第225話 ジャングル化
「おや、どうやら小百合さんたちが戻ってこられたようですね」
入口の扉が開き、そこから数台の車が入ってきた。
そして車から降りた小百合さんたちが、そのまま建物の中へと入って行く。
今まで戦略会議をしていたはずだ。毎日何時間もご苦労様としか言いようがない。
その表情もどこか疲れが見えるが、彼女もまた自分の居場所を、家族を守るために尽力しているのだろう。
今日の夜には、大鷹さんたちに求められた兵器を渡す予定になっている。これで戦うための武器は揃う。
あとは相手の大将首の場所の想定と、仲間の配置。拠点の防衛方法などの決議だろう。
一応ソルに敵大将である宝仙闘矢の身柄を確認させに行かせている。
もし戦況が危うく、こちらが負けそうになったその時は、少し反則気味だがソルに始末を頼むつもりだからだ。
もっとも恐らくはその心配はないと思っているが。
何せ大鷹さんたちに渡す兵器の数と質は、十分にヤクザ一千人程度を相手取れると考えているから。
さすがのヤクザも、ロケットランチャー部隊が編成されているなんて思わないはずだ。
まあ威力があり過ぎるので、あまり乱発することはできないが、絶対的な牽制にはなるだろう。
〝――ぷぅぅ~! ご主じ~ん!〟
そこへタイミング良く、ソルから《念話》が届く。
〝どうした、奴を見つけたか?〟
〝それがその……大変なのですぅ!〟
〝は? 一体どうしたっていうんだ?〟
何やらただならぬ雰囲気に、俺は思わず身構えてしまう。
〝今、ソルは『宝仙組』の事務所にいるんですけどぉ……〟
一体どんな真実が飛び出てくるか、ドキドキしながら続きを待つ。
〝……ここら一帯がジャングルになってしまっているのですぅ!〟
「…………は?」
「? どうかされましたか?」
「あ、いえ、ごほん! ちょっとくしゃみが出そうな感じがしまして」
つい声が漏れてしまい、朝峰さんに不思議がられてしまった。
「もしかして体調でも悪いのですか? 熱、測りますか?」
「あー大丈夫ですよ。誰かが俺の噂でもしてるってやつですよ」
俺は適当に愛想笑いで誤魔化し、ソルとの会話を続けることにした。
〝どういうことだ? ジャングルだって?〟
〝ついさっきなのです。事務所を監視してたら、大地からうねうね~って木や草がい~っぱい出てきたのですよぉ!〟
まさかここにきてダンジョン……いや、異世界化か。
つまり異世界のフィールドが、事務所周辺に出現したのである。
前に聞いた砂漠化や濃酸の噴水と同じだ。前触れもなく、突然その場所の環境が変貌する。
〝モンスターは? モンスターもいるのか?〟
〝えっとぉ……あ、はい、確認できますぅ!〟
これはまた頭を抱える問題が発生した。宝仙闘矢がいるであろう事務所が、まさかの異世界化。しかも周りにはモンスターもいる。
つまりはこのまま奴らが事務所を拠点にし続けるのならば、小百合さんたちはモンスターがいるジャングルを攻略しなければならないというわけだ。
人間相手ならともかく、モンスター相手はまた戦い方が異なってくる。
「すみません、少し用事ができましたので外しますね」
俺は朝峰さんに告げると、そのまま小百合さんがいるであろう建物へと向かっていった。
小百合さんと会った理由、それはもちろん例のジャングル化についてだ。
当然いまだそのことを知らない小百合さんは、突然の報告に戸惑っていたが、すぐに信者たちを現場に向かわせた。
そしてしばらくして、俺が口にしたことが真実だったことを知ると、タイミング良く崩原と大鷹さんたちも、教会の前へとやってきていたのである。
無論彼らもジャングル化を知って、至急話し合う必要ありと集まったのであろう。
先程帰ってきた小百合さんだったが、すぐにまた車を動かして例の会議場所まで、崩原たちと向かっていった。
俺はというと、ソルには引き続き事務所の様子を監視してもらうことにして、自室であることを調べていたのである。
それは異世界化を止める方法があるのかないのか。そういう便利なファンタジーアイテムがあれば、購入して今回使うことも視野に入れられる。
しかしどうやらそんな都合の良いアイテムはさすがにないらしい。もっとも異世界のアイテムなのだから、異世界化なんていう現象もないだろうし、至極当然とも言えた。
「だが森の中で動くとなるとなぁ……」
余計な遮蔽物も多いし、敵も見逃しやすい。それに完全にサバゲー状態なので、訓練だって必要になってくるだろう。さらにいえばモンスターへの対処も必要になる。
〝しかしそれは向こうも同じなのでは?〟
まあシキの言う通りでもあるんだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます