第198話 救った者と救われた者

「くっ、一体何故武器が!? 新しい武器を持ってくるのよ!」


「し、しかしそのためには門を開くことになります!」




 信者たちは、自分たちだけで殲滅できる自信があったのだろう。だから追加の武器や人員を増やす予定はなかった。だが早々に所持していた武器を失い、それを補充するには門を開く必要がある。




 信者たちは門を開くということは、敵をあっさりと中へ侵入させてしまうことと同義だと考えているのだろう。だから容易に開くことはできない。




「なら直接殺せばいいのよ! そうでしょ!」




 信者たちは、その言葉に従い懐からナイフを取り出して構えた。


 そして信者の一人が、我先にと言わんばかりに崩原へと突っ込んでいく。




「やあぁぁぁぁぁっ!」




 勢いのままにナイフを突き出す信者に対し、崩原は呆れたように溜息を漏らすと、突き出された腕を取って、そのまま捻り無力化してしまう。




「だからちょい待てっつうの。こっちは別に争いに来たわけじゃねえって言ってんだろうが」


「お前っ! 同志を離せっ!」




 当然崩原に向けて人質解放を促す。崩原にしてみれば人質に取っているつもりなどはなさそうだが。




「へいへい、分ぁったよ」




 するとさっさと拘束したはずの信者を解放した崩原に、信者たちも「何故?」という表情を見せ動揺している。


 そんな困惑している信者に向けて崩原は言い放つ。




「お前らの責任者と話がしてえ。『イノチシラズ』のリーダー、崩原才斗が来たって伝えろ」


「!? ……イ、イノチ……シラズだって?」




 一気にざわつき始める信者たち、そして……。




「あの暴虐の限りを尽くし、我らが教祖様や同志たちを苦しめた最悪の組織」


「あん? んだよそりゃ。俺はんなことやってねえっつうの」




 間違いなくそれは流堂のせいなのだが、彼女たちはそこらへんの事情は知らないのだろう。だからすべて崩原が引き起こしたことだと思っている。




「ゆ、許さない! お前の! お前のせいでたくさんの人が死んだ! 私の友達だって!」




 信者たちが次々と怒りの形相で吠え始める。


 さすがに戸惑いを見せた崩原だったが、そこで流堂が起こしたことに気づいたのか苦々しい表情を浮かべた。




「才斗さん、どうも旗色が悪いっすよ。ここは一旦引きませんか?」


「チャケ……けどな、最近の男狩りはコイツらの仕業なんだろ? だったらできるだけ早く何とかしねえとな」


「で、でも……」


「悪いがもう大勢の血が流れちまってんだ。こちとら街を脅かす連中を放置なんてできねえんだよ」




 崩原が、チャケの前に出て身構える。




「そこを通してもらうぜ? 邪魔すんなら力ずくで押通る!」




 重厚な石門だが、崩原のスキル――《衝撃》を駆使すれば余裕で破砕することができるだろう。


 彼もできるだけ暴力には訴えたくなかったようだが、それ以上に切羽詰まっている様子だ。




 信者たちが絶対に門を通さないとばかりに壁のように立ち塞がる。




「……女を殴るのは趣味じゃねえ。そこをどきな」


「どくわけがない! ここは我らが聖地! 男なんかに荒らされてたまるか!」




 信者たちの意思は固い。たとえ攻撃に巻き込まれたとしても、何が何でも門を死守するつもりのようだ。




 双方、互いに譲らず沈黙が流れる中、驚くことに門がゆっくりと音を立てて開き始めたのである。


 そしてそこから姿を見せたのは、他の信者を引き連れた小百合さんだった。




「!? あ、あんたは……っ!?」




 小百合さんの顔を見て目を丸くしたのはチャケだった。どうやら見覚えがあるらしい。




 そういえば彼には流堂が拉致した女たちを監禁している場所へ向かわせた過去があった。そこには彼の彼女も捕まっていて、そのせいでチャケは流堂のスパイとして崩原を裏切っていたのである。




 しかし俺が手を貸したことで、スパイから抜け出し彼女も無事救出することができた。もしかしたらその時に小百合さんに会ったのかもしれない。




「お久しぶりですね。確か上田美優さんの……?」


「あ、そうっす! けど何であそこにいたあんたがこんなとこに……」


「チャケ」


「はい? どうしたんすか、才斗さん?」


「周りを見ろ。その女が恐らくコイツらのリーダーだ」


「!? ま、まさかそんな……! ほ、ほんとなんっすか?」




 チャケはいまだ信じられない様子で、小百合さんの方を見やる。気持ちは分かる。小百合さんがまだ比較的マシな頃に会ったというなら、とてもじゃないがこんな男狩りをするような組織のトップに立つ人物には見えないだろう。




「あの時、私たちを救ってくれた『平和の使徒』の一員だと思っていましたが、あなたは違ったのですね」


「あ、うす。俺は元から『イノチシラズ』のメンバーなんで」


「『イノチシラズ』……」




 小百合さんが凄惨な過去を思い出したのか、その表情が陰ってしまう。




「教祖様! アイツらなんですよ! アイツらのせいで私の家族は殺されました! 私だって……私だって……うぅ」


「そうです! ここにはいない者たちの中にも、アイツらの被害者がたくさんいます! 教祖様もそうだって聞きました!」


「今すぐ処刑する許可を!」




 小百合さんに崩原たちの始末を求める信者たち。




「ちょっと待てよ。俺らがアンタらの家族を殺した? どういうこった? 俺らは堅気に手なんか出しちゃいねえぞ!」




 チャケが堪らず声を荒らげる。




「黙れ男! 『イノチシラズ』が私たち女にやってきたことを知らないなんて言わせないぞ!」


「いや、マジでそんなこと俺らはしてねえって! だから話を――」




 必死に説得しようとするチャケの前に手を出して制止させる崩原。








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