに手を出さないように伝えておいた。しかしそれもいつまでもつことか。
それに大鷹さんや崩原はともかく、小百合さんたちを止め続けるのは難しいかもしれない。何故ならジャングルの浸食が進んでいけば、次に飲み込まれるのは『乙女新生教』の拠点である教会なのだ。
侵食時間で考えるなら、五日もつかどうか……。
小百合さんたちが拠点を守るために、ベルゼドア討伐に赴くかもしれない。
そうなれば教団は間違いなく壊滅するだろうし、ベルゼドアの怒りを買い、俺との約束も反故にするかもしれないのだ。それだけは避けなければならない。
一応コピードールの鳥本から、小百合さんに、限界までベルゼドアに手を出さないように注意はしておくが、悠長にオレミアを探している暇はない。
俺は前に使用した《サーチペーパー》を使い、そこにオレミアの情報を書き込んでさっそく飛ばした。一枚では何かあったら事なので、とりあえず十枚分を使用した。
イオルをすぐに見つけてくれた実績があるし、きっと見つけてくれるだろう。
そして【幸芽島】に到着すると、イズやヨーフェルたちが出迎えてくれた。
ヨーフェルやイオルたちには、すでにイズから詳しいことは説明されているようだ。
「ヒロさま、ぼくにもできること……ない?」
イオルが俺の服をクイクイッと引っ張りながら尋ねてきた。そんなイオルの頭を優しく撫でつつ俺は言う。
「ありがとな。けど今のところはねえよ」
「……そっか」
どこか寂しそうだ。それほどまでに俺の力になりたいと言ってくれるイオルの心遣いに俺は嬉しくなる。
「今はとにかく《サーチペーパー》がオレミアを見つけてくれるのを待つだけだな。できれば今日か明日中に見つけてくれればいいんだが」
マッハ3以上で飛んでくれるので、すぐにオレミアのもとへ向かってくれるだろう。
しかしもしオレミアが、どこかに隠れていたりしていたら大変だ。
情報を元に分析し、ターゲットがいそうな場所に向かい探してくれるが、オレミアが誰にも見つからないように隠れていたりしたら厄介だ。
一応南西方角にいるということは判明しているが、そこからは手探りで探すことになる。
逆に空を飛んでいたりすれば、すぐに追いついて見つかるだろうから、できればそうあってほしいと願う。
「ですが『森霊鳥・オレミア』……ですか。そのような存在がいたとは、このわたくしも知りませんでした」
「イズの言う通り、私も知らなかったな。『暴食樹』については、その存在は知ってはいたが」
イズに次いでヨーフェルも同じらしい。
またシキやカザもオレミアのことは初耳だったという。
「まさか『暴食樹』が二体一対の存在だったとは驚きましたわ。主様、仮にオレミアが見つかったとしても、素直に主様の言うことに従ってくれるでしょうか?」
「一応ベルゼドアに聞いたところ、性格的には……結構荒いらしい」
「そうなのですか?」
「ああ、しかも人間……っていうか『ヒュロン』に対し、あまり良い感情を持ってねえみてえだ」
「それは……ならば近づくのは姿を変えて?」
「……いや、これもベルゼドアに聞いたが、オレミアは《真贋視》みたいな能力を持ってるらしい。こっちの正体は隠してもバレちまう」
「まあ……厄介ですわね」
その通り。だからいっそのことヨーフェルに、オレミアへの説明を任せた方が良いかもしれない。
「私に、ですか?」
「ああ、エルフならオレミアも話を聞いてくれるかもしれねえからな」
「マスターのお力になれるなら是非もないが……私はマスターなら大丈夫だと思うのだが」
ヨーフェルのその言葉に、他の者たちも頷きを見せる。
「それは何故だ?」
当然俺にはその理由が分からないので聞いてみた。
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