第221話 三強コミュニティ

 小百合さんと崩原が会談をしてから三日後。




 再び『乙女新生教』の拠点の一つである屋敷で、今度は三つの勢力の代表者が顔を合わせていた。




 『乙女新生教』の教祖――田中小百合。


 『イノチシラズ』の頭――崩原才斗。


 『平和の使徒』のボス――大鷹蓮司。




 この街を代表する武闘派のコミュニティが三つ。ここに集ったのである。




「まずは自己紹介をさせてもらう。俺は『平和の使徒』を束ねてる大鷹蓮司だ」




 それに応えるように、小百合さんもまた大鷹さんに向けて言葉を繋げる。




「初めまして。私は『乙女新生教』の教祖を務めさせて頂いています田中小百合と申します」




 二人の視線がジッとぶつかり、そして大鷹さんが溜息交じりに言う。




「まさか前に保護したあんたがこんなことをしでかしてやがったとはなぁ」


「その節はどうもありがとうございました。あなた方のお蔭で、たくさんの乙女たちが救われました」


「そう思うなら、男狩りなんてすぐに止めてほしいんだがな」




 やはり大鷹さんも、小百合さんたちの行為には納得いっていないようだ。


 まあ平和を望む彼らにとっては、小百合さんたちの行動を認めるわけにはいかないのも事実であろう。




「ではあなた方が、代わりに男たちを始末してくれるのであれば考えますが」


「それじゃ意味ねえだろうが……ったく」




 それに大鷹さんも男だから、そんなことをすれば自殺と同義だ。




「まあいいか。その話はすべてが終わったあとだ。それで田中さんよぉ、今回の同盟の話だが」


「あくまでも一時的な共同作戦というだけですわ」


「っ……」




 つまり今後も仲良く手を取り合う気はないと小百合さんは言っている。


 当然不愉快そうな大鷹さん。




「まあまあ大鷹の旦那、今後のこともヤクザどもをどうにかしてからでいいんじゃねえか?」


「崩原……」


「『宝仙組』っていや、今まで堅気には手を出さないような連中だったけどよ、世界が豹変してからはド汚えことをしてる奴らだ。この街から消す価値はあると思うぜ?」




 元々組長は穏健派で、堅気とも友好関係を結び、争うことなく上手くやってきたという。しかし世界が変わった直後から、徐々に凶悪さを浮き彫りにしてきた。




 簡単にいえば流堂が行っていたことに近い行為をしているらしい。部下を放ち、あちこちから問答無用に食料をかき集め、その際に女を見かければ乱暴を働き、従わない者は殺すと、もうヤクザの風格などどこにもない、ただの無法者と化してしまっている。




 穏健派の組長がそれを止めない、あるいは制御できないほど、組のタガが外れてしまっているのかもしれない。




 そして今、組長が死に、過激な思考を持つという息子――宝仙闘矢が組を背負うことになった。益々組員や、その傘下のチンピラどもは活発化することだろう。




「確かに……俺らのコミュニティにいる奴らの中にも、ヤクザどもの被害者は出てる。何とかしなきゃならねえと思ってたところだが……」


「ああ、野放しにはできねえだろうよ。向こうは銃だって大量に持ってやがるし、このまま大人しくしてるとも思えねえしな。やられる前にやった方が良い。できれば話し合いで解決できりゃそれが一番なんだがよ」




 しかしそう言う崩原も分かっているのだろう。『宝仙組』が話を聞くような相手ではないということが。それにもう死人も出ている。戦争は避けられない。




 ならできる限り短期間で争いを終結させる必要がある。これ以上、この街に被害が出ないように。




「はぁ……まさかヤクザと抗争することになっちまうとはな」




 厄介そうに溜息を吐く大鷹。




「何だよ、どうせ傭兵時代じゃ、もっとやべえ奴らと戦ってきたんじゃねえのかよ」


「それはまあ……そうだが、誰が好き好んで殺し合いがしたいものか。ただまあ……俺も守らなきゃならねえもんが山ほどできたしな。見て見ぬフリはできねえよ」


「ま、旦那のコミュニティが参加してくれるなら十分に勝機はある。例の武器商人なら戦車でも用意できるんだろ?」




 もちろん俺が扮している『死の武器商人』――円条ユーリのことである。




「ああ、奴ならどんな兵器だろうが短期間で用立ててくれる」


「俺らも旦那から武器を流してもらってるけど、できれば直接商談してみてえんだけどな」


「前にも言ったが……がめつい奴だぞ?」




 否定はしない。稼げるならとことん稼ぐ人間だからな俺は。




「少しよろしいでしょうか?」




 そこへ黙っていた小百合さんが割って入ってくる。




「その武器商人という方は信用できるのですか? もしかしたら『宝仙組』とも繋がっている可能性があるのでは?」


「……それは否定できねえな。アイツは金さえ払えば良いって奴だし。ただ聞いた限りじゃ、今までヤクザとの取引はしたことねえらしい」




 まあ俺もたんまりと金を持ってそうなヤクザに焦点を合わせたことはあった。しかし奴らがまともな商談に乗ってくれるとは到底思えないのだ。




 それこそ恐喝や脅迫などを駆使し、さらには拉致監禁してくるような連中だという認識がある。実際はそんなことないのかもしれないが、どうも裏社会にどっぷり浸かっている奴らと交渉するのは覚悟と準備がいる。




 そう考えると、やはりヤクザよりは一般人に対しての商談の方がやりやすいので、そちらを優先しているだけだ。




 まあ拉致監禁に近いことは、すでに小百合さんにやられてるけどな。




 今の自由度は全然高いが、それでもほとんど強制的なものでもあったから。








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