第233話 Sランクに会うために
〝……一度コンタクトを取ってみるってのはどうだ?〟
〝はい? コンタクトって……まさか『暴食樹』とですか!?〟
〝ああ、ダメか?〟
〝危険ですわ! 相手は人間なんて栄養としか考えていないような存在なのですわよ! もし主様に何かあったら、わたくしたちは今後どうすればよろしいのですか!〟
〝安心しろって。危ないって思ったらすぐに逃げるつもりだし〟
〝で、ではせめて《コピードール》を使ってくださいまし! それならばたとえ攻撃を受けたとしても安全ですわ!〟
〝いや、多分それだと見抜かれちまうだろうな。相手はSランクだし、下手なことはしない方が良い〟
騙したってことで怒りを買ってしまうのは避けない。少なくともまだ敵対行動はしたくないのだ。
〝で、ですが……〟
〝イズの心配も分かる。だけど『暴食樹』ほどの奴なら対話くらいはできるはずだ。まあ話を聞いてくれるかどうかは分からんが〟
〝やはりオススメできませんわ! 恐らく他の者たちだってそう進言するはずです!〟
彼女たちが俺の身を案じてくれるのは分かる。本当に嬉しいことだ。
しかしながら現時点で、どう対策をすれば良いか定まっていない以上、きっかけとしても『暴食樹』との対話は有りだと俺は思っている。
もしこちらの出す提案を少しでも飲んでくれるような相手なら交渉の余地はあるし、それ次第で島の防衛くらいはできるかもしれない。まあそれでも俺が住んでいた街くらいは捧げなければいけないかもしれないが。
〝もう一度お考え直してください。シキ殿もカザ殿も主様を止めてくださいまし!〟
〝むぅ……しかし殿の決意は固い。こうなれば我々がいくら言葉を尽くそうが無駄ですぞ〟
〝若い時の無茶は買ってでもする方が良いでござるしな。それに最悪でも拙者とシキ殿が傍にいれば、大将だけを逃がすくらいはできるでござろう〟
〝お二人とも!? ……はぁ〟
〝だからイズ、大丈夫だって。仮に死んでも《リスポーンタグ》もあるしな〟
無論死ぬのは怖いし、それで巻き添えになってシキたちが殺されるのはもっと怖い。けれど行ってみる価値はあると俺は思っている。
〝それはそうかもしれませんが……。どうしてもコンタクトを取られるのですね?〟
俺は譲らないという気持ちで「ああ」と答えた。
〝分かりましたわ。ならばわたくしもありったけの知識でサポートさせて頂きます〟
〝ああ、ありがとうな。そういうとこ大好きだぞ、イズ〟
〝だ、だだだだ大好きぃっ!? ああああああ主様、いきなり何を!? そんな……突然告白だなんて……いえ、もちろん嬉しいですし、これ以上ないくらい幸せを感じてしますわ! これはもう婚約したも同然! ええ、ええ、ですから無事に帰って来られた暁には式を挙げましょう!〟
何だか明らかに勘違いして暴走しているイズだが。これ……どうしようか?
〝ま、まあそういうことだから、さっそくコンタクトを取ってみようと思う〟
俺はイズとの連絡を切ると、ふぅ~っと溜息を吐く。
〝殿、これから向かうということで構いませんか?〟
〝そうだな……できれば今夜にでも接触を図る〟
夜ならば周囲からもあまり見られることもないだろうし。
その間まで、何が起きても大丈夫なように準備だけはしっかりしておくつもりだ。
少し怖いが、ここで逃げるわけにもいかんしな。
放置できない以上は、何かしらの対策が必要になるし、結構な正念場になりそうだ。
俺はマジでSランクというモンスターは厄介だなと思いつつ、さっそく入念な準備をし始めた。
――深夜一時。
夜闇が周囲を支配する中、俺は例のジャングルに向けて《ジェットブック》を飛ばしていた。
その上には護衛としてシキとカザの二人がいる。ソルもついて行きたいと言っていたが、もし戦闘になろうものなら、ソルでは瞬殺される恐れもあることから待機命令を出した。
同じようにヨーフェルも俺を守ると豪語していたが、彼女もまだ実力不足ということもあって、泣く泣くソルと一緒に待つことになったのである。
現在俺は、坊地日呂の姿だ。Sランク相手には、なるべく刺激しない方が良いとの判断で、素の自分のまま会うことを決めたのだ。イズもまたその方が良いと後押しをしてくれたこともあるが。
「シキ、カザ、もし戦闘になったらお前らは即座に離脱しろ」
「殿、それでは何のための護衛か分かりませぬぞ」
「うむ、拙者たちは大将を守るためにここにいるのでござるよ?」
「この《リスポーンタグ》は人間にしか効果がねえのは教えたろ? 俺は仮に死んでも復活できるが、お前らはできねえ。それが理由だ」
二人なら全力で逃げ一択を選べば、命からがらでも生き延びるくらいはできるだろう。
「む……しかし」
「納得はしかねるでござるな。守るべき大将を放り出すなど、サムライとして有り得んでござる」
「それがしもシノビとしての義にも反する行為ゆえ」
どうも二人は堅物だ。特に俺の命に関することは。
「ダメだ。これは命令だ。これからもお前たちは俺にとって必要な存在なんだよ。ここで失うわけにはいかない。だから絶対に生き延びてもらう。いいな?」
「「……承知」」
渋々といった感じではあるが、命令ならば仕方ないと首を縦に振った。
「……さあ、対面だ」
目の前に巨大な大樹が見えてきた。
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