第234話 暴食樹・ベルゼドア

 それにしてもマジでデカイ。いや、デカ過ぎる。




 スカイツリーくらいの高さだと思っていたが、その幅もまた三つほど、超高層ビルが重なったくらいの広さがあるので格が違う。まさに圧巻ともいえる存在感だ。




 ただ対話をするにも、どこに向かって話しかけたらいいのか分からない。


 しばらく大樹の周りをウロウロと飛行していると、




「――――儂に何か用か、『ヒュロン』?」




 突然大樹の方からしわがれたような声音が響いてきた。


 思わず飛行を止めると、俺はゴクリと喉を鳴らす。そして緊張しながらも、静かに口を開く。




「突然すまない。少しあんたと話がしたいんだが、許可を貰えるか?」




 まずはこの申し出を受けてもらえるかがカギだ。問答無用で攻撃してくるような奴なら最悪でしかないが……。




「ふむ。『ヒュロン』と話をするのは何百年ぶりだろうか。いや、一千年以上か? もう定かではないが……酔狂なことだけは確かだな」




 どうやらいきなり戦闘をしてくる様子はなさそうなのでホッとする。




〝主様、それでも発言には十分に注意を。Sランクの中には気性の荒い者もおりますし、何が怒りのツボを刺激するか分かりませんから〟




 イズからのアドバイスに俺は礼を言っておく。




「まずは自己紹介をしたい。俺は坊地日呂。地球人だ」


「はて? チキュウジン? そのような種族は聞いたことがないが。いや……どこかで……」




 コイツは……まさかここが異世界だってことに気づいていないのか?




「失礼、あんたはココがどこだか認識できているのか?」


「ココ? 何を言っておる。ココは我が縄張り――【バルクードの大地】であろう」




 ……やっぱ気づいてねえのか。




「それは違う。よく観察してほしい。ココはあんたがいた場所とは違うんだよ」


「むむぅ?」




 すると大樹の幹がググググと動き出し、そこから目のようなものが一つだけ浮かび上がった。大きな一つ目だ。それがギョロギョロと動き、周囲を観察している。




「……ふむふむ。確かにココは【バルクード】とは違うのう。なればココはいずこか?」


「あんたにとって異世界とも呼ぶべき場所――地球だ」


「チキュウ……異世界じゃと? ……よもや〝道〟が開きおったのか? いや、あれからもうどれくらい経っておる? まさかもうその時が来たということか?」




 何やら一人で訳分からないことを口走っているが……。




「すまないが、俺の話を聞いてほしいのだが」


「……『ヒュロン』よ」


「ちょっと待ってくれ。俺は『ヒュロン』じゃない。ここ地球では、俺みたいな存在は人間っていうんだ。だからそう呼んでほしい」


「ニンゲン……ニンゲンじゃと? ……チキュウ……ニンゲン……そうか、今度はこの儂があやつの故郷へと飛ばされたというわけか」




 ……あやつ?




「ならばニンゲンよ、儂に話があると言っておったが?」


「まずは、あんたが異世界で呼ばれている『暴食樹・ベルゼドア』で間違いねえんだな?」


「うむ、相違ない。ただ『暴食樹』と名乗った覚えはないがのう」




 つまり二つ名は、コイツが自分でつけたものではないようだ。


 俺はコイツが地球のどこに顕現し、現在街の状況がどうなっているかなどを伝えた。




「だからできれば侵食を収めてもらいたいんだ」


「ふむ…………む? すまないがそれはできぬようじゃ」


「何故だ?」


「〝オレミア〟がおらん。これでは侵食を制御することができん」


「オレ……ミア? 何だそれは?」


「〝森霊鳥・オレミア〟――儂の半身とも呼ぶべき存在じゃよ」


「半身……」




 聞けば、そのオレミアという鳥が、いつも傍にいて侵食の力を抑え込んでいたのだという。




 元は一つの存在だったらしいが、一千年以上前に分裂し、大樹と鳥として二体一対で過ごしてきたらしい。




「儂という存在は、そこに在るだけで周囲を侵食してしまう。かつてそれで他のSランクモンスターと衝突し、環境を変えるほどの争いに発展したことがある。しかしある者が、儂の力を二つに分け、半身であるオレミアに侵食の制御を持たせたのじゃ。そうして侵食をコントロールすることが可能となった」


「じゃあその鳥がいなければ侵食は永遠に続くと?」


「その通りじゃ。儂だけではどうにもならん」




 俺はすぐさま《ショップ》スキルと使ってオレミアを調べる。 




 …………いない。




 それにベルゼドアも存在しない。どうやら購入できないようだ。




 くそっ、オレミアがいれば購入できたものを……!




 ただ百億やそこらで購入できたかは定かではないが。




 しかし厄介なことになった。予想以上に話が通じる相手で助かったが、たとえ話が通じてもどうにもならない案件が出てきた。




「……その鳥以外に何か侵食を止める方法はないだろうか?」


「……たった一つだけある」


「それは?」


「儂を殺すことじゃな」


「! ……なるほど、そうか」




 確かにその方法はあるだろう。元を断てば良いってことだ。




「じゃが儂は朽ちるつもりはまだない。まだやらねばならぬことも残っておるでな」




 だろうな。素直に殺されてくれるような奴じゃなさそうだ。そもそも他人のために死を選ぶような奴なんていないとさえ思っている。


 しかもここは彼の世界ではないのだから尚更だろう。




「……もしその鳥が見つかったら、侵食を止めてくれるか?」


「別に構わぬが、オレミアもこの世界に飛ばされてきているのかのう?」


「それは……半身なら感じたりできないのか?」


「ふむ……どうもこの世界が異世界というのは真のようじゃのう。奇妙な波動があちらこちらから飛び交っていて、オレミアの気配を察知しにくくなっておる」




 奇妙な波動? 電波のことか……な? ダンジョン化の影響からか、ネットなどができなくなったが、それでも電波は走っているらしい。




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