第228話 発覚
――翌日。
昨夜、問題なく『平和の使徒』と商談が成立し、また大量の兵器と引き換えに金を得ることができた俺は、朝からご機嫌だった。
そして昼過ぎには、また屋敷にて戦略会議を開くということで、三つのコミュニティが顔を合わせていた。その中には俺もいる。
「じゃあ旦那は問題なく武器は確保できたってんだな?」
「ああ。モンスター相手にも効く強力なヤツだ。けどジャングルの調べがまだついてねえ。中にどんなモンスターがいるか分からねえし、ぶっつけ本番で突っ込むのは危険過ぎる」
大鷹さんは、今すぐ攻め込むのではなく、ジャングルの調査にしばらく時間をかけるべきだと主張。
それについては小百合さんも崩原も理解している。
「けどジャングルの中に『宝仙組』の事務所があんだろ? そこには俺らの目的である宝仙闘矢もいるはずだが、姿は確認されてんのか?」
崩原が小百合さんと大鷹さん両方に視線を向けると、両者ともに首を左右に振る。
良かった。宝仙が死んだことはまだバレていないようだ。
そこへ俺がスッと手を上げる。
「……鳥本? どうした?」
崩原が聞いてきたので、俺は皆が見つめてくる中、静かに口を開く。
「仮にジャングル内に住むモンスターに宝仙闘矢が殺されていたとしたらどうするんです?」
これは当然の質問だろう。その可能性は決して低くないのだから。
「あー確かにな。それってどうなるんだ、旦那?」
「俺に聞かれてもな。そもそもこの戦争の主役は『乙女新生教』だぞ。どうなんだ、田中さん?」
「たとえ上が死んだとしても、向かってくるならば容赦はしません。ですが……」
小百合さんの言いたいことも分かる。こんな状況で、トップを失ったヤクザが攻め込んでくるか判断つかないのだろう。
さすがに頭を失い散り散りになっていく者たちを追いかけてまで殺すのは時間と労力の無駄だ。それに下手をすれば今度こそ本家の『火口組』が動くことも考えられる。
赤桐の話から、『宝仙組』が潰れるのは計画していたことだったらしいから、これで終わればそれ以上何も起きやしないだろう。しかしやり過ぎると本家がどう出るかは分からない。
もし怒りを買って一万人規模のヤクザが教団を潰そうとしてくるなら、それはもうどうやっても破滅の未来しかないだろう。どんなことも引き際が大事だ。
小百合さんもそれくらい予想がついているはず。
「……仮の話をしたところで仕方ありません。今は『宝仙組』と戦争のことを――」
するとその時、慌てた様子で信者の一人が部屋の中に入ってきた。そしてそのまま真っ直ぐ小百合さんに近づき耳打ちをする。
「…………! それは本当ですか?」
それまであまり驚いた様子を見せなかった小百合さんだが、信じられないという面持ちで報告してきた信者を見つめている。
……どうやらカザの奴、上手くやってくれたようだな。
「おいおい、只事じゃねえ感じだけど、一体どうしたってんだ?」
当然崩原が小百合さんの態度に疑問を感じて尋ねた。
もちろん大鷹さんも気になっているようで、彼女に視線を向けている。
小百合さんは「これから向かいますので準備を」と、報告してきた信者に言い、信者は返事をしてから部屋を出て行った。
そのまま小百合さんが神妙な様子のまま、皆の注目を浴びつつ重苦しそうに唇を動かす。
「……状況が変わりました」
「変わった? 何がだ?」
聞き返したのは大鷹さんだ。
「……今しがた、信者たちが例のジャングルの傍で宝仙闘矢と思われる遺体を発見しました」
「「な、何だってっ!?」」
当然驚くだろう。何せちょうどそういう話をしていた矢先の出来事なのだから。
「さ、小百合さん、それは本当ですか?」
俺も寝耳に水といった感じで彼女に尋ねた。
「はい。とても信じられませんが事実のようです。今すぐ確認に向かうつもりですわ」
「だったら俺らも行くぜ! なあ旦那!」
「ああ、奴の顔だって知ってるしな。確認しなきゃならねえ」
こうして三者が揃ってジャングルの傍にある空き地へと向かうことになった。一応信者たちがそこに遺体を運んでおいたらしい。
そしてブルーシートをかけられた遺体の前に俺たちは辿り着き、その亡骸を確認することになった。
「間違いねぇ……宝仙闘矢だ」
崩原が、変わり果てた宝仙の姿を見て、顔をしかめながら発言した。
同じように大鷹も、小百合さんも偽物ではないという確信を得る。
「遺体の状況からして銃で撃たれてたみたいだが……」
「旦那の言う通りだな。背中にも数発。けど多分直接的死因は、額のだろうな」
「てっきりモンスターにでもやられちまったかと思ったが、死んでたのはジャングルの外……なんだよな?」
「そのようです。信者たちがジャングルの周囲を見回っていた際に発見したとのことです」
宝仙の遺体は、昨日と同じ場所、そして同じ体勢でカザに戻しておくように伝えた。無論信者たちが見回ると聞いてから、すぐに発見できるようにしてだ。
「当然信者たちが殺したってわけじゃねえんだな?」
崩原の問いに対し、小百合さんは頷いてから答える。
「身体に弾が残っていましたが、その弾は我々が扱う銃のものではありませんでした」
「そっか……けどだったら一体誰だ? そもそも何でコイツ、一人なんだよ。俺ら……っていうか教団に狙われてるってことは分かってたはずだし、部下を護衛に引き連れてたはずだろ? それなのに……」
「崩原さん、そのことなのですが、この者が一人ではなかったというのは確かのようです」
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