第226話 裏切り
「ただそうなると決着まで長引きそうだしな。いつまでもこの件だけに関わってるつもりはないんだよなぁ」
戦争を長引かせれば、確かに武器商人としてや『再生師』としては儲かるかもしれないが、他にもやりたいことはたくさんある。
新規の異世界人との商談もしたいし、上級ダンジョンを攻略してコアもまた手に入れたい。日本から飛び出して世界に目を向けても面白いし、さらに大きく稼げるルートを作れるかもしれない。
だから長々とここに滞在するのは勘弁なのだ。
こんな時、《コピードール》が俺の能力を完全に再現できれば、複数の俺を各地に送って仕事をこなすのだが、そこまで便利な機能は持ち合わせていない。
「もういっそのことジャングルに火を放って全焼させたらどうだろう」
ただそれだと宝仙闘矢を殺した証が手にできない。やっぱり俺がサクッと拉致して終わらせるか? ニケの時みたいな感じで。
兵器を売って金を回収したあとなら、それなりの金は手に入るだろうし。
そうだ。虎門シイナと連絡が取れて、彼女に仕事を依頼して宝仙闘矢を拉致してもらったってことにすれば。
何て言うかあまりに都合が良過ぎて疑われそうだけどな。
〝ご主人ご主人、大変なのですぅ!〟
〝ソル!? またか! 今度は何があったんだよ!〟
〝事務所から出た宝仙闘矢が、モンスターに囲まれてしまったのですよぉ!〟
〝何だってっ!?〟
何でもジャングル化にビビった様子の宝仙闘矢は、部下たちを引き連れて外へ脱出しようとしているらしい。
襲い掛かって来るモンスターに対し、銃で対抗しているようだが、弾にも限りがあるだろうし、いずれは追い詰められるはずだ。
俺は予めソルに持たせている《カメラマーカー》があるので、モニターを取り出して様子を見ることにした。
そこには確かに鬱蒼と茂った熱帯雨林が広がっていて、ぬかるんだ地面の上で十人程度の男たちがモンスターと戦っている。
すでにモンスターによって何人かは殺されている模様。
ああくそ、何で大人しくしてねえんだ! 状況を見れば下手に動いたら危ねえって分かんねえのかよ!
こんなところで大将首をモンスターに食われでもしたら厄介極まりない。
〝……仕方ない。ソル、不本意だろうがそいつを守ってやれ〟
やはりこの戦争は、小百合さんたちが奴の首を獲って終わらせるからこそ意味がある。まあもうすでに戦争どころじゃないような気もするが。
〝了解なのです!〟
ソルが一般人には目にも止まらない速度で飛行し、次々とモンスターたちを一撃のもとに沈めていく。宝仙たちは、何が起きているのか分からない様子だ。
そしてあっという間に、その場にいるモンスターは全滅し、宝仙は難を逃れることに成功したのである。
「な、何だか分からねえが助かった……んだよな?」
宝仙が呆気に取られながらもホッと息を吐く。部下たちも同様だ。
「と、とにかくここからさっさと脱出しましょう、若」
宝仙に向かって言う大柄の男。調べでは名前は確か赤桐だったはず。
ソルには宝仙が無事脱出するまで護衛するように言う。部下たちに関してはモンスターに襲われても無視して良いと告げた。
何度もモンスターに襲われては、宝仙だけを助けさせ、部下たちはその度に一人、また一人と倒れていく。
そして三時間ほど経ったあとだ。残ったのは宝仙と赤桐だけになっていた。
「おお! 出口が見えてきたぜ!」
ようやく出口らしい場所を見つけたことに、宝仙は喜びからか真っ先に駆け出す。
そして薄暗かった場所から、一気に太陽の光が照らす大地へと足を踏み入れた瞬間、宝仙の表情が凍り付いた。
何故なら森の出口に辿り着いた直後、一発の銃声が響き渡り、それが自分の背中を貫いたことを宝仙が気づいたからだ。
――バンッ、バンッ、バンッ!
立て続けに三発の銃声がし、その度に宝仙の背中から血飛沫が舞う。
ゆっくりと両膝を地面につき、そのまま前のめりに倒れる宝仙。
彼の表情が愕然としたものへと変わり、息も絶え絶えといった感じで虚ろげだ。
そしてモニターを観ている俺もまた目を丸くして固まっていた。ソルでさえもまったく警戒していなかったのだろう。
何せ宝仙を攻撃したのは、彼の直属の部下である若頭補佐――赤桐新吾だったのだから。
〝ご、ご主人! ど、どどどどどどどどうしましょうかぁ!?〟
慌てるソル。その声で俺もハッとなって支持を出す。
〝とりあえず様子見だ!〟
一体何が起きているのか把握するために、ソルには見守ることを徹底させた。
「がっ……な……にが……っ」
地に伏せ、口からも大量の血液を流しながら困惑している宝仙。
そこへゆっくりと近づく赤桐。そんな彼が自らに対して銃を構えている姿を、宝仙はようやく捉えて顔をしかめる。
「あ……か……ぎりぃ……っ、て……めえ……何を……っ!?」
「少し予定では早かったが、まあいいか。ここなら誰にも見られずに済む。ちょうど部下たちも消えたしな」
赤桐が膝を折り、銃口を宝仙の頭部にピタッとつける。
「無様なもんですね、若」
「っ……どういう……つもりだ……?」
「まあ簡単に言うとクーデター……というよりも下克上ですかね。ダメですよ若、他人をそう簡単に信じちゃ」
どうやら赤桐は元々裏切る予定だったようだ。
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