第197話 懐かしき男たち

「おお、確かにこれは面白い。カチコチだな」




 まるで石を叩いている感じだ。




 なるほど、《強化》か。これはかなり良いスキルだな。今までで一番手にしたいものかも。




 単純明快な能力だからこそ使い勝手が良い。これならば使い方次第で、どんな状況にも対応することができそうだ。




「ありがとう。貴重な体験をさせてくれたお礼に良かったらどうぞ」




 俺は《ボックス》から、手乗りサイズのパンダのぬいぐるみを出した。




「えっ!? い、今どこから……!?」


「はは、さっき報酬を収納したんだ。収納した場所にあるコレを取り出しただけだよ」


「ほぇ~、便利ですね」


「まあね。どうする? コレいるかい? まあずいぶん前にクレーンゲームで取った景品で良かったらだけど」


「あ、その……いいんですか?」


「ここに置くよ。良かったらどうぞ」




 俺はテーブルの上に置いて、再び距離を取る。無暗に沙庭には近づかないように注意している。大声を出されたり泣かれたりしないためだ。


 沙庭はぬいぐるみをその胸に抱くと、「えへへ」と少女らしい笑みを浮かべる。




「可愛い。ありがとうございます、鳥本様!」


「別に呼び捨てでいいよ」


「そんな……『神の御使い』様ですし……」


「いやいや、だからそんな大層なもんじゃないってば。まあ、好きにしてくれ。それとそろそろ行ってあげたらどうかな?」


「あ、はい! で、では失礼します!」 




 沙庭が一礼をすると、サッと踵を返したので、その隙に《鑑定鏡》を取り出して即座に彼女を覗き込んだ。


 そこには確かに彼女が《強化》のスキル持ちだということが示されていた。




 確認したあとは、すぐに《鑑定鏡》をポケットにしまい込む。




 そして沙庭が扉を開き、またこちらに一礼をしてから去って行く。


 俺は〝SHOP〟を開いてスキル欄を見てみた。




「うん、これでいつでも《強化》のスキルを購入することができるな」




 そこには沙庭の所持しているスキルがアップデートされていた。




〝これでもうここにいる必要がありませんな〟


〝ああ。目的は達した。わざわざこんな大それた部屋まで用意してもらったのはちょっともったいないけどな〟


〝しかしいつまでもここにいると、他の商売ができかねます〟




 シキの言う通りだ。俺は『再生師』としてだけの商売をしているわけじゃない。そろそろまた『平和の使徒』からの要請もあるだろうし、他の異世界人たちとの交渉も進めたい。




 それにまた上級ダンジョンを攻略して、ダンジョンコアをゲットするのも良い。あれは売れば十億の値がつくし、そうでなくともダンジョンを作って経営するのもまた良い。




 いろいろやりたいことが多いのだ。いつまでもここに居続けるなんて無駄な時間を過ごしたくはない。


沙庭が持つスキルを確認することができたし、もうここにいる理由はなくなった。




 だからすぐに離れようと思ったのだが……。




〝大将、数台の車がこっちに向かってくるでござるよ?〟




 突然カザからの情報が入った。




〝車? 『乙女新生教』のやつじゃないのか?〟


〝どうも違うようでござる。運転手は男のようなので〟




 うん、確かにそれは違うだろう。小百合さんは、男も自分たちの利益になるようなら執行猶予を与えるとは言っていたが、まだ発足して間もないはずだし、運転手に使うとも思えない。




 なら他の勢力であることが考えられるが……。




〝どうやら女たちも車が近づいてくることに気づいたようで、警戒態勢に入ったようでござるよ〟




 カザ曰く、門のところに武装した乙女たちが集まっているとのこと。


 この敷地内には、周りを見渡せる塔が建っているので、そこの監視役から通達されたのだろう。




〝どうするでござる、大将?〟


〝少し様子を見るか。帰るのも確認してからで遅くないだろうしな〟




 一体こんな女所帯に誰が何の用で近づいてくるのか、少し興味があった。


 俺は部屋の鍵をしっかりとロックすると、《ボックス》からモニターを取り出す。




 昨夜、カザとシキによって、この敷地内の幾つかに《カメラマーカー》を仕掛けてもらったのだ。


 これでいつでもモニターを通して現場を確認することができる。




 さてさて、一体どんな連中が来たのやら。




 半ばドラマでも観る感じで寛ぐ俺。


 そして門の前にはこちらに向かってきていた三台の車が停止した。


 するとそこから降りて来た人物の顔を見て、俺は思わずギョッとしてしまう。




「アイツは――――チャケ!?」




 チャケこと、茶頭家成。彼は『イノチシラズ』のリーダーである崩原才斗の腹心だ。俺とも面識がある。とはいっても、鳥本と虎門の二人ではあるが。




 何で奴はこんなところに現れたのか……。




 するとチャケは、子分らしき者たちを従えて門へと近づいていく。




「それ以上、ここへ近づくな!」




 固く閉じられた門の前に立ち塞がるは、銃を持った信者たち。




「ちょ、落ち着いてくれ! 俺らは別に戦いに来たわけじゃねえ! 話し合いに来ただけだ!」




 チャケが両手を上げて、戦う意思がないことを示している。




「話し合い? 男がのこのこやってくるとは良い度胸ね。ここで全員始末してやる!」




 皆が銃を撃つべく引き金を引こうとしたその時だ。




「――《空破》」




 そんな声とともに、信者たちが持っていた武器が一瞬にして砕けた。




 お、今のはまさか……!




 一番奥に停められた車の傍には、いつの間にかもう一人の男性が立っていた。




「ったく、いきなり発砲しようなんて危ねえ女どもだなオイ」




 背中に悪一文字が刻まれた羽織を着こむその男こそ、『イノチシラズ』を背負って立つ崩原才斗であった。




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