第232話 これからについて

〝Sランク……シキ、倒せるか?〟


〝もちろん……と申したいですが、さすがに分が悪いですな。AランクとSランクの間には、それこそ天地の差がありますので〟


〝……カザはどうだ?〟


〝拙者もシキ殿と同様。Sランクは別格にござる。たとえ拙者とソル殿、シキ殿が揃って挑んだとしても十分持てば良い方でござろうな〟




 バカな……! 最早怪物と思えるAランクが二体もいて、その上にBランクも加わるのに十分持てば良い?




 それほどまでにワンランクの差は大きいという。


 だがこのままアイツを放置し続けると、いずれは俺の島にまで影響が及ぶ。




 数年で日本もジャングルと化すし、そこに住む生物も息絶えてしまう。そうなれば商売も上がったりだし、慣れ親しんだ日本が壊滅するのも、できれば避けたい。




〝『暴食樹・ベルゼドア』は、こちらから害を及ぼさない限りは手を出してはこないでござる。しかし一度怒りを買ってしまえば、この街のどこにいても恐らくは一瞬で見つかって始末されるでござろうな〟




 カザ曰く、奴は草や花なども操ることができるという。この街にも至るところに緑は存在する。それらと感覚を共有させ、すぐにターゲットを発見し捕縛するのだという。




 つまり奴はその気になれば、そこら中にある緑を巨大化させて操作し、環境を破壊することもできるらしい。その範囲は東京全土くらいなら余裕で発動可能とのこと。




 何だかイオルの上位互換みたいな能力だな。桁違いの力だな、クソ。




 俺は周囲を見回す。当然雑草などはそこら中に見当たる。これらが巨大化して襲い掛かって来るのだ。たまったもんじゃない。逃げ場なんてどこにもないのだ。




「……大鷹さん、崩原さん、それに小百合さん。仲間たちにあの木に手出ししない方が良いと伝えてください」


「? どういうこった、鳥本?」




 当然疑問に思ったようで崩原が聞いてきた。




「どうも嫌な予感がするんですよ。アレは……人間が手を出して良いもんじゃない」


「でもただの木だろ?」


「あんな得体の知れないものが〝ただの木〟なわけないですよ」


「あーまあそっか。そうだな、お前の言う通りかもしれねえわ」




 崩原も俺の言うことにそこまでの反論はないようだ。何せ地球には存在し得ないほどの巨大な大樹だ。しかもモンスターが棲息するジャングルの中から、今日突如現れたというのだから普通であるはずがないと理解したのだろう。




「だが調査は必要だろうな。しかしまた厄介な問題が浮上したもんだ」




 大鷹さんが、やれやれと大きく肩を竦めながら言う。無理もない。せっかくヤクザ問題が解決したと思った矢先のこれだ。




 さすがにこの状況で、コミュニティ同士がぶつかり合っている暇などないはず。とりあえずは男狩りの件については先送りにできたようだ。それでもいずれは向き合わないといけない問題ではあるが。




 そうして三つの勢力は、突如出現した大樹もそうだが、ジャングルを再度詳しく調査するという方針で動くことになった。




















〝――――なるほど、そんなことがありましたのですね〟




 現在俺は、教会に戻ってきて、自分の自室で【幸芽島】にいるイズに状況を説明し、『暴食樹』について何か知らないか聞いていた。




〝しかしまさか『暴食樹』まで現れるとは。これでまたSランクが一つ。いよいよもって地球人には厳しい環境になってしまいましたわね〟


〝まあな。それで、奴を放置してると、いつか島も被害を受ける危険性が高いだろ? 何とかしたいって思ってるんだがな〟


〝そうですわね……相手はSランク。確かにシキ殿やカザ殿が力を合わせたとて勝ちの目は無いに等しいことでしょう〟




 やはりイズの見解もそうか。




〝やっぱこっちもSランクを購入するか、シキかカザにSランクに上がってもらうか、かな?〟


〝前者の方はともかくとして、後者は少し不安ですわ。ランクアップでSランクになったとしても、元々Sランクのモンスターには見劣りしますから〟




 そう、同じ階級でも、人間と同じく個性や強さも異なる。そしてアイテムでランクアップさせたモンスターは、確実に強くはなるが、同階級のモンスター相手と比べると、ステータスが若干見劣りしてしまうのだ。




 つまりランクアップしてAになったシキは、元々Aランクのカザにはステータスでは劣ってしまっている。




〝まあそれでも武器や作戦次第で勝機は見つけられるとは思いますが……〟


〝できれば勝てる確信は欲しいな。ここでシキやカザを失いたくはねえし〟




 仲間を犠牲にしなければ勝てない作戦なんて実行するつもりはない。俺は全員が生き残る選択肢を常に選び続けたいから。




〝相手は木だし、やっぱり燃やすってのが一番効果的に思えるんだがな〟


〝当然弱点でいうと火属性なのは間違いないでしょう。しかし何度も言いますがSランク。生半可な火力ではビクともしないでしょうね。恐らくソルの火力では……〟




 ソルが吐く火炎は強力だ。前にゾンビの群れを一掃したり、大岩を溶かしたりすることだってできた。




 だがそんなソルの炎でも、Sランクには傷一つつけられない可能性が高い。そう考えると、最早バグ的なバケモノとしか思えなくなってきた。




〝異世界みたいに、都合よく近くに他のSランクの縄張りがあったらいいんだけどなぁ〟


〝残念ながら周辺には『暴食樹』以外は発見されておりませんものね……〟




 前に見かけた空を飛遊していたクラウドホエール。アイツが力を貸してくれたら何とかなりそうだが、面識も無いし、そもそも『使い魔』でもないモンスターが俺の頼みを聞いてくれるとは思えない。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る