第229話 幹部の意見

「あん? どういうこった?」


「この者が倒れていた場所からジャングルの中を辿ってみると、組員らしき者たちの遺体もありました。ただこちらはモンスターに殺されてしまったようで」


「なるほど。つまり部下を引き連れて事務所から脱出したはいいが、部下どもは次々とやられちまった。何とか命からがらジャングルを脱出できたが、何者かに背後から銃で撃たれたってことか」




 大鷹さんの見解を受け、崩原がハッとして口を開く。




「おいおい、それじゃあコイツを殺した奴ってのはジャングルの中にいたことになっちまうぜ? 待ち伏せでもしてたってのか?」


「待ち伏せ……もしくは仲間割れ、か?」


「は? どういうことだよ、旦那?」


「いや、あまりにも無防備に背中に弾を受けてやがるしな。俺だったら後ろを警戒して、モンスターが追ってこないか確かめながら進んでる。けど宝仙はまるで警戒してないみたいに前だけ向いて倒れてる。それは後ろを警戒しなくてもいい状況だったってことじゃねえか?」


「……まあ、そう言われてみれば……」




 崩原も大鷹さんの考えに反論はないようだ。




「何で後ろを警戒せずに進めたか。それは仲間……部下がまだ後ろに残って護衛してたからじゃねえか?」




 まったくもってその通りだ。まるで見ていたかのような分析である。さすがは元傭兵といったところか。




「俺もこういう経験あるしな。頼れる仲間が殿を務めてくれてる状況なら、前だけ向いて突き進むことができる」


「けどその仲間だった奴に後ろから撃たれた? そう言いてえんだな、旦那は?」




 崩原の言葉に大鷹さんは大きく頷きを見せた。




「まああくまでも状況から見て、有り得るってだけだ。元々宝仙闘矢に恨みでも持つ奴が、ジャングルで待ち伏せしてて撃ち殺したってのも可能性としてはあるだろうしな」




 それはどうだろうか。先に大鷹さんが口にした見解の方が、どう考えてもしっくりくるし、後者の考えは弱い。そもそもジャングルで待ち伏せなんて危険な真似を、普通の人間がするとも思えないし、宝仙闘矢がこの場所に来ると予め知っていなければできない芸当だ。




「宝仙闘矢という人間は過激な奴で、周りから結構恨みを買ってたらしいしな。できれば消してえって思ってるヤクザもいたかもしれねえ。もちろん仲間内でも。でも厄介なことになっちまったな。どうするよ、教祖様?」




 面倒そうに頭をボリボリとかきながら、崩原が小百合さんの顔を見ながら続ける。




「トップが死んじまった。まさかさっきの話の続きをすることになるとは思わなかったが、アンタはこの戦争の大将だ。どう終結させるつもりなんだよ?」




 崩原の目が問うている。




 このまま残っているであろう『宝仙組』を根絶やしにするまで追うか、ここで一旦の区切りとし、向こうが動かない限りこちらも手を出さないか。


 大鷹さんも何も言わずに、小百合さんの出す答えを待っているようだ。




「…………奏さん、あなたはどうするべきだと思いますか?」




 常に小百合さんの傍に控えている蒼山に、小百合さんは意見を求めた。


 自分に指名が入るとは思っていなかったのか、少し驚いた様子を見せた蒼山だったが、すぐに真面目な表情で返答する。




「私は教祖様の御心のままに行動なさってよろしいかと。私は……私たちはそれに従うだけです」


「……そう」




 俺の目から見ても、小百合さんはどこか迷っている感じだ。自分で決断するよりは、誰かに後ろから押してほしいような……。




「あなたはどう、加賀屋さん?」




 もう一人の青頭巾にも小百合さんは尋ねた。




「私は後顧の憂いを断つためにも、組員を探し出し駆逐するべきかと思います」




 どうもこっちは過激派だ。さすがは『狩猟派』の責任者か。




「けどこれじゃあ、もう戦争どころの話じゃねえんじゃねえか?」


「貴様は黙っていろ」


「あぁ?」




 加賀屋に冷たく突き放されて、崩原はイラっとし額に青筋を浮かべる。




「おいてめえ、こっちは意見を言ってるだけだろうが」


「貴様の意見など求めていない。教祖様を惑わせるようなことを言うのは止めてもらおう」


「はあ? 一時的とはいえ同盟を結んだ相手に言う言葉かそれ!」


「そもそも先に大将首を獲った側が、今後の行く先を決める権利があったはず。遺体を見つけたのは我々だ」


「別にてめえらが殺したわけじゃねえだろうが!」


「おい落ち着け、崩原!」


「けど旦那!」




 崩原の気持ちも分かる。加賀屋のような言い方をされれば、誰だって腹が立つしな。




「加賀屋さんも、言葉には気を付けなさい。今は身内同士で争っている場合ではありません」


「身内…………分かりました」




 どこか納得いってなさそうな感じだが、それでも加賀屋は身を引いた。


 そして空気が悪い中、小百合さんが静かに言葉を紡ぐ。




「現状を考慮し、こちらからわざわざ打って出るようなことは控えましょう」




 小百合さんの決定に対し、崩原や大鷹さんは納得して頷きを見せるが、やはり反発していた加賀屋は不満そうな表情を浮かべている。




「加賀屋さん、あなたの気持ちも分かります。私たちの仲間にも『宝仙組』の被害者だっています。しかし組の事務所周辺がジャングル化した上、恐らくは身内の裏切りによって殺されてしまった宝仙闘矢。このことから、『宝仙組』はすでに瓦解したも同然でしょう。その配下の者たちもまた、我々を相手にしている余裕などないはず」


「……しかし」


「それに『宝仙組』を根絶やしにするということは、ジャングルに足を踏み入れ捜索するということでもあります。状況は変わったのです。これ以上は無駄に命を費やしてしまうだけ」




 ジャングルにはモンスターがいる。どこにいるかもしれない『宝仙組』の息のかかった者たちを探すために、そんな危険なんて冒せないだろう。下手をすれば探す過程でモンスターに殺されてしまう。






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