第205話 ヤクザとの抗争

 俺と崩原たちは、一旦館の外へ出て一服することになった。




 小百合さんたちは今、会議室で崩原たちと手を組むかどうか、信者たちを交えて意見を出し合っていることだろう。




「ったく、お前がまさか女だらけの教団の世話になってるなんてな。一体どういう流れでそうなったんだ?」




 煙草の煙を吐きながら、崩原が俺に尋ねてきた。




「まあ、簡単に言えば拉致?」


「はあ?」


「とはいっても逃げようと思えば逃げられたけれどね。ほら、君だって同じようなことを俺にしただろ?」


「? ……ああ、拉致ってそういうことか」




 ここにいる崩原も、俺……鳥本を部下たちに探させていた。そして見つけた部下たちは、半ば強制的に俺を崩原のもとへ連れて行ったのである。




「どうせ稼げる相手がどうか見極めるために、わざわざ懐へ飛び込んだってところだろ?」


「ご名答」


「この守銭奴め」


「褒め言葉として受け取っておくよ」




 崩原は舌打ちをすると、澄み渡った空を仰ぎながら大きく息を吐く。




「あちらさんはどう出ると思う?」


「さあ、命を優先するなら手を組む。そうでないなら断る」


「お前からも説得したらどうだ? 知り合いが無惨に殺されるのは『再生師』としても見過ごせねえんじゃねえのか?」


「死にたがりの人を救おうだなんて思わないよ」


「お前な……」


「それに一人で考えて出した答えじゃない。小百合さんは皆で話し合って答えを出すと言った。それなのに無謀という回答をするなら、しょせんそこまでの組織だってことさ。こんな世の中で、進んで命を投げ出そうとする者に感じる良心はないよ」


「…………そうだな。誰だって今、必死に生きてる。その日食うもんもなくて困ってる連中がいるんだ。少し前じゃ考えられなかったけどな。でも、それでも生きるために、食い繋ぐために人と人が手を取り合って過ごしてる。命を粗末にするような連中なら、確かにそこまでの価値しかねえかもな」




 それに俺はあくまで自分のメリットを考えて行動している。小百合さんたちが間違った答えを選ぶなら、別にそれでもいい。そのまま今度は本当にお暇するだけだ。




 しかし崩原たちと手を組むというなら、これもまた利益にすることができる。


 戦争をするなら相応の準備が必要になるからだ。 




 つまり『死の武器商人』としての活躍が期待できる。それに怪我人が出れば、鳥本としても稼ぐことが可能だろう。


 これは大きな商売になると踏んで、俺はわざわざ仲介役を買っていたというわけである。




「それよりも崩原さんは、ヤクザとの戦争は構わないのかい?」


「構うに決まってんだろ。誰が好き好んでヤクザとドンパチしたがる。けど見て見ぬフリもできねえだろうが。この街で戦争するってんならよぉ」


「『火口組』について詳しいのかい?」


「あ? 別に詳しかねえよ。ただ流堂の奴と繋がってた連中だったし、いろいろ独自に調べたことはある。俺が『イノチシラズ』を立ち上げた時も、少し絡んできやがったしな。しかも組長直々」


「へぇ、面識はあるんだな」




 それにしても珍しい。組長直々に、まだ組織にも成り立っていないような新参者に顔を見せに行くとは。




「ヤクザっつったって、教団の襲撃に遭った『宝仙組』の組長は比較的穏やかな人だったらしいぜ。本人も争いごとはあまり得意じゃねえって言ってたようだしな。まああくまでも噂だが」


「そんな相手が、残虐非道を地で行くような流堂と関わりあったなんてね」


「ああ……流堂と関わりあったのは、組長の息子だ。若頭のな。けど今、組長が死んだってんなら、後を継いでんのはソイツだろうが」


「その息子とは面識あるのかい?」


「ねえな。まあ、ソイツがけしかけた手下どもと小競り合いくらいはあったけどな。多分流堂の手駒として使われてたんだろうが」


「じゃああの時、虎門さんと一緒に、流堂とダンジョン攻略勝負をした際にも『宝仙組』の奴らがいたんじゃないかい?」


「いいや。その少し前に、若頭とは切れてたみてえだ。まあヤクザにとっちゃ、流堂は極道でもないただのチンピラだ。こんな世の中になっちまって、流堂と手を組んでるメリットが見い出せなくなっちまったんじゃねえか?」




 そもそも流堂と組んでいたのは、奴が恐らく金を生む存在だからだろう。崩原曰く、流堂には商才もあったと聞く。というよりは何をやらせても万能で、そこを若頭が目を付けて儲けていたのかもしれない。 




 しかしこの世での金の価値感がひっくり返った。それまで高価とされていたものは、軒並み暴落してしまったのである。


 故に流堂を傍に置いておく理由がなくなったのだ。だからその縁を断ち切った。




「穏健派の組長と違って、若頭は武闘派らしくてな。よく二人は意見の食い違いで衝突してたらしいぜ」


「親子でもそういうことあるんだな」


「だから『宝仙組』は組長派と若頭派に分断されてた。表向きは分からなかったがな」




 一つの組でも一枚岩じゃなかったということだ。




「もしかしたら組長が死んで、一番喜んでるのはその若頭かもしれねえなぁ」




 そう言いながら崩原は、携帯している灰皿に煙草を押し付けた。










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